Googleが“スマートシティ計画”断念 新型コロナウイルスと住民反対運動の二重苦で

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2020年05月12日 12:42  リアルサウンド

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Pexelsより

 Googleの持株会社Alphabetが所有し、革新的な都市計画を行なうSidewalk Labsは、カナダのオンタリオ州トロントにあるウォーターフロント地区キーサイドで進行中の再開発プロジェクトから撤退することを発表した。


(参考:『CES 2020』注目浴びたソニーの次世代自動車とトヨタの「スマートシティ」、海外メディアはどう報じた?


・パンデミックで経済的に実行困難
 Sidewalk LabsのCEOであるDan Doctoroff氏はブログで、今回の決断に至った経緯を説明している(参考:https://medium.com/sidewalk-talk/why-were-no-longer-pursuing-the-quayside-project-and-what-s-next-for-sidewalk-labs-9a61de3fee3a)。


 Dan氏によると、Sidewalk Labsはウォーターフロント地区に30人規模のオフィスを開設し、2年半にわたり時間、人、リソースを投資してきた。しかし、世界とトロントの不動産市場で未曾有の経済的不確実性が生じており、現地の開発機構Waterfront Torontoと共同で練り上げた計画の中核部分を犠牲にすることなく、面積12エーカーに及ぶこのプロジェクトを実行することが財政的に困難になったという。


 討議を重ね、もはやキーサイドのプロジェクトを進める意義がなくなったという結論に達し、Waterfront Toronto側に通知した。


 一方で、トロントでのプロジェクトは断念するものの、現在進行している新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックという緊急事態により、未来のために都市を再考することの重要性を更に強く認識しているという。これまでに発展させたアイデア、とりわけ住宅の低価格化と持続可能性の分野は、「大都市の問題解決」において大きく貢献するものになるとし、今後も別のところで事業は継続するようだ。


 同社は都市モビリティ、次世代インフラ、コミュニティーベースのヘルスケアに取り組む革新的な事業を既に立ち上げており、ロボット家具等、あらゆることに取り組むスタートアップ企業に投資している。


 前出の住宅の低価格化と持続可能性を改善するための工場量産型の木造建築、生活の質と経済性を改善するデジタルマスタープランニングツール、地域のオール電化への新たなアプローチに引き続き取り組んでいくという。


・都市の監視と収益化に市民活動家や政治家が猛反発
 また、もともとのプロジェクトでは、13億ドル(約1300億円)の費用をかけて、木造住宅、暖房・照明付き歩道、公共Wi-Fi、交通と街路の生活をモニターする多数のカメラやセンサーを12エーカー、そしてその周辺350エーカーに設置する計画だったが、プライバシー侵害や大手テクノロジー企業による都市収益化に対して、地元住民から根強い反対があったと『The Verge』は伝えている(参考:https://www.theverge.com/2020/5/7/21250594/alphabet-sidewalk-labs-toronto-quayside-shutting-down)。


 2017年以降、テクノロジーを使用して交通渋滞、二酸化炭素排出、廃棄物を削減するために5,000万ドル(約50億円)以上が投入されたと『CNN』は伝えている(参考:https://edition.cnn.com/2020/05/07/tech/alphabet-toronto-sidewalk-labs-smart-city/index.html)。


 人と車両の動きを追跡するセンサーを設置し、高齢者など速度が遅い歩行者のために時間を確保する交差点も提案されたが、この計画は、市民のデータを収集することに対する懸念により論争を巻き起こし、活動家や政治家に非難された。


 Sidewalk Labsのビジョンを示す1,524ページにも及ぶ報告書では、独立したデータトラストを設置し、データ収集・利用を管理することが提案されたが、専門家らは、プライバシー、データ侵害、偏ったアルゴリズムに関する問題に対処できる保証はないと警告した。その結果、プロジェクトは大幅に縮小され、再開発される土地面積やデータ管理が制限されている。


 5月20日には、プロジェクトが継続できるかを決定するWaterfront Torontoの理事会が予定されていたが、その前にSidewalk Labsが身を引いた形だ(参考:https://www.cnbc.com/2020/05/07/alphabets-sidewalk-labs-abandons-plan-to-build-smart-city-in-toronto.html)。


 トロント再開発計画は世界中のスマートシティのモデルケースになると目されていたが、未来的都市を提案したAlphabetが撤退したことで、ハイテクユートピアの実現に向けて、地元住民との折り合いをつけることがいかに難しいかが浮き彫りとなった。


(Nagata Tombo)


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