子ども向け自己啓発書、コロナ禍で13万部超えヒットも “これからの生き方”学べる本の需要高まる

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2020年05月28日 11:11  リアルサウンド

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『なぜ僕らは働くのか-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』

■ここ5年ほどで一般化した「子ども向け自己啓発書」


参考:Amazonで本の在庫切れが続出 入荷制限から再考する、出版の未来


 2015年にシリーズが始まった『学校では教えてくれない大切なこと』(旺文社)、2016年3月に発売された『こども孫子の兵法』から始まる斎藤孝(明治大学文学部教授)の「名著こども訳」シリーズ(日本図書センター)などをはしりとして、「子ども向け実用書」ないし「子ども向け自己啓発書」が近年盛り上がりを見せ、書店でも棚ができてきている。


 『学校では教えてくれない大切なこと』は「整理整頓」や「物の流れ」をテーマにするなど、自己啓発というより実用書と呼んだ方がいい内容が多いが、日本図書センターの「名著こども訳」シリーズやそれのベスト盤的内容の『きみを強くする30のことば 偉人に学ぶ生き方のヒント』、為末大『生き抜くチカラ』、高濱正伸監修『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』などは、子どもに対して生き方を説き、考えさせる自己啓発的な要素が強い。


 なぜこうした本が求められるようになってきたのか?


■偉人の伝記を読むより手っ取り早く、具体的に生き方を学べる


 子ども向け自己啓発書の対象読者は、日本図書センターの『おやくそくえほん』のように一部は低学年向けもあるが、ほとんどのものは下は10歳、小学校中高学年から読める内容で、上は高校生くらいまでが対象になっている。


 都市部では中学受験の塾通いが小3終わりの春休み頃から始まるが、早ければそのくらいの年齢から将来を見据えて勉強してほしいと思う親が増える、というのが一因だろう。「将来、こうなりたいから今これをやる」という動機付けがうまくいかなければ、勉強にしろスポーツの練習にしろ、必死にはならない。


 全国学校図書館協議会が毎年行っている「学校読書調査」を見ると、小4になると男子は「日本の歴史」や「三国志」、あるいは織田信長などの伝記をよく読み、女子はヘレン・ケラー、ナイチンゲール、アンネ・フランクが長らく定番になっている。子どもが偉人の物語や歴史を通じて何かを学び取る、というのは今も変わっていない。


 しかし、伝記から『何か』は学べるだろうが、何が学べるかは未知数だ。もっと即物的、直接的に自分の子どもに「これからの時代の生き方を学んでほしい」「将来のキャリアを見越した情報をインプットしてほしい」「大人になったときの姿から逆算して今を過ごしてほしい」と願う親も多いであろうことは想像に難くない。


 子どもに本を買い与えるのは大人だ。その大人のニーズを反映するかたちで「子ども向け自己啓発書」は急速に広まっている。


■コロナ禍にもかかわらず発売2か月で10万部超えの『なぜ僕らは働くのか』


 2020年3月19日に発売されたばかり、しかもコロナ禍で書店が十分に営業できなかったにもかかわらずすでに13.5万部と大ヒットしている池上彰監修の『なぜ僕らは働くのか-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』も、こうした「子ども向け自己啓発書」のひとつだ。


 近年の学習まんがで見られる、一本の筋の通ったストーリーマンガの合間合間に記事、図解を挿入しながらひとつのテーマをわかりやすく読者に伝えていくスタイルで構成されたキャリア教育本である。


 村上龍が2003年に刊行した『13歳のハローワーク』以降、さまざまな職業を紹介するお仕事図鑑ものは無数に世に出た。しかしこの本はさまざまなデータを読者に提供するものの、「どんな仕事があるか」よりも、そもそもの「なぜ働くのか?」という生き方を読者に考えさせるものになっている。


 子ども向けにわかりやすい書き方はしているが、「信じれば夢は叶う」的な耳触りのよい言い方は避け、いわゆる年金2000万円問題に触れるなど、子どもにリアルな現実にも目を向けさせようとしているのが特徴だ。


「夢を持つことは大事です。でもたとえばサッカーが好きな人みんながプロのサッカー選手になれるわけではない。ただ同時に、そこに絶望しないでほしい。世の中『夢が叶う/叶わない』『幸せか/不幸せか』は白か黒か、ゼロかイチではありません。学校の勉強ができていればいいという時代でもないし、収入がいい仕事がベストな仕事なわけでもない。いかに個々人に合った幸せを追求できるか、生きていくには何が必要なのか――そういったことを考えてもらえる本をめざしました」(『なぜ僕らは働くのか』担当編集者の学研・宮崎純氏)


 コロナ禍によって改めて「働くとは?」「自分にとって仕事とは?」という問いに多くの社会人が向き合うことになった。子どもにとっても、学校がどうなるのか、受験がどうなるのか見えずに不安ななか、将来について改めて考える機会になっただろう。


 しかし、テレビやSNSをいくら見ても断片的な情報が膨大に流れ込んでくるだけで、何をどう考えていけばいいのかという道筋は見えてこない。そんなとき、体系的に順を追って思考を整理する「軸」を与えてくれるのが、本だ。


 『なぜ僕らは働くのか』は、子どものために買ったという親からの評判も上々だという。「子ども向け自己啓発書」は、子どもとともに大人にも自己を見つめ直す機会を提供してくれるからこそ、いま支持を広げている。(飯田一史)


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