綾野剛×星野源から生まれる熱を、『MIU404』の前に『コウノドリ』で復習

1

2020年04月10日 06:01  リアルサウンド

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『コウノドリ』(c)TBS

 通常であれば、春の新作ドラマのスタートが始まる今頃。今期も早くから多くの注目作が発表されていた。綾野剛と星野源が、2017年10月期放送の『コウノドリ』(第2期/TBS系)から2年半ぶりに共演を果たす『MIU404』(※読み:ミュウ ヨンマルヨン)は、『アンナチュラル』の新井順子プロデューサー、塚原あゆ子監督、野木亜紀子脚本の鉄壁チームが手掛け、主題歌に米津玄師と、その筆頭だった。しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響によりスタートは延期に。10日は、2015年の『コウノドリ』(第1期/TBS系)から傑作選として第5話が放送される。


 2015年と2017年の2期にわたって放送された『コウノドリ』は、雑誌『モーニング』(講談社)で連載中の鈴ノ木ユウ原作による同名漫画が原作。周産期医療センターを舞台に、妊娠、出産という奇跡に真摯に向かう人々を見つめたヒューマン医療ドラマだ。綾野が主人公の産婦人科医・鴻鳥サクラを演じ、同期の四宮春樹を星野が演じた。「未受診妊婦」「切迫流産」「高齢出産」「口唇口蓋裂」「子宮頸部腺がん」「産後うつ」「ダウン症候群」といったテーマを扱い、細心の注意を払いながら本物の乳児を登場させて、命のリアルをより一層強く感じさせながら、それぞれのケースを描いた。


【写真】肩を組む綾野剛と星野源


 サクラは「ペルソナ総合医療センター」で働く産婦人科医であり、同時に「BABY」という名で活動する謎多き天才ピアニスト。自らの誕生後まもなく母を病気で亡くし、養護施設で育った。演じる綾野は、今でこそバラエティ番組で見せる素顔や、共演者たちのコメントなどから、人懐こく柔らかな人柄が知られるようになった。だが、2015年当時は、すでに連続テレビ小説『カーネーション』(NHK総合)でヒロインの恋の相手を務めて若い女性からおばあちゃんまでときめかせていたものの、『クローズZERO II』、ドラマ『Mother』(日本テレビ系)などに始まり、主演映画『シャニダールの花』や培ってきた演技力を爆発させた『そこのみにて光輝く』と、負のオーラを感じさせる、もしくはクールでミステリアスな印象の強い役者だった。


 綾野があまりにも自然にサクラを演じきったため、今考えるとサクラ=綾野に何の違和感もないが、連続ドラマ単独初主演となった『コウノドリ』での産婦人科医サクラは、当時はそれまでの綾野のイメージとは違うキャラクターだったのである。


 生まれてくる子供たち、母親たちに寄り添う医療を心掛け、柔らかな微笑みで接するサクラ。誕生の瞬間には赤ちゃんに心の底から「おめでとう」と語りかける。綾野の優しい瞳、そして優しい声を初めて感じたという視聴者も多かったのではないだろうか。また、ピアニストとしての顔を演じるにあたっては、監修のピアニスト清塚信也から手ほどきを受け、実際にピアノが弾けるまでに上達。ストイックなアプローチを行った。また綾野は、第2期スタートの際に公式サイトで、サクラが生きているうえで一番大切にしている感情は「怒り」だとコメント。「医者は神様ではありません。全部が完璧に出来るわけではない。サクラはそういった悔しさを常に怒りとして持っている人だと思います。僕はそれを原動にしてサクラを生きています」と語っている。そうした思いが奥にあるからこそ、サクラの優しさに深みを添えられているのだろう。


 “温”のサクラに対して、一見、“冷”のタイプとして登場するのが、星野が演じた四宮だ。患者や周囲への言葉が直接的で冷たい印象を与えるが、物語が進むにつれ、四宮もまたサクラとは違う向き合い方ではあるものの、赤ちゃんやお母さんの身体を何よりも大切にしていることが見えてくる。アーティストであり、役者でもある星野。役者としての印象を強くしたのは主演を務めた『箱入り息子の恋』(2013年)だろう。大ヒットしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、『コウノドリ』第1期と第2期の間に放送されている。星野は見た目にインパクトがあるタイプではないが、普通さの中に不器用さを滲ませるのが上手い。四宮も不器用な男だが、外側を“冷”で覆った四宮では、これまでとは違った不器用さを表現してみせた。


 メガネというアイテムは、役者の表情を見えづらくする危険性もある。しかし星野は、ふとした目や口の動き、会話の間などで四宮の本当の感情を静かに伝え、四宮のキャラクターを積み上げていく。第1期第9話では、四宮がいつも病室を訪れていた「つぼみちゃん」の容態が急変。同話終盤で四宮がサクラを前に見せる涙に胸が締め付けられた。また第2期では、冷たそうに見えて心の底は温かい四宮のキャラクターが浸透。第1話での「心室中隔欠損」を抱えた胎児に不安を募らせる妊婦(高橋メアリージュン)に、「大丈夫だよ、俺も手伝うから」と声をかけた夫(ナオト・インティライミ)へ「手伝うじゃないだろ、あんたの子供だろ」と一喝して見せた姿に大きな支持が集まった。


 第2期では、チーム・ペルソナの絆がより強く描かれた。最終話では、吉田羊演じる助産師の小松留美子がサクラと四宮を抱きしめ、「私たちは家族なんだ」と宣言し、サクラと四宮が笑顔で応える。先が読めず社会全体を大きな不安が襲っている今、出産という奇跡によってこの世に生を受けた自分自身、父や母、家族、友人、自分とつながりのある人はもちろん、その先にいる人々のことを思い、行動していくことが求められている。


 今回、傑作選として放送される第1期第5話では、「中学生の出産」と「特別養子縁組」について描かれる。まだ幼さのある中学2年生のカップルを山口まゆと望月歩が好演。サクラが自分の育った施設でピアノを弾く、産婦人科医サクラでも天才ピアニト「BABY」でもないサクラとしての表情も印象的だ。誕生の奇跡、命の大切さはもちろんのこと、私たちが生きていくうえで大きな拠り所となる“居場所”や家族、人との繋がりについて描いている『コウノドリ』。新作ドラマの放送延期は残念ではあるが、『コウノドリ』が今、改めて放送されることにはきっと意味がある。その世界観の核となった綾野を中心としたチーム・ペルソナ。中でもサクラと四宮という対照的な柱があったことで、それぞれのエピソードを一義的ではなく考えることができた。演技面でも綾野と星野が、熱すぎない熱量でぶつかり合い、互いを支えていた。


 『MIU404』ではW主演としてバディを組むふたり。警察内部で“何でも屋”と揶揄される、初動捜査のプロフェッショナルである「機動捜査隊」(通称:機捜)が、24時間というタイムリミットの中で事件解決を目指す1話完結のノンストップ「機捜」エンターテインメントだ。本作で機動力と運動神経はピカイチだが機捜経験がなく、刑事の常識にも欠ける“野生のバカ”伊吹藍を演じる綾野と、常に先回り思考で道理を見極める、観察眼と社交力に長けているものの、自分も他人も信用しない理性的な刑事・志摩一未を演じる星野。『コウノドリ』とは全く違った熱量と関係性で、凸凹バディを見せ、楽しませてくれるに違いない。


(望月ふみ)


    ニュース設定