SI業界のエンジニアが陥りがちな「3つの地獄」

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2020年04月08日 07:02  @IT

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 複雑怪奇なIT“業界”を解説する本連載、第1弾はIT業界にまん延する多重下請け構造と偽装請負について、第2弾は多重下請け構造が起こる仕組みについて、第3弾はシステム開発プロジェクトには複数の契約形態が混在することを、第4弾はユーザーはなぜプロジェクトに協力したらがらないのか、第5弾は「案件ガチャ」が起こるメカニズム、第6弾はベンダーの営業が安請け合いする理由、第7弾ではエンジニアの年収が上がらない理由、では第8弾と第9弾では、偽装請負の恐怖について解説しました。



【こわーい、こわーい 3つの地獄】



 今回は、SI業界のエンジニアがボーっとしていると陥りがちな「3つの地獄」のお話です。



●エンジニアのふ化率は、天然サケより低い



 ITエンジニアが不足している、という話を何年も前から耳にします。経済産業省が発行したIT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果では、「IT人材の不足、は2020年に約36.9万人、2030年には約78.9万人」と予測されています



 でもね。私は、こう思うのです。エンジニア不足が問題なのではなく、エンジニアが育たないSI業界構造が問題なのでは……と。水不足といいながら、穴の開いたダムにジャンジャン雨が注ぎ込まれているのを放っておいている、そんな印象です。



 日本では、エンジニアの約7割がSI業界で働いています。ですがその大半が「開発する」という経験を十分積めず、「エンジニアの卵」のまま。エンジニア未満の力量と収入のまま40代になり、営業への転向を余儀なくされてしまったり、転職してしまったりする例が後を絶ちません。



 経験2年以上のエンジニアを年間300〜400人くらい面接している弊社人事の市場感によると、Webシステムの開発を本当に経験している人は応募者のだいたい3分の1くらいだそうです。約7割がエンジニアの卵のまま終わってしまうという、天然サケと同じくらいのふ化率です。



 申し遅れました。私、「情報戦略テクノロジー」の稲葉と申します。連載第4回「案件ガチャはなぜ起きる」で、SI業界のエンジニアが良い案件に恵まれず育たない原因はスキルシートにある、というお話をいたしました。今回はもっと大枠、エンジニアが育たない原因はSI業界の環境や構造にあるのではという視点でいろいろ調べて分かったこと、また攻略法について考察、整理しました。



 これからエンジニアになろうと考えている方、またエンジニアになって何年もたつのに成長できない、給与が上がらないと感じられている方の参考になれば幸いです。



●エンジニアを成長させない「3つの地獄」



 結論からお話しします。エンジニアが成長できない理由は、SI業界約2万社の多くが「エンジニアを成長させない3つの地獄」のどれかだからです(イメージを明確にするために地獄という表現をしますが、会社が悪いわけではない……というお話は後ほど)。



 3つの地獄を紹介します。



1 運用ループ地獄



 プログラミングの必要がない、エンジニアでなくてもできる、運用保守作業を延々と繰り返す地獄



2 スキルが上がらない塩漬け地獄



 1つの案件から抜け出せず、その案件で使うスキルしか身に付かない地獄



3 やりたいことができない地獄



 得たいスキルを身に付けられる案件に永遠にたどり着けない地獄



 未経験からエンジニアになろうという人が捕まりがちなのが「1」、そこから頑張って抜け出しても「2」「3」の地獄が待っています。その結果、7割のエンジニアがふ化せず終わってしまいます。



 次に、なぜこのような地獄が生まれてしまうのかをお話ししましょう。



●3つの地獄を産んでしまう「営業の力学」



 「1」「2」「3」の地獄が産まれる理由は、会社に成長できる案件がないためです。成長できる案件がないのは、営業が取ってこないから……ですが、それには理由があります。



 SI業界の営業の多くは、以下3つの仕事に追われています。



A トラブル対応



B プロジェクトに必要なスキルを持つエンジニアの提案



C エンジニアが希望するスキルアップ案件探し



 「A」と「B」は営業としてやらなければいけないことで、ほぼこの2つで手いっぱいになります。特に「A」にかける工数は、営業1人が担当するエンジニアの人数が増えれば増えるほど多くなり、20人以上になると「A」だけでいっぱいになります。実際、「A」「B」だけで毎日終電まで働くSI業界の営業は少なくないようです。



 そのため、後回しにせざるを得ないのが「C」です。「A」「B」に忙殺されているため、エンジニアが希望するスキルアップ案件を探す時間と余裕が営業にはありません。



 エンジニアの希望通りの案件を見つけるとなると時間がかかり、他の仕事に支障が出ます。さらに、今エンジニアが働いている案件を抜けさせるのは至難の業です。下手をすれば、クライアントとの関係性が崩れてしまう恐れもあります。「C」は営業にとってリスクしかない仕事になりがちです。



 この悪循環は営業を責めても解消しません。残された道は一つ、エンジニアが自身で地獄を見極め、回避する視点を持つことです。



●3つの地獄の見極め方



 3つの地獄は、求人広告や紹介会社の情報では見分けがつきません。見極めポイントは他のところにあります。



○1「運用ループ地獄」の見極め方



 未経験者が一番ハマってしまう「運用ループ地獄」の正体は、プログラミング経験が不要な運用案件をメインで扱っている会社です。未経験者を大量に集め、運用案件に送り込んでいます。



 開発案件希望なのに、営業から「未経験だからまずは運用案件で経験を重ねて、慣れたら開発できる案件にいこう」と言われ、運用案件に入る。そして約束はほごにされ、同じ案件に閉じ込められっぱなしになる……という話が多いのです。まさにアリ地獄の運用ループ地獄です。



 就転職の際にこの地獄の見極めポイントは、2つです。



a 毎月大量採用している



 常に求人を出していて「未経験大歓迎」「即日内定」とアピールする会社は地獄である可能性が高いです。それが大手で、研修が充実していて、Webサイトがしっかりしていたとしても、実は巨大な運用ループ地獄である可能性があります。証拠に、こうした大手出身の転職者ほどスキル、開発経験が伴っていないことがよくあります。



b 売上高÷社員数=単価が低い



 「a」で見分けがつかない場合は、社員1人当たりの売上単価を算出してみてください。1000万円以下の会社は、運用ループ地獄の可能性が高いです。エンジニアの単価が低いということは、報酬が安価な運用案件しかやっていない可能性が高くなるからです。



 開発案件もやっている会社は少なくとも売り上げ1000万以上、2000万円以上になると優良な開発案件がそろった会社である可能性が高くなります。Webサイトに売り上げが記載されていない場合は、直接聞いてみてください(教えてくれなかったり、はぐらかされたりしたら、それはお察しです)。



○2 「スキル上がらない塩漬け地獄」の見極め方



 開発案件に入れたとしても、ずっと1つの案件から抜けさせてもらえず、同じスキルしか身に付かない会社が「スキルが上がらない塩漬け地獄」です。



 見極めポイントは、こちらも2つ。



a クライアントの数が少ない



 案件から抜けさせてくれない会社の傾向の一つとして、クライアントが少ない傾向があります。クライアントが少ない会社の営業は「このクライアントがダメでも他を当たればいいや」と考えられないので、エンジニアをそのクライアント案件から抜けさせられません。



 見極め方はWebサイトなどで取引先をチェックすることです。10〜20社は少ない、30社くらいが普通で、それ以上あればまずまずという相場観です。



b 自社製品の数が少ない会社



 自社製品開発の求人も、この地獄である可能性があります。



 製品が1つしかない会社だと、同じ製品の改修、運用を繰り返すことになるからです。自社製品開発をしている会社に入るなら、1つではなく、さまざまな製品を次々と開発している会社をお勧めします。いろいろな技術の開発経験を積むことが可能になるからです。また、その製品が古い技術で作られていないかもチェックしてください。開発で入れても得られる技術が古いものに限定されてしまえば、成長の幅は減ります。



 ただし、複数の製品を開発していても、自社製品開発の会社には応募がたくさんくるので、未経験の人は運用保守に回されがち、というリスクは踏まえておいてください。



○3 「やりたいことができない地獄」の見極め方



 「1」「2」の地獄を回避し、そこそこ開発経験を積めたエンジニアに待ち受けているのが、「3」の「やりたいことができない地獄」です。開発経験を積むと、次にやりたい案件の条件が明確になってきます。ですが、その希望案件に就けずにもがき苦しむ地獄が“漏れなく”待っています。



 “漏れなく”というのは、この地獄の正体は会社ではなく、エンジニア自身だからです。



 SI業界の営業は多くの場合、「A トラブル対応」「B エンジニアの提案」に追われており、「C エンジニアが希望するスキルアップ案件を探す」に工数をかける余裕がありません。この現状を十分に理解していたとしても、エンジニアにとって営業は自分の将来を阻害する存在になってしまうという事実に変わりはありません。いつしか「営業がダメだから俺はやりたいことがやれないんだ……」というモヤモヤでいっぱいになります。



 「悪いのは自分ではなく他人」と考え出すと、努力や勉強をする意味を見失い、営業を責めるようになります。すると信頼関係がボロボロになり、希望する案件を探してもらえず、やりたいことができない地獄が始まります。



 転職しても同じことが起きます。なぜなら、業界の悪循環を作る営業の力学はどこに行っても変わらないからです。



 心掛け次第でどうにかなりそうな話ですが、実はこの「3」こそが一番被害者を産んでいる地獄です。



●プログラミングスキルよりも



 SI業界のエンジニアが成長を重ねていくことがいかに難しいか、お分かりいただけましたでしょうか。就転職される際は、見極めポイントを参考にしてください。そしてもう一点、お伝えしたいことがあります。



 元も子もない話ですが、結局、どの会社に入っても大なり小なり地獄が待ち受けています。ではどうすればいいのでしょうか。



 地獄から生還することです。生還するためには何をすればいいのか。営業に優しく圧力をかけることです。営業は数字に追われ忙殺されています。そんな中、希望する案件を獲ってきてもらうためには、エンジニアの側から粘り強くコミュニケーションを取り、営業を動かすことが必須です。



 難しい、と思われるかもしれません。いえ、追い風はエンジニアに吹いています。エンジニアが圧倒的に不足している状況で、立場が強いのはエンジニアです。極論「やりたい仕事ができないなら辞める」と言って、動かない営業はほぼいないはずです(もちろん言い方は気を付けなければいけませんが)。



 エンジニアの方から、牛丼屋さんで「ツユダク、ネギダク、ご飯少なめ」と頼める程度のガメツさでコミュニケーションを取り続けることだけ。実際、地獄から開発案件にたどり着き成長できたエンジニアは、営業とのコミュニケーションを積極的に取っていた人たちです。



 ほんのちょっとのコミュニケーションをサボらなかったかどうかだけで、地獄にも天国にもなってしまう……書いていながら、これはエンジニアに限らず他の職業にも当てはまることでもあるなと胸が詰まる思いでした。全ての人の人生に立ちふさがる壁なのかもしれません。



 みんなで、頑張りましょう!



●稲葉徹



情報戦略テクノロジー 未来創造室 広報



SI業界の変革に本気で取り組む情報戦略テクノロジーの広報マン。100%ユーザー企業との取り引きを実現している会社だからこそ認識している業界の問題点と解決策を「分かりやすく伝わる化」することで業界改革の一端を担っていきたいと考えています。


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