『水曜日のダウンタウン』など手がける藤井健太郎が明かす、バラエティにおける音楽へのこだわり 豆柴の大群が成功した背景も

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2020年04月29日 12:02  リアルサウンド

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藤井健太郎

 時に、人は彼を「奇才」と呼ぶ。伊集院光も「今、最も面白い番組」と賞賛する『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のディレクター・藤井健太郎だ。


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 同番組は幾度のギャラクシー賞を獲得しながらも、その攻めた「説の検証」から賛否を巻き起こすこともしばしば。先日も「『この番組は〇月〇日に収録したものです』のテロップを冒頭に出して浜田をひたすらカットしてOAしたら何かあったと思う説」で、番組冒頭からダウンタウン・浜田雅功の存在を消し、ネットを騒然とさせたばかりである(今回の取材前日がそのオンエアだった)。


 人とは違った角度からの面白さを追求する藤井氏は、同時にスタイリッシュな番組作りを大事にしている。その要を担うのが音楽。総合演出を務める『オールスター後夜祭』(TBS系)のクイズにはカニエ・ウェストが登場し、6年ぶりの復活となった『ザ・ドリームマッチ2020』(TBS系)のオープニングには2 Chainz「Money In The Way」を使用するなど、関わる番組の多くに色濃くヒップホップイズムが流れている。


 今回のインタビューでは、藤井氏の音楽面についてのルーツから、「水曜日のダウンタウンOPテーマ曲」を手がけるPUNPEEとの出会い、番組にパネラーとして出演し話題となったBAD HOPのT-Pablow、さらにはアイドルオーディション企画「MONSTER IDOL」から誕生した豆柴の大群まで、『水曜日のダウンタウン』を軸に話を聞いた。(渡辺彰浩)


■PUNPEEにはシンパシーを感じる部分がある
ーーまずは、テレビの仕事を目指したきっかけから教えてください。


藤井健太郎(以下、藤井):テレビ番組を作る仕事が面白そうだと意識したのは『進め!電波少年』(1992年〜1998年/日本テレビ系)が最初ですね。就職試験を受けるにあたって、どういう仕事に就きたいかと思った時に、金融系だとかのお堅いサラリーマンになるのはピンと来なくて。楽しく仕事ができそうなのはエンターテインメント業界だなと思い、テレビ局とレコード会社と出版社に絞って就職試験を受けて。なかでもテレビが第一志望ではありました。


ーー音楽業界も候補の一つだったんですね。学生の頃はどんな音楽を聴いてきたのでしょうか?


藤井:ヒップホップがメインでしたね。ちょうどヒップホップが盛り上がってきたタイミングが中学生の途中にあって、あとはレゲエも大好きな時期がありました。ブラックミュージックやダンスミュージックはある程度聴いてきたと思いますが、積極的にロックを聴いていたタイミングはあまりなかったです。


ーー世代としては『さんピンCAMP』(1996年開催のヒップホップイベント)ですか?


藤井:『さんピン』が高校1年生なんですよ。中学の時は洋楽メインであまり日本のヒップホップは聴いていなかったんですけど、中3の後半から高1の前半くらいのタイミングにギドラの1st(KGDR『空からの力』)、ブッダの1st(BUDDHA BRAND『人間発電所』)などが出て、一気に盛り上がった感じがありました。


ーー海外のヒップホップは?


藤井:当時の流行りは完全にイースト・コーストのヒップホップだったので、基本はニューヨークものなんですけど、ただ、地元の友達は西海岸ものがメインだったりもして。(ドクター・)ドレーの『2001』(1999年)が出るまでは、ウェッサイって日本ではそんなに流行っていなかった印象なんですけど、僕は意外とバランスよく聴いていたかも知れません。あとはBone Thugs-N-Harmonyが昔から大好きで、当時は音楽誌でも全く触れられてなくて、日本では誰も聴いてないんじゃないかってくらいの状況だったんですけど、音源は全て買って聴いていましたね。


ーーその頃の情報源は?


藤井:紙媒体が多かったんじゃないですかね。ヒップホップ専門誌の『blast』は、昔『FRONT』って名前だったんですけど、創刊号から買ってたし。あとは『Black Music Review』(『bmr』)とか『remix』もありましたけど。ネットもまだ無かったし、テレビの地上波にも基本流れなかったので。


ーー現在はテレビディレクターとして多忙な日々を過ごしているかと思いますが、音楽を聴いている時間はあるんですか?


藤井:昔に比べたら減ってはいますね。優先順位として、先にテレビとか映像コンテンツを仕事も込みで見ないといけなかったりするので。移動中には音楽を聴くことが多いですけど。


ーー最近聴いたアーティストは?


藤井:リル・ウージー・ヴァートの新譜(『Eternal Atake』)は好きでしたね。チャイルディッシュ・ガンビーノ(『3.15.20』)は聴いたけど、ザ・ウィークエンド(『After Hours』)はまだ聴けてないので、メジャー作はギリチェックできているくらいの感じです。


ーー藤井さんが担当する『水曜日のダウンタウン』(TBS系)と言えば、PUNPEEさんの「水曜日のダウンタウンOPテーマ曲」をイメージする方も多いと思います。藤井さんとPUNPEEさんの出会いはいつ頃だったんでしょうか?


藤井:もともとは普通にリスナーとして聴いていて、その頃はそんなに熱心にシーンを追ってなかったはずなんですけど、彼が初期に出したミックスCDの『MIXED BIZNESS』とか『Movie On The Sunday』はなぜか持っていました。販売数も限定されていて、今はもうプレミアになっているんですけど、それをちゃんとチェックするぐらいには好きでしたね。新番組をダウンタウンさんとやることになり、なんとなく番組の形や全体のアートワークを考えている中で、最初はナレーションもPUNPEEくんにやってもらおうと思っていたんですよ。ナレーションがこんなに多くなる予定ではなかったので、本職のナレーターじゃない人を起用するパターンも面白いかな、と。ハードなヒップホップだとバラエティ番組との相性はあまりよくないと思うんですけど、「少しファニーだけどかっこいい」ってラインを彼なら上手にやってくれそうなのは想像できていたので、「オープニングテーマや、番組の中で使う曲ならびにナレーションもやってもらえませんか?」というのをお願いして、という流れです。


ーーメインテーマの「水星 feat. オノマトペ大臣 Roller Skate Disco REMIX」も、tofubeatsさんの楽曲をPUNPEEさんがリミックスした楽曲ですよね。


藤井:「水星」のネタ元をたどると、ダウンタウンさんがやっていたGEISHA GIRLS(「Kick & Loud」)があるのがいいなと思って。GEISHA GIRLSから今田(耕司)さんの曲(KOJI1200「ブロウ ヤ マインド〜アメリカ大好き」)がサンプリングをしていて、さらにtofuくんの「水星」に繋がっている。それに、リミックスが収録されているのはアナログ限定なので、あまり世の中に流通していない曲だったのも良いし、さらに、水曜日の“水”とも掛かっているのでバッチリだなと。


ーーちなみにダウンタウンのお2人はこのことを?


藤井:知らないと思います。どこかで言ったかな……? 言ったかもしれないけど、気にはしてないと思います(笑)。


ーー番組が2時間スペシャルの際は、オープニングが特別バージョンになるのが恒例ですが、これまでに制作された楽曲を振り返ると、エキセントリック少年ボウイオールスターズ、H Jungle with tなど、ダウンタウン関連の楽曲が使われていましたよね。


藤井:初期は、その都度ダウンタウン関連楽曲のフレーズやメロディをサンプリングしてPUNPEEくんが入れてくれてたんですけど、そのパターンはもうネタが尽きちゃったと思います。基本はスペシャルから次のスペシャルの間の期間に番組内であったトピックスを拾いながら、プラスアルファで小ネタを入れていく形です。前回のスペシャルだと、(2019年10月放送で)アントニーが言った「BIGナス」というワードからNasの「Nas Is Like」に繋げたネタが気に入ってます。映像もNasのツタンカーメンのジャケット(「Nas Is Like」が収録されている『I Am…』)をアントニーVer.にしたものを入れました。


ーーPUNPEEさんがナビゲーターを務めていたラジオ『SOFA KING FRIDAY』(J-WAVE)でも、登場してほしいゲストに藤井さんの名前が挙がってくるくらい、ファンの間にも2人の関係性が浸透しているのを感じていました。作品に共通点を感じることはありますか?


藤井:自分ではそこまで似ているとは思わないけど、でも、シンパシーを感じる部分があるというか。向こうはクリエイターで、こっちはただの会社員ですけど、作るものの方向性が多少似ているところはあるのかもしれないですね。ちょっとオタク気質なところだったり、引用でのラインの突き方なんかは、客観的には分からないですけど、そう思う人もいるのかなと。


ーー『水曜日のダウンタウン』には、BAD HOPのT-Pablowさんがパネラーに出演し話題になったこともありました。BAD HOPのみなさんとの関係性は?


藤井:『高校生RAP選手権』をやっている『BAZOOKA!!!』のチームには親しい人が多くて。そのつながりでBAD HOPのメンバーとも一緒に食事に行く機会があって、という感じです。


ーー『クレイジージャーニー』(TBS系)で、2週にわたってBAD HOPが特集されたこともありました。


藤井:『クレイジージャーニー』が好きと言っていたし、彼らの話は面白いので、『クレイジージャーニー』側としてもWin-Winになりそうだなという気がして、番組に「こういう子たちがいるけど、どう?」って繋いだ感じです。


ーー松本人志さんもT-Pablowさんに興味を持っていたみたいですね。


藤井:『クレイジージャーニー』に出る以前、『水曜日のダウンタウン』に出てもらった時に松本さんが面白がっていました。別にバラエティに出たいわけじゃないから、そこに迎合するスタンスがまずないし。見た目に反して丁寧で謙虚だから、しっかりしている感じだけど、一方で、学校には行ってないからある部分の知識は急に抜け落ちてるところがあったり(笑)。バラエティ的じゃないところが逆にバラエティでも面白いというか。


ーーPUNPEEさんもBAD HOPのみなさんも、一気に知名度と人気を上げました。


藤井:PUNPEEくんは『水曜日のダウンタウン』が始まった2014年の段階で、ヒップホップが好きで彼のことを知ってる人たちからしたら、「絶対に売れるだろう」とみんな思ってましたけどね。スタイル的にも、これぐらいの人気が出るのは全然想定内で。1stワンマンをBLITZ(マイナビBLITZ赤坂)でやった時には感慨深くて、やっとだなぁという感じがしました。


ーーBAD HOPのみなさんについては。


藤井:BAD HOPは意識が高いし、いろんなことをちゃんと考えていますよね。年齢は若いのに、戦略とか成功するためのプランをものすごくしっかり考えているので、それは成功するよなと。彼らの場合は、そこまで幅広く一般に受け入れられるようなタイプの音楽をやっているわけではないのに、それで世間的な知名度を上げているのはすごいと思いますね。自分たちの思っている「かっこいいもの」を世間にどう届けるか、どう広げていくか。もともとターゲットがいるところに球を投げているのではなく、自分たちの場所にファンを連れていくというか。そういうことが出来ているのは純粋にすごいなと思いますね。


■豆柴の大群は“物語の面白さ”が盛り上がりにつながった
ーーまた、『水曜日のダウンタウン』内のアイドルオーディション企画「MONSTER IDOL」についても聞かせてください。番組の放送が進むにつれて、大きな話題を呼んでいましたよね。


藤井:2018年にクロちゃん(安田大サーカス)が参加する恋愛リアリティ企画の「モンスターハウス」というのを放送したんですけど、最後に人を集める展開を作ったら想定以上の人が集まって、トラブルで終わってしまったんですね。結果、視聴率はそこまで良くなかったんですけど、観てる人の一人ひとりの熱は思った以上に高かったということが分かったので、その生んだ熱をポジティブな方向に向けられないかなというところが企画の出発点です。それで、アイドルオーディションと恋愛リアリティを混ぜ込んだような企画にして、最後にアイドルが誕生するというのがいいなと思ったんです。生まれた熱が無駄にならずに、そのアイドルを応援する方に持っていけるんじゃないかなと。で、具体的にどう形にしようかという時に、一番その辺の感覚が共有できるWACKの渡辺(淳之介)さんに手伝ってもらうことにしました。


ーー結果、豆柴の大群が誕生し、大きな熱を生み出しました。今回の企画が成功した要因、魅力はどこにあったと思いますか?


藤井:物語がちゃんと面白かったというのが一番じゃないですかね。アイドルオーディションの企画って、『ASAYAN』(テレビ東京)以降も、今に至るまで脈々とあるとは思うんですけど、そこで記憶に残っているものが少ないのは、みんながのめり込むようなストーリーや演出、仕掛けを作れていなかったからだと思います。その点、今回はオーディションが先にあるんではなくて、あくまでバラエティ的な面白さを優先するものだったので、その面白さが結果的に盛り上がりにつながったんじゃないかと。


ーー藤井さんがディレクションとプロデュースを担当した「りスタート」MVは、YouTubeで1200万回再生を超える大反響となりました。ここまでの世間からの反応は予測できていましたか?


藤井:去年の「モンスターハウス」の経験があったので、合宿のロケが終わって、この撮れ高だったらある程度いけるなというのは感覚としてはありました。曲自体も良かったし、具体的な数字まではイメージしていなかったですが、いけるんじゃないかとは思っていましたね。


ーー企画オンエア中には、パネラーとして出演したファーストサマーウイカさんが番組とWACKの相性の良さに触れていましたよね。その後に『Love music』(フジテレビ系)で、ウイカさんが渡辺さんのことを「珍味」と例えていたことがあって、それは『水曜日のダウンタウン』にも言えることなんじゃないかと。


藤井:僕としてもそういう扱いでいいというか、逆に思ったよりも真ん中っぽく見らてるな、と。もうちょっと端っこの存在でいるつもりだったし、別に王道ではないと思います。僕自身はバラエティ界のど真ん中というよりかは、もう少し外れものというイメージがあったんですけど、思ったよりも真ん中っぽいポジションに来てしまっているのかなという気はしていて。


ーー言うなれば、WACKもそうかもしれません。


藤井:確かに、やっていること自体は僕らもWACKも“真ん中”っぽいことではないと思うので。


ーーその組み合わせが上手くハマったのかもしれないですね。


藤井:自分ではあまり分からないですけど、僕と渡辺さんもどこか似たようなところはあるんでしょうね。


ーー最後に、『水曜日のダウンタウン』に限らず、関わってきた番組において、音楽の部分で意識しているこだわりがあれば教えてください。


藤井:基本的に作っているのはバラエティなので、あくまで面白さが優先なんですが、内容を邪魔しない範囲で、ビジュアルや音楽の面でもなるべくかっこよくスタイリッシュであった方がいいなとは思っています。昔の番組の方がきっとそういったところは洗練されていて、特にフジテレビの番組は面白くてかっこいいというイメージがありました。その辺が、たぶん今のテレビ番組には段々なくなっちゃっていて、「テレビ=ダサい」と思われてしまいがちな部分なのかな、と。なので「すごく面白くてちょっと洒落てる」くらいの感じを目指して番組を作っていきたいと思っています。(渡辺彰浩)


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