自殺した近畿財務局職員の遺書公開…そもそも「森友学園問題」はどう始まったのか

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2020年04月08日 08:00  AERA dot.

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写真森友学園が建設していた小学校の校舎やグラウンド=2019年3月29日午後、大阪府豊中市 (c)朝日新聞社
森友学園が建設していた小学校の校舎やグラウンド=2019年3月29日午後、大阪府豊中市 (c)朝日新聞社
「財務省による公文書改ざん」をめぐり、改ざん作業を強いられ、自ら命を絶った近畿財務局職員の遺書が初めて公開された。遺族は国と佐川宣寿・元財務省理財局長を提訴し、改ざんの詳しい経緯が明らかにされることを望んでいる。

 朝日新聞取材班が出版した『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)には、森友学園の国有地取引をめぐる問題から「公文書改ざん」に至るまでの取材記録が詳細に記されている。民主主義の根幹を揺るがす事態にまで発展した問題の、そもそもの「きっかけ」とは何だったのか。森友問題の端緒となる事実を掘り起こしスクープした、朝日新聞大阪社会部記者の吉村治彦が振り返る。

*  *  *
 もう3年も前になる。森友学園への国有地売却に絡む問題を最初に報じたのは、2017年2月9日付朝刊だった。きっかけはその数カ月前の夕方、当時私が支局長を務めていた豊中支局(大阪府豊中市)に、取材先の女性からかかってきた、1本の電話だった。

「豊中市が以前、公園用地として取得を希望して断念した国有地が、ある学校法人に売却されたようだ。しかも財務省が売却金額を非公表にしている」

 学校法人は森友学園。その土地で小学校の開設を目指していて、名誉校長には安倍晋三首相の妻の昭恵氏が就任していた。背景はよく分からなかったが、「何かありそうだな」と素朴な疑問から取材を始めた。

 財務省近畿財務局に取材してみると、公共目的での利用で土地を売却する「公共随意契約」で、少なくとも過去3年間で価格を非公表にしているのは森友学園だけとのことだった。「学校運営に影響するので非公表にした」となんとも不可解な説明で、担当者は明らかにこちら側の取材を警戒している様子だった。

 旧大蔵省理財局の通知では、公平性の観点から、国有地の売却価格は公表が原則とされている。国有地を購入して価格を公表されていた他の学校法人や社会福祉法人の担当者は「財務局からは、『国有財産なので公表しますね』と言われた」などと取材に答えた。売却価格を非公表にしたうえ、十分な説明もしない財務省の対応に、「何かおかしなことが起きている」と記者魂に火がついた。売却価格の開示を求めて財務省に情報公開請求もしたが、やはり非公開とする決定だった。

 情報公開請求と並行して、国有地売却の際に開かれる財務省国有財産近畿地方審議会の過去の議事録や不動産登記などの資料を集め、地元の行政関係者や学校関係者への取材を重ねた。当初は10年以内の売買を約した定期借地契約だったが、その後、10年間の延納(分割払い)での売買契約に切り替わっていた。公共用に利用されない場合に国が土地を買い戻す特約が付されており、買い戻し特約の売買代金は「1億3400万円」と注記されていた。特約は売却価格と同額なのが通例だ。

 森友学園が購入する6年前、豊中市は学園が取得した用地の東隣にあった、ほぼ同じ広さの国有地を購入していた。価格は14億2300万円。不動産鑑定士による評価額で、学園が取得した土地も路線価からみて10億円は下らないと推測できた。買い戻し特約の売買代金1億3400万円が売却価格だとすると、あまりに安すぎる。

 購入した本人に事実関係を確認するしかないと、大阪社会部で同僚の飯島健太記者(現テヘラン支局長)と2人で、学園の籠池泰典(やすのり)・前理事長に直接取材することにした。電話で学園に申し入れたが、「悪く書かれるので結構です」と職員に断られたため、17年2月6日に、園児たちが帰ったころを見計らって、事前の約束無しで学園の幼稚園を訪問した。

「何かアポ無しやね」。そう言いながらも、籠池前理事長は取材に応じた。戦前・戦中の教育の根本理念となった「教育勅語」が掲載されている学園のホームページなどから、前理事長は先鋭的な保守思想の持ち主だと把握していた。しかし、本人と言葉を交わした印象は「ふつうの大阪のおっちゃん」。取材に関西弁でぽんぽんと答えた。こちらが登記簿謄本を示し、買い戻し特約の売買代金は売却価格と同額が通例だと指摘すると、前理事長はあっさりと売却価格は1億3400万円と認めた。価格決定の経緯も尋ねたが、「価格は国が決めた。こちらから提示していない」などと話した。

 朝日新聞が問題を報じると、財務省は籠池前理事長の了承を得たとして、売却価格を一転して公表し、土地の鑑定価格約9億円からごみの撤去費として約8億円を差し引いたことを明らかにした。疑問は本当に8億円分のごみが埋まっているのかどうか。すでに国の費用で約1億3千万円をかけ、コンクリートの廃材などを撤去していたことも判明した。近畿財務局は問題が大きくなると、「財務省本省に問い合わせを」と取材を拒否するようになった。

 大阪社会部の同僚記者らの粘り強い取材で、厳しい財務状況や教職員の不十分な態勢といった森友学園についての疑問点も次々とあぶり出した。また、国などへの補助金申請に絡み、虚偽の建築費を届け出た可能性があることも突き止めた。籠池前理事長は小学校の建設を断念し、用地は特約に従って国に買い戻された。

 その後、籠池前理事長は国の補助金を詐取したなどとして妻とともに大阪地検特捜部に逮捕、起訴された。夫妻は当初、安倍首相を熱烈に支持していたが、問題発覚後に首相が籠池前理事長を「非常にしつこい」などと突き放すようになると、政権批判に転じた。

 裁判でも「国策捜査だ」などと特捜部を批判したが、大阪地裁は今年2月、籠池前理事長に懲役5年、妻に一部の起訴内容を無罪としたうえで懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡した。夫妻と大阪地検の双方が控訴し、法廷闘争は当面続く。

 一方、判決に先立つ18年3月、朝日新聞の報道により、財務省が森友学園との国有地取引の際に作成した公文書を改ざんしていたことがわかった。国有地取引をめぐっては、籠池夫妻と昭恵氏が国有地の前で撮影した写真を籠池前理事長が近畿財務局に提示し、「いい土地ですから前にすすめてください」と昭恵氏から言われた、と伝えていたことが改ざん前の公文書などで明らかになった。

 籠池前理事長は昨年2月、朝日新聞の取材に「写真はとどめ。財務省のギアがひとつ変わったんじゃないですか。ガッと」と証言した。

 なぜ財務官僚は改ざんに手を染めたのか。取材班で当時の近畿財務局の担当職員らに接触を重ねたが、みな一様に口は堅く何かにおびえているように感じた。国有財産を扱う管財部門に所属していた複数のOBにも取材した。OBたちは「私たちは誤字脱字でも、決裁を取り直して決裁権者に回すと教育された。僕らの常識を覆すことが行われていた」「公文書改ざんは、常識で考えたら刑法にも触れる話。公務員だけで決断したのか、疑問が残る」などと語った。

 現役時代は取材拒否だったが、退職直後に応じてくれたあるOBは「直接改ざんに携わった職員は悩んでいるふうに見えた。現場としてはじくじたる思い。改ざんは、本省が(自分たちの)説明やストーリーに沿うようにしたかったからじゃないか」と打ち明けてくれた。

 しかし結局特捜部は、佐川宣寿・元財務省理財局長を始めとして、告発された財務省関係者ら38人についての背任や虚偽有印公文書作成など、全ての容疑で不起訴にした。

 国有地には校舎や体育館になる予定だった建物が残されたままだ。値引きの根拠とされた地中ごみの写真には、野党議員から「不鮮明で根拠にならない」と疑義が出ており、問題の決着はまだついていない。そして公文書改ざんも全容は明らかになっていない。真相を求め、今後も取材は続く。(朝日新聞大阪社会部・吉村治彦)

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このニュースに関するつぶやき

  • 野田中央公園からでしょ(´・ω・`)
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  • どう始まったか?ミンス政権時代の野田中央公園からでしょ(笑)
    • イイネ!29
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