『エール』薬師丸ひろ子の母としての強さ 「女、子供」の関内家に待ち受ける試練

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2020年04月09日 12:02  リアルサウンド

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リアルサウンド

『エール』写真提供=NHK

 音(清水香帆)を中心とした関内家の幸せな日々に、急転直下、これ以上にない不幸な出来事が起きた、NHK連続テレビ小説『エール』第9話。父・安隆(光石研)の急逝だ。


参考:【場面写真】いよいよ窪田正孝が登場


 大阪で子供を助けるために、電車にはねられて亡くなってしまった安隆。あまりの突然の出来事に、死から1週間経っても残された家族にいまだその実感はない。


 吟(本間叶愛)、音、梅(新津ちせ)の三姉妹を支えるのが、安隆の意思を受け継ぐ妻であり、母の光子(薬師丸ひろ子)。広大な豊橋の海を前に、光子は「狭い場所で眠るのは嫌だ。広いところがいい」という生前の安隆の意向から、遺灰を海に散骨する。両手で握った遺灰に頬を当て、風に舞っていく安隆の魂。必死に涙を堪えながらも凛と立つ母の姿に、音は何を思うのだろうか。


 この豊橋の海は、タイトルバックでも最も印象的なサビに登場する場所だ。音(二階堂ふみ)が後に夫婦となる裕一(窪田正孝)を引き連れて海岸を走るシーン。そこには安隆の魂も在るのだとすると、また見方も変わってくる。


 静かになった食卓、毎週木曜日の銭湯の日、お団子が好きだった父との川俣での思い出。日々の日常に安隆がいないことで、音は悲しみと共に父の死をようやく実感する。「泣いていいんだよ」。母のその言葉に三姉妹は大粒の涙を流す。光子は彼女たちに「お父さんはいる! ね? 目には見えないけれど、ずっとあなたたちのそばにいる」と力強く伝えるのだ。聡明で温厚だった安隆。仏壇に手を合わせ、「あの子たちを守ります。どうか安心してください」と光子は誓う。女性としての芯の強さが示されたシーンである。


 しかし、思いを新たにした関内家に降りかかってくるのが、事業継続のピンチだ。安隆がいなくなったのをいいことに、馬具販売の口利きだった打越(平田満)は光子に“男と女”としての関係性を迫ってくる。嫌悪感をあらわにする光子。一方では、馬具職人の岩城(吉原光夫)も関内家を離れようとしていた。安隆の墓に手を合わせる姿からは、世話になったという義理を感じさせるものの、音には変わらず「女、子供には分からん」と突っぱねるのだ。


 大正デモクラシーとは言え、まだまだ封建的な風土が残る時代。「女、子供」といった差別。音が学芸会で演じる、女性が主役の『竹取物語』。残された関内家は、大正という新しくも険しい時代をどう生きていくのか。(渡辺彰浩)


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