TVアニメ『LISTENERS』は音楽ファン必見! 現実のロック史を巡るような“仕掛け”を読み解く

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2020年05月29日 17:01  リアルサウンド

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『LISTENERS リスナーズ』 (c)1st PLACE・スロウカーブ・Story Riders/LISTENERS 製作委員会

 クイーンのフレディ・マーキュリーの半生を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)、エルトン・ジョンの伝記的な作品『ロケットマン』(2019年)、ビートルズの楽曲が物語の軸となる『イエスタデイ』(2019年)など、近年の映画界ではロックスターと彼らの音楽を題材にした作品が次々と成功を収め、ある種のトレンドとなっている。「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもので、ロック史に名を残すミュージシャンたちとその楽曲にまつわる逸話には、実に運命的かつドラマティックなものが多く、それらが映像作品において、物語を面白く彩る恰好の素材として機能するからこそ、音楽ファンを中心に幅広い人々の心を惹きつけているのだろう。


 そんななか、日本のアニメにも、海外のロックミュージックへのオマージュをたっぷりと盛り込んだ作品が登場して、にわかに注目を集めている。それが、この4月より放送中のTVアニメ『LISTENERS リスナーズ』。楽曲・小説・アニメなどを通して展開されたコンテンツ『カゲロウプロジェクト』で若者を中心に絶大な支持を得ているマルチクリエイター・じんと、TVアニメ『交響詩篇エウレカセブン』(2005年)などで知られる脚本家の佐藤大が中心となり、異世界を舞台にしたロボットものというスタイルを取りながらも、洋楽好きであればニヤリとしてしまうネタをあちこちに忍ばせることで、音楽とアニメーションの新たな可能性を追求した、新感覚のオリジナルアニメだ。


 本作の舞台となるのは、人類を脅かす謎の生命体“ミミナシ”が存在する世界。そのミミナシに対抗することができるのは、“イクイップメント”と呼ばれる戦闘メカを操作することのできる、特別な能力者“祈手(プレイヤー)”のみ。主人公のエコヲ・レック(CV:村瀬歩)は、祈手(プレイヤー)への強い憧れを抱きながらも、スクラップ拾いをしながら日々を過ごす少年だったが、ある日、ゴミ山で記憶喪失の少女・ミュウ(CV:高橋李依)と出会う。彼女の腰には、イクイップメントを呼び出すための装置・AMPと接続できるインプットジャックが空いており、エコヲがスクラップを集めて自作したAMPでイクイップメントを召喚、祈手(プレイヤー)だったことが判明する。やがて二人は、彼女の出自と、エコヲの憧れの存在である祈手(プレイヤー)、ジミ・ストーンフリー(CV:福山潤)の謎を追うための旅に出る。


 つまり物語としては、ロボットアニメの王道でもあるボーイ・ミーツ・ガール的な構造を取っているわけだが、その世界設定の根幹にあたる部分と現実のロックミュージックの要素を、オマージュという形で紐づけることによって、作品に奥行きと新しい間口を加えているのが、本作のユニークなところだ。


 例えば『LISTENERS リスナーズ』では、各話ごとにひとつの音楽ジャンルがテーマとして打ち出されている。第1話「リヴ・フォーエヴァー Live Forever」では、サブタイトルにオアシスの代表曲「Live Forever」を引用。


 舞台となるエコヲの住む街の名前「リバチェスタ」は、ビートルズを生んだリヴァプールとオアシスの出身地であるマンチェスターを掛け合わせたものだし、その町長であるマッギィ(CV:チョー)のキャラデザインは、オアシスやプライマル・スクリームらを輩出したイギリスの音楽レーベル、クリエイション・レコーズの創設者として知られるアラン・マッギーを彷彿させるもので、全体的に「UKロック」へのオマージュが散りばめられている。


 続く第2話のサブタイトル「半分人間 HALBER MENSCH」は、ドイツの前衛的なバンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンの代表曲から取られており、劇中にはミミナシをも制御する力を持つ三姉妹の祈手(プレイヤー)・ノイズ三姉妹が登場。この回のコンセプトは、いわば「ノイズミュージック」だろう。


 そして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの曲名を冠した第3話「ユー・メイド・ミー・リアライズ You Made Me Realise」では、轟音ギターと陶酔感のある歌を特徴とするジャンル「シューゲイザー」へのオマージュが頻出。本エピソードのメインキャラとなる、ケヴィン・ヴァレンタイン(CV:山寺宏一)とビリン・ヴァレンタイン(CV:水樹奈々)は、マイブラのケヴィン・シールズとビリンダ・ブッチャーを思わせる関係性だし、彼らの拠点となる飛行船「トレモロ技研」は、マイブラのEP『Tremolo』(1991年)から拝借したものに違いあるまい。他にもビリンとケヴィンのセリフの中に、マイブラ「Feed Me With Your Kiss」やライド「Chelsea Girl」といったシューゲイザーの名曲の曲名が引用されていたりと、わかる人ならば思わず唸ってしまうネタが満載だ。


 そういった遊び心はどんどんと加速していき、ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」が元ネタとなる第4話「ティーン・スピリット TEEN SPIRIT」では、カート・コヴァーンがモデルと思しき女の子キャラ・ニル(CV:釘宮理恵)が登場。祈手(プレイヤー)の養成学園「フリーク・シーン・アカデミー」(この学園名はダイナソー・Jrの曲名「Freak Scene」から取ったものだろう)を舞台に、ピクシーズからスマッシング・パンプキンズまで、80年代末期から90年代にかけて人気を集めたジャンル「グランジロック」へのオマージュが次々と物語を彩る。ニルの相棒となるキャラクターの名前が、カート・コヴァーンの配偶者だったコートニー・ラブがフロントを務めたバンド名と同じホール(CV:下野紘)というのも気が利いている。


 極めつけは、第5話の「ビートに抱かれて When Doves Cry」。このサブタイトルは、プリンスのヒット曲「When Doves Cry」とその邦題「ビートに抱かれて」に由来していることは一目瞭然だが、本エピソードでは、もはやプリンスそのものと言えるキャラデザインの祈手(プレイヤー)・殿下(CV:諏訪部順一)を軸に、プリンスへの愛とリスペクトに満ちたストーリーが展開される。殿下の寵愛を受ける祈手(プレイヤー)コンビのウェンディ(CV:本名陽子)とリサ(CV:ゆかな)は、プリンス率いるザ・レヴォリューションのメンバーとして活躍したウェンディ&リサがモデルだろうし、殿下が自身の統治するペイズリー・パーク(これもプリンスの曲名および、それにあやかって付けられた彼の自宅兼スタジオの名前と一緒だ)にお忍びで訪れる際の偽名・キッドは、プリンスが自身の初主演映画『パープル・レイン』(1984年)で演じた役名と同じものだ。


 さらに第5話の前半部分は、プリンスがサウンドトラックを手がけたスパイク・リー監督の映画『ガール6』(1996年)をなぞったような内容に。同映画にはクエンティン・タランティーノが本人役で登場するのだが、それと同じような役どころのキャラクターの名前が、タランティーノ監督の代表作『レザボア・ドッグス』(1992年)を連想させるレザボア(CV:木内秀信)だったりと、まさにタランティーノ作品ばりのマニアックかつ細かいオマージュで構成された回となっている。


 その他にも、物語のカギとなる10年前に行われたミミナシ掃討作戦「プロジェクト・フリーダムフェスティバル」のチラシが、1969年に開催されたロックフェス「ウッドストック・フェスティバル」のポスターデザインを模したものだったり、その掃討作戦の切り札として投入された祈手(プレイヤー)が、ウッドストックで伝説的なライブを繰り広げたことで知られるジミ・ヘンドリックスをモデルにしたジミ・ストーンフリーであることを考えると、本作には、ロックの故事や歴史を知っていればいるほど深読みできる仕掛けが、いたるところに張り巡らされているのではないだろうか。


 なおかつ『LISTENERS リスナーズ』が斬新なのは、音楽をテーマにした作品でありながら、今のところ劇中で音楽を奏でるシーンが一切登場していないことだ。祈手(プレイヤー)たちはアンプ型の装置・AMPを、イクイップメントと呼ばれる戦闘メカに変形させて戦うわけだが、例えば楽器を弾いたり、歌をうたうといったアクションを行うことはない。それどころか、第2話でミュウが鼻歌をうたうシーンがあるのだが、それに対するエコヲの「それ何?」という反応から察するに、そもそもこの世界では音楽や歌といった概念が存在しない、もしくは一般的なものではないようだ。


 おそらくこのあたりにミュウやミミナシの正体を含めた本作の謎が隠されているのだろうし、その「音楽という概念が存在しない世界」という設定自体が、「音楽」の根源的な魅力を描き出すためのトリガーになっているような気がする。まるで現実のロック史を巡るような、エコヲとミュウの旅路は、一体どのような結末を迎えることになるのか。アニメ好きはもちろん、普段アニメには馴染みがないという音楽ファンの人にこそ、ぜひ観てほしい作品だ。


■流星さとる
流浪の人。アニメ・声優・アニソン関連のライター仕事、よろず承ります。お問い合わせは【ryuseisatoru@gmail.com】までどうぞ。


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