暴力と奇声、おむつに手を入れるーー精神状態が悪化した母は、リハビリ病院で拘束された

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2020年05月10日 21:42  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける” ――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)  

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 春木直美さん(仮名・53)の介護を5回にわたり綴ってきた。両親を次々と襲う病気やケガ。そのたびに奔走する直美さんも、いつ倒れてもおかしくないギリギリの状態だった。心不全を患っていた父の謙作さん(仮名)は、地域包括ケア病棟から老人保健施設入所を経て3カ月後、心臓病の悪化と誤嚥性肺炎によって、娘・孫・ひ孫が見守る中静かに息を引き取った。

(前回:認知症の父が土下座で「至らない人間で申し訳ない。許してほしい」――介護する娘に、頭を下げた

精神状態が悪化し 、拘束された母

 この間、母の八重子さん(仮名)はどうしていたのだろうか。

 脳梗塞の再発でリハビリ病院に入院していた八重子さんは、またもや精神状態が悪化していた。入浴やリハビリを拒否する、看護師を叩く、夜中に奇声を上げる、おむつの中に手を入れる……。とうとう拘束されてしまった。それまでも、脳腫瘍の後遺症でてんかん発作を起こし、十二指腸潰瘍で吐血して転院、再びリハビリ病院に戻ってくる、という状態だった。

 病院から施設に移った方がよいのではないかと促され、紹介された老人保健施設に移ることになった。謙作さんが亡くなった後のことだ。

「このころの母はまだ、いくらか調子がよく、入所する時も老人保健施設のソーシャルワーカーに『よろしく』と挨拶できましたし、笑顔も見られたくらいでした。施設に入居してからは、リハビリをしてくれる理学療法士に『2メートル歩けました』と報告されて、すっかり安心していました」

 それが12月上旬のこと。ところがクリスマスに、八重子さんとケーキでも食べようと、娘のひとみさん(仮名・27)と施設を訪れたところ、八重子さんは直美さんのことがわからなくなっていた。

「ソーシャルワーカーが、『目があまり見えていないんです』と言うんです。はあ? ですよ。12月頭には孫のことをかわいがっていたのに、急に目が見えなくなっているって、おかしくないですか。カンファレンスでは、1カ月前に理学療法士から聞いたのとまったく同じことを報告されて、それからここまで状態が悪くなっている母に何があったのか、施設側はまったく把握できていなかったんです」

 不信感を抱いたまま、翌月に八重子さんのところへ行くと、状態はさらに悪化していた。

「食堂で車いすに座らされているけど、体は『くの字』に曲がって、ただテーブルの一点を見つめている。『お母さん』と呼んでも反応がない。医師に聞くと『顔にむくみが出ているので利尿作用のある薬を出している』ということでしたが、12月頭からの母の変貌が激しすぎる。脳梗塞をまた起こしているんじゃないかと思いましたが、それなら医師がわからないはずはないですよね」

 父の納骨が終わったばかりで頭が回らず、おかしいと思いながら、それ以上医師に問い詰めることもできないまま、後ろ髪をひかれながら帰宅した。その直後、八重子さんが大量に下血。施設の担当者から、十二指腸潰瘍の再発で救急搬送されたという連絡が入った。

「病院を7カ所もたらい回しにされたあげく、貧血で瀕死の状態になってやっと大学病院の集中治療室に入れたというんです。担当者は『いい加減にしてください』と怒っていましたが、私は預かっていた孫が熱を出していたので、病院には娘に行ってもらっていました」

 翌日、八重子さんがいた施設からかかって来た電話に、直美さんは絶句した。

「『もう施設を退居していただきたいので、荷物を取りに来てください』と。その事務的な口調に耳を疑いました」

ーー次回は5月17日(日)更新

 

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