NHKのリモートドラマ3作が伝えるもの コロナ以降のテレビドラマを示す作品に?

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2020年05月30日 06:01  リアルサウンド

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写真『ホーム・ノット・アローン』写真提供=NHK
『ホーム・ノット・アローン』写真提供=NHK

 新型コロナウイルス感染症による国難で、テレビ各局、ひいてはエンターテインメント業界全体が有史以来の危機を迎えている。春期ドラマが軒並み放送延期・放送中断を余儀なくされ、とにかく「スタジオ・ロケで新たな撮影ができない」という致命的な状況下、『今だから、新作ドラマ作ってみました』『ホーム・ノット・アローン』『Living』という3作のリモート・ドラマをNHKが先陣を切って制作したことは、大きな転換点となったのではないだろうか。


参考:広瀬すず×広瀬アリス、永山瑛太×永山絢斗、初共演の感想は? 『Living』収録を終えて


 第1弾として5月4日、5月5日、5月8日に放送されたのが、3本のオムニバスによる『今だから、新作ドラマ作ってみました』だ。4月7日の緊急事態宣言を受けて企画が発足、打合わせ・制作をすべてテレワークで進行、企画立ち上げから2週間で撮影開始、1カ月以内に放送というスケジュールは、ネットと違い「採択の時間」を要するテレビ局としては最速のスピードといえるだろう。


 第1夜「心はホノルル、彼にはピーナツバター」では『女子高生の無駄づかい』(テレビ朝日)の矢島弘一を脚本に迎え、満島真之介と前田亜季がコロナでハワイ挙式が中止になった遠距離恋愛カップルを瑞々しく演じた。


 第2夜「さよならMyWay!!!」の脚本は『お葬式で会いましょう』『大江戸ロボコン』(ともにNHK)の池谷雅夫が執筆。幽霊となって現れる亡き妻と残された夫の対話を竹下景子、小日向文世のベテランコンビが熱演。トリを飾る第3夜『転・コウ・生』は、脚本を大河ドラマ『おんな城主直虎』(NHK)の森下佳子が手がけ、柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生が主演。「“ほぼ”本人役」の三者の心と身体が入れ替わるという、ベタな設定でありながら不思議な切実さの感じられるファンタジーに仕上がっており、企画を立ち上げた岡本幸江プロデューサーを含め「直虎組」ならではのワンチーム感が功を奏していた。


 第2弾『ホーム・ノット・アローン』は5月18日〜22日に関西地区で放送され、このたび5月31日(5月30日深夜)に全国でも放送される。連続テレビ小説『スカーレット』でブレイクした松下洸平と桜庭ななみが主演を務め、脚本を『心の傷を癒すということ』(NHK)の桑原亮子が担当。制作統括はNHKスペシャル『世界ゲーム革命』をはじめテクノロジー分野のドキュメンタリー番組を数多く手がけてきた小川徹、そして『カーネーション』『みをつくし料理帖』『心の傷を癒すということ』など、骨太な人間ドラマの立役者として知られる城谷厚司。2分×5話、10分間のショートドラマながら、精鋭の叡智が詰まった作品となっている。


 物語は、アパレルメーカー企画部で働き、目下ステイホーム中の田中くみ子(桜庭ななみ)が、見ず知らずの居酒屋経営者・常林浩也(松下洸平)のスマホに間違い電話をかけることから始まる。ハプニングがきっかけでビデオ通話をし合うようになった2人が、少しずつ自分のことを語り出していく。設定としては至極シンプルなのだが、この非常時ならではのイレギュラーな心理状態が、2人の心が動いていく過程にリアリティをもたらしている。


 リモートドラマには著しくカメラワークが限定され、画が単調になってしまうという不可避のハンデがある。だからこそ台詞の良し悪しが非常に際立つものだが、桑原亮子による“一言入魂”の繊細な言葉選びが冴え渡っている。2分×5話の間、始終2人のどちらかが喋っていながら、豊かな余白と余韻があるのだ。全5話はすべて「断続的な別々の日」という設定なのだが、まったく知らない同士だった男女が日に日に距離を近づけていく様を主演の2人が繊細に演じている。桜庭ななみが番組公式サイトに寄せた「不要不急の外出を控えてくださいと言われる中で、自分の仕事は不要不急なのかと思ってしまう人もいると思うんです」というコメントは、奇しくも「エンターテインメントは不要不急なのか」という問いにも通じている。短い作品なれど、心にちょっとした(線香花火ぐらいの)火が灯るこのドラマ。いつか同じチームで連続ドラマを実現させてほしいと願ってしまう。


 5月中に放送開始するリモートドラマとしては最後になる第3弾『Living』(5月30日/6月6日)は、なんといっても企画の豪華さが目を引く。『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)、『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)、『カルテット』(TBS系)など数々の名作を手がけ、2018年の『anone』(日本テレビ系)を最後に「連続ドラマ執筆お休み」を宣言していた坂元裕二が、このような特別企画のドラマを書き下ろすとあって期待が高まる。さらに、主演を務めるのが広瀬アリス・広瀬すず姉妹(第1夜・第1話)、永山瑛太×永山絢斗兄弟(第1夜・第2話)、中尾明慶・仲里依紗夫妻(第2夜・第3話)、青木崇高・優香夫妻(優香は声のみの出演。第2夜・第4話)と、このタイミングでなければ叶わない夢の競演が実現する。この非常事態を、超人気俳優たちのスケジュールを即押さえられるアドバンテージへと逆転してみせた訓覇圭プロデューサー(『あまちゃん』『いだてん〜東京オリンピック噺(ばなし)〜』の制作統括)の采配に拍手を送りたい。


 こうして見てみると、5月中に放送開始されたこの3作品だけでもそれぞれに特色があり、なおかつ進化を遂げていることがわかる。「作ってみました」というタイトルのとおり、スピーディーかつ大胆にトップバッターを飾った『今だから、新作ドラマ作ってみました』、ショートドラマなれど“短時間入魂”の『ホーム・ノット・アローン』、そして、パッケージとして特別感のある『Living』。このフットワークの軽さはスポンサーの制約がないNHKだからこそ実現できたのだろう。


 「リモートで作ってもクオリティが知れている」「やっぱりスタジオ撮影でないと」等々、難癖をつけようと思えばいくらでもつけられるし、テレビマンたちのなかにもそういった逡巡はあるだろう。しかし、「四の五の言う前にとにかく手足を動かせ、踏み出せ、行動しろ」という強烈なメッセージを、この5月中のNHKリモート3部作から感じた。忘れてならないのは、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、コロナの状況が、ひいては世の中全体が今後どうなるか、誰にもわからないということだ。それでも生きていかなければならない。自分の頭で考え、今できる工夫をして生き抜かなければいけない。人も、企業も、社会全体もだ。これからは「本当に必要なものが残る」時代になっていく。そんななかで、この3部作は確実に、コロナ以後のテレビドラマ制作のガイドラインになったと言えるのではないだろうか。


■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。


このニュースに関するつぶやき

  • NHKのリモートドラマ3作が伝えるもの コロナ以降のテレビドラマを示す作品に?(リアルサウンド-05/30 06:01)先日の三部作より映像はキレイですね…どこかのスタジオを使ったのでしょうか、カメラどこにあるかわからんですね。
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  • NHK叩いてる人は当然見ないんだよな?
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