「コロナにお湯」だけじゃない!本当にあった『世界のトンデモ治療法』

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2020年05月21日 16:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

本当にあった「トンデモ治療法」1 イラスト/黒木督之

 中国は湖北省武漢市から広まったとされる新型コロナウイルスが、世界に混乱をもたらしてから約4か月が過ぎようとしている。しかし感染拡大はいまだ続き、終息のめどは立っていない。そんな中、日本では治療薬として、抗ウイルス薬の『レムデシビル』を特例承認。また、5月中に抗インフルエンザ薬の『アビガン』を承認の方向というが、両方とも重篤な副作用が心配され、米中で始まったワクチンの治験も終了の見込みは1年以上、先なのだ……。

 さかのぼれば、「結核ワクチンのBCGが有望かもしれない」といった話題がクローズアップされるなど、コロナ予防に振り回されたこの4か月。そう言えば、国内でも感染が広がり始めた2月下旬には、「新型コロナウイルスは摂氏57度(26度や36度のパターンもある)で死滅するため、お湯を飲めば感染を予防できる」、「しょうがスープで身体の熱エネルギーを増やせば、ワクチン接種は必要ない」なんてすぐにデマとわかる情報が流れていたほど。

 極めつきは、「花崗岩をお風呂に入れると殺菌効果がある」というもの。この噂を受けて、フリマサイトで高額取引されるケースも。

 今となっては、「そんな話あったね」と笑い話にできるかもしれない。が、人類の疫病との闘いを振り返ると、実は"白湯を飲めば治る”にも通じる"トンデモ治療”との闘いでもあったのだ。

“万能薬”として処方された有害物質

「水銀は神秘的な物質と思われていて、古代より何百年もの間、さまざまな症状を治すために処方されていた歴史があります」

 こう話すのは、俳優、タレントとして活躍するだけでなく、薬剤師の資格を持ち、勤務経験も持つ岩永徹也さん。

 水銀と言えば、'56年に熊本県水俣市にて発生した水俣病をはじめ、有害物質といったイメージも強い。しかし、常温、常圧で凝固しない唯一の金属元素という神秘的な存在が、「万能薬に違いない」と信じられ、何百年もの間、便秘、梅毒、インフルエンザ、気分の落ち込みなどの治療薬として使われていたという。水銀を吸い込むと身体によいと信じ込まれていたため、水銀を熱して蒸発させる『水銀風呂』に身を投じるといったスパ治療もあったというからビックリだ。

「カロメルと呼ばれる塩化第一水銀は、飲むと胃腸を刺激するので下剤効果があったと言われています。身体中の毒素を外に出してくれているのだから身体にいい……そう信じ込まれていたため一般的に流布されていったのでしょう」(岩永さん、以下同)

 なんでも、飲むと胃がムカムカすることから"寄生虫キャンディー”と呼称されていたそう。そんな名前をつけるくらいなんだから「疑えよ」と言いたくなるが、ナポレオンや人気作家のエドガー・アラン・ポーなど名だたる人物が愛飲していた治療法だった。

「当時の著名人が使用していることによって、一般市民も安心感を覚え、連鎖的に広まっていったのだと思います。現代のように、自分たちで情報収集ができる時代ではなかったので、"あの人が使っているから私も欲しい”という心理が働きやすかったのではないでしょうか」

 しかしやはり"毒は毒”─。身体に及ぼす影響は、次第に人たちの目にも明らかになってくる。

「例えば帽子店は帽子を作る際、水銀を使ってフェルトを加工するため、知らず知らずのうちに水銀中毒の症状が出始めていました。当時、水銀中毒は"帽子屋の震え”(Mad Hatter)と言われていたほどです。水銀を使用する職業の方に、中毒症状が表れ身体を壊していくことから、ようやく水銀に原因があると疑われるようになりました」

お尻の穴にタバコの煙をIN

 トンデモ医療であると同時に、トンデモ勘違いがもたらした悲劇とも言えそうだが、嘘のような治療法は、まだまだ跋扈していた。そのひとつが、タバコを使った医療ならぬ珍療。

「タバコは殺菌作用に加え身体を温める効果があるということで、溺れた人間の肛門にタバコの煙を入れて目覚めさせようとしたという話があります。また、ペストが流行した際は、ウイルスの感染力を抑えるだろうということで、学校の子どもたちにタバコを配って、教室で吸わせていたことも。そのほかにも喘息の患者にタバコを吸わせるなど、今では考えられない真逆のことをしている(苦笑)」

 まるで嫌がらせのような治療だが、薬はたくさんあるものの、その薬がどこに作用するのか見つけることが非常に難しい時代だからこその弊害なのだ。実際、ペニシリンが発見されるまでは、毒殺で使用されるイメージがあるヒ素化合物が梅毒の治療薬に使用されていたし、中国医学では解毒剤や抗炎症剤として、しばしば製剤に配合された。まさに薬と毒は表裏一体─。

「患者さんごとに身体状況や遺伝子は違います。同じ薬を投与しても、人によって効能・効果が変わるのは、今も変わりません。一概に"この薬はこういう効果がある”と訴えづらいんですね。正式なものほど非常に慎重になるので、"これが効く”というような謳い文句ほど疑ってほしい。すぐに効く薬はありません」

 また、「医学で解明されていないので、宗教的、神秘的なものに価値を見いだす傾向も強い」と岩永さんは分析する。その最たる例が胃石だ。

馬や牛の胃の中にある胃石は、消化を助けてくれると言われていました。神聖なものとして宝石同様に飾る人もいれば、胃石を削って飲むことで自分の消化も助けてくれるのではないかと考える人もいた。

 ヨーロッパでペストが大流行した14世紀のころ、医薬品に関する品質規格書である『薬局方』には、万能薬や解毒剤として胃石が記載されていました。民間療法のような感じではなく、薬剤師が学ぶ本に薬剤として胃石が並んでいるのがおもしろいところですね(笑)」

 ペスト流行の際はミネラルを摂取するために土を食べた、失恋を含め精神的に落ち込んだら心不全になるまで血を抜く、美しく輝く放射性物質(ラジウム)は美容によいと盲信し化粧品に応用したなど、世界のトンデモ医療は枚挙にいとまがない。

「科学的、医学的エビデンスに乏しいからこそ、何をすれば助かるのかわからなければ、誰もが不安に陥ります。正しい治療法が確立されていない時代だからこそ、現在では考えられないような治療法を促進させてしまったのではないでしょうか」

デマ治療法にダマされないために

 医学が進歩した現代に生きるわれわれには関係のない話─、とは言い切れない。岩永さんが諭す。

「ペストが流行した際も、途中からペストの話ではなく、人間の話にすり替わっているんですね。ペストがどんな病気か、について話をするのではなく"あの人が使っているから”"どうやら新しく登場した治療法がいい”……そういった話ばかりが横行し始める。

 医学について考えようとしないから、間違った医療法がどんどん伝わっていってしまう。現在のコロナ禍でも、ウイルスの話をする以上に、"政治や行政の判断が悪い”とか"他国はこういったことをしている”といった話にすり替わりつつある(苦笑)。もしかしたら、今も昔もそれほど変わっていないのかもしれないなって思います」

 昔に比べると、はるかに情報は明確で収集しやすくなった。しかし、裏を返せば、デマも広がりやすくなったということ。

「最前線で治療をしている人からすると、デマの治療法が拡散され、盲信してしまう人を見ると、モチベーションを保つことが難しくなります。医療人が疲弊しないためにも間違った医療情報を鵜呑みにしないでほしいです」

 そう遠くない未来、新型コロナウイルスに有効なワクチンが開発される日が来るだろう。だからこそ、怪しい情報に踊らされないという免疫も身につけておいてほしい。

取材・文/吾妻アヅ子

いわなが・てつや 俳優・モデル・薬剤師。'09年『MEN'S NON-NO』の専属モデルとしてデビュー。『テラスハウス』『仮面ライダーエグゼイド』で一躍、注目を集めるように。世界人口上位2%のIQを有する人の団体『JAPAN MENSA』の試験を受け、会員認定を受けるほどの頭脳を誇ることもあり、クイズ番組でも活躍中。

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