甲子園中止で高校生の指名が減る? 秋開催「ドラフト」注目選手は?

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2020年05月27日 11:30  AERA dot.

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写真甲子園球場 (c)朝日新聞社
甲子園球場 (c)朝日新聞社
 ウイルスの猛威は球児の夢舞台までものみ込んでしまった。全国4千校近い高校が目指した「夏の甲子園」が中止になり、球児や指導者からは悲痛な声が聞かれる。プロ入りを目指す高校生の進路を不安視する声もある。絶好のアピールの場を失ったまま、秋にはドラフト会議が待つ。

【写真】ドラフトの行方は?スカウト注目の選手がこちら

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 この夏、甲子園で球児が白球を追う姿は見られなくなってしまった。全国高校野球選手権大会を主催する朝日新聞社と日本高校野球連盟は5月20日、今夏の第102回全国選手権大会と、代表49校を決める地方大会の中止を発表した。

 新型コロナウイルスの感染拡大は全国の感染者数を見れば終息に向かいつつあった。20日時点で39県の緊急事態宣言が解除されていたが、感染リスクを完全になくすことは難しく、休校措置や部活動の休止による練習不足などで、選手の健康や安全面のリスクも否定できないことから、苦渋の決断がなされた。

 100年を超える歴史の中で、太平洋戦争による中断(1942〜45年)を除き、大会の中止は3度目。18年の米騒動による中止、41年の戦局の深刻化による中止に次ぐ79年ぶりで、戦後初めての中止となる。地方大会すら開催されないのは史上初めてだ。今年は春の選抜高校野球大会も中止となっており、球児たちにとってつらく悲しいのはもちろん、高校野球ファンにとっても寂しい結果となった。

 例年、この時期は甲子園で活躍する注目選手に想像を巡らせるファンも多いのではないか。もし開催されていれば、今年はどんな選手の活躍が期待されたのか。「投打ともに粒ぞろい」と指摘するのは、「流しのブルペンキャッチャー」として全国各地のアマチュア選手の取材を続けてきたスポーツライターの安倍昌彦氏。

 投手では、昨秋の明治神宮大会を制した中京大中京(愛知)の高橋宏斗と、昨夏は2年生エースとして4強入りを支えた明石商(兵庫)の中森俊介を挙げる。

「ともに今年の高校野球を代表する右の本格派で、速球は150キロ前後。技術面の完成度も高く、甲子園で見たかったという人も多いのでは」

 打者では花咲徳栄(埼玉)の長距離砲・井上朋也。昨夏も出場し、2年生ながら4番を務めた。

「打席に向かうまでの姿に、狂気とも表現できる凄みを感じる選手。集中力は並の高校生ではなく、将来的にプロでもクリーンアップを打てるとみています」

 安倍氏自身は捕手出身とあって、捕手の注目株も挙げる。日大藤沢(神奈川)の牧原巧汰だ。

「長打力は超高校級で、広角に本塁打を打てる。守備でも送球スピードと精度はすでにプロ級。大阪桐蔭時代の森友哉(現・西武)を彷彿とさせますね」

 いずれも出場すれば全国のファンを沸かせたはずの逸材たち。甲子園を経てプロへと羽ばたく球児も多いが、その舞台がなくなってしまった。果たして秋のドラフト会議はどうなるのか。巨人の元編成担当で長年、スカウトからの情報を集めてきた三井康浩氏は「例年より高校生の指名が大幅に減る可能性がある」と語る。

「スカウトは選手の実力の伸び率を重視します。特に3年生の春から夏にかけて目覚ましい成長を遂げる選手が多い。夏の大会を見て、選手の急激な成長に、ここが取りどころだと判断すればドラフトにかけますし、伸び率が足りなければ大学、社会人を見ようかとなる。今年はその時期に長期間チェックができないわけですから、選手の力を把握しようがない。それまでの評価だけでドラフトに向かうのはリスクが高く、指名を見送ることも考えられます」

 図抜けた実力の持ち主であればドラフト指名に希望を持てるが、「プロに入れるか否かという選手にとってはピンチ」だという。また、体力面にも不安が残る。

「いざ年が明けてプロ入りして、体力的についてこられるかという心配があります。3年間みっちり鍛えていても、しんどいと感じるのがプロの世界。半年のブランクは大きく、どうしても指名に積極的にはなれないでしょう」(三井氏)

 また、甲子園という大舞台を経験することによる精神面での成長も大きく、そうした機会が失われる影響も無視できないという。

 もっとも、活躍の舞台がまったくなくなるわけではない。日本高野連は20日の会見で各都道府県による地方大会の代替大会について、「自主的な判断に任せる」とした。地方ごとの代替大会が開催されれば、「スカウトは必ず見に行きます」と三井氏は言う。ただ、開催の判断が地域によって異なれば、スカウトに見てもらえない都道府県が出て、不公平感が生じる懸念はある。

■江本氏が明かす 舞台失った苦悩

 プロ野球側はプロ志望届を提出した高校球児を対象に、トライアウトの開催を検討しているとの報道もある。野球評論家の江本孟紀氏は、「球児に希望を持たせるいい方法」と評価しつつ、自身の経験から「大会が中止されてもドラフトに大きな影響はない」とみる。

「スカウトは有望選手の情報をリトルリーグからチェックしてリストアップしていますから、トライアウトをしなくてもだいたい把握していますよ。私の場合、中学のときにスカウトが挨拶に来て、高校3年時に1年間プレーできなかったのに指名されましたからね」

 江本氏自身、甲子園出場が「幻」に終わった苦い経験がある。高知商業時代、他の部員が起こした暴力事件により決まっていた選抜大会の出場をチームが辞退。1年間の対外試合禁止処分で、夏の高知大会も出場できなかったのだ。

「当時の私は優勝候補筆頭の高知商のエースで4番。絶頂期に地獄に突き落とされ、『人生終わった』と思いました。野球もやめてしまい、悶々としながら校舎でボーッとしていると、隣の学校の球音が響いてくる。学校行くのが嫌でしたね。そういうえげつない経験をして世の中を信用しなくなって、ちょっとひねくれた人間になりました(笑)」

 江本氏はその後、新たな目標を見つけて立ち直る。西鉄からのドラフト4位指名を断って進学した法政大学、社会人野球を経てプロ入りした。

「『このままで引き下がらんぞ』と思って、長嶋茂雄が活躍していた憧れの東京六大学、神宮の杜で活躍するぞと目標を切り替えたんです。甲子園がすべてではない。プロ野球選手で甲子園に行っている人は半分もいませんし、甲子園で活躍したからといってプロでも活躍できる保証はどこにもないんですから」

 江本氏は、プロ入りを目指すわけではない大多数の球児たちのケアこそが必要だと語る。

「体力を持て余している子は多いと思う。甲子園の道が断たれたとき、代わりに次の目標になることを大人たちが指し示してほしい」

 前出の安倍氏は、多くの球児たちの声を聞いた経験から、こう話す。

「球児たちは今、『やりきった』という達成感がないまま、中ぶらりんの気持ちで過ごしている。球児にとって甲子園は特別で、何物にも代えがたいもの。ある高校の野球部員からは『軽々しく救済策などと言わないでほしい』という声を聞きました。そうした声もしっかりくみ、選手たちが納得のいく形を望みたいです」

(本誌・秦正理/桜井恒二)

※週刊朝日  2020年6月5日号

このニュースに関するつぶやき

  • 利用する大人が多すぎて、全然改めるべきところが改められない。
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  • むしろ、投手は肘肩使わないから、トミージョンが減るんじゃね?
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