中村蒼、“推進力”として『エール』で主人公を導く 悲しい幕引きとなった鉄男の恋物語

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2020年05月30日 06:01  リアルサウンド

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中村蒼『エール』(写真提供=NHK)

 “福島三羽ガラス”の登場で大いに盛り上がった『エール』(NHK総合)第9週。「東京恋物語」と題された今週は、裕一(窪田正孝)の幼なじみである鉄男(中村蒼)の恋と、音(二階堂ふみ)が音楽学校の記念公演のヒロイン役を掴む上で「男女の機微」を学ぶ必要があったことを表している。裕一にとっては初めてのレコード発売、音にとっては記念公演の最終選考を勝ち抜き無事ヒロイン役を射止めるなど、古山家にとっては大きく歩みを進める姿を描いた週でもあった。


 一方で、印象深い姿を残したが悲しい幕引きとなったのは鉄男の恋物語だろう。裕一と共にレコード発売にこぎつけ、作詞家デビューするものの、自身の恋愛では惨敗。想いを寄せていた希穂子(入山法子)との関係は思うように進まなかった。裕一から “大将”と呼ばれる鉄男は、その名の通り腕っ節が強く、曲がったことが嫌いな少年時代を過ごす。今もその魅力は変わらず、強さと繊細さを持ち合わせたキャラクターだ。


【写真】恋仲だった頃の鉄男(中村蒼)と希穂子(入山法子)


 そんな鉄男を演じるのは中村蒼。第18回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞したことで芸能界デビューする。ドラマ作品では『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス2011』(フジテレビ系)での佐野泉役や『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)で宮沢綾役を演じたことで注目を浴びる。『せいせいするほど、愛してる』での中村は自らが思いを寄せるヒロイン(武井咲)を自社に引き抜こうとする敏腕広報マンとしての姿が印象的だった。コンテストでグランプリを受賞するほどのイケメンであり恋愛ものへの出演も多いため、ヒロインと恋仲になる相手役から恋敵まで演じてきた中村だが、本作ではここにきて悲恋の青年として、恋する人への切ない瞳や酒で荒れる姿など様々な姿を見せてくれた。


 中村の芝居で特筆すべきは、鉄男というキャラクターの芯の強さと繊細さの二面性をよく理解し演じている点だろう。まっすぐで曲がったことが嫌いな鉄男は、幼少期の裕一を救うこともあれば喝を入れることもある。それは大人になってからも変わらず、自分が正しいと思うことを貫く強さを持っていた。だが一度詩を書かせると、細やかな気持ちの揺れを掴むような繊細な文章を紡ぐ。中村はそんな鉄男の姿をバランスよく演じており、誰かに“寄り添い”背中を押すという鉄男の優しさを強く表現していた。キリッとした眉、力強い瞳と、裕一と比べるとややどっしりとした佇まいは、“福島三羽ガラス”の中での鉄男の立ち位置を物語っている。普段はあまり積極的に前に出るタイプではないという中村。そんな中村が表現する鉄男は、意志は強いが決して強引ではなく、“相手を思いやる気持ち”が非常によく表れている。


 本作において、鉄男は主人公らを前に進ませる「推進力」のある役として描かれる。それは恋をしていた希穂子に対しても変わらなかった。「話がしたい」としきりに希穂子に伝える鉄男は、いつだって希穂子の気持ちの真実を知ろうとしていた。そして希穂子が“人のために嘘をつく”ところがあることにも気づいていた。実は音に足りなかった“言葉の裏に隠された本心”を読むことが、鉄男には自然とできていたのだ。


 希穂子に対して“人のために嘘をつく”と指摘したことも、本当は嘘で固めて鉄男を遠ざける希穂子からなんとか本心を引き出したかったのだろう。この鉄男の恋物語は悲恋に終わったものの、音にとって大きなインスピレーションとなり、音は選考会でヒロインの座を勝ち取ることができた。そして鉄男自身にとっては希穂子への思いが歌詞へと昇華され、「福島行進曲」のレコード発売へと繋がる。鉄男の恋は芸の肥やしとなり、自身を含め裕一や音にとっても強い影響を与えることとなった。今は華々しいデビューを飾った真っ只中にある鉄男だが、この後裕一らと共に作詞家としてのキャリアを歩む中、どんな苦労が待っているかは計り知れない。そんな鉄男の人生を見守りたい。


(Nana Numoto)


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