ソーシャルディスタンスが招く「鬱」と「死」に警鐘 ポストコロナ自殺者27万人の試算

13

2020年05月30日 09:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真AERA 2020年6月1日号より
AERA 2020年6月1日号より
 ソーシャルディスタンスが求められる中で、居場所を奪われ、追いつめられている人々がいる。緊急事態宣言が明けても、学習した恐怖はなかなか消えない。経済が悪化すれば、失業者が増え、自殺が増えることも予想される。AERA2020年6月1日号から。

【「心を弱らせない」九つのポイントはこちら】

*  *  *
 コロナ禍で多くの人が生活の変化を余儀なくされ、不安やストレスを抱えている。いま、各種の電話相談にはさまざまな悲鳴が寄せられている。

 ひとつの居場所がなくなることが、社会的に弱い立場にいる人に強いストレスを与えている。人形町メンタルクリニック院長の勝久寿医師は言う。

「高齢者、子ども、心身に重い病気を抱えている人たちは、どうしてもデイサービス、学校、病院、自助グループなど『一つの柱』の重要性が高くなり、その他の柱を充実させることが困難になります。柱とは『居場所』でもあるため、そこへのアクセスが断たれると生活のバランスが崩れ、メンタルの不調が表れやすくなるんです」

 生活困窮者を中心に支援活動を行うNPOほっとプラス代表理事で、「生存のためのコロナ対策ネットワーク」共同代表も務める藤田孝典さんも、「集まれないことが何より厄介」という。

「『コロナ禍』の最たるものは、間違いなくソーシャルディスタンスです。集まって経験を語り合ったり、それがストレスを緩和する重要な方法。私たちがケアするうえでいちばん大切にしてきた、いわば武器が奪われたこの状況はつらいですね」

 同ネットワークでは5月2日と3日に、全国30会場ほどで電話相談会を実施。約300件の相談があった。経済的に困窮する人からの相談が多く、見えてきたのは深刻な「うつ」、そして「死」「自殺」というキーワードだ。

 失業中という20代の男性は、友だちと飲んだり集まったりもできず、「失業中の自分の話を聞いてくれる人はどこにいますか? 鬱々としてもう死にたい」と話した。住宅ローンを払えなくなったという30代の男性は、「次にローンを払えなくなると家から追い出されてしまう。どうしたらいいでしょう」と、過呼吸気味の状態で泣きながら電話してきた。

「家を失うなら、死んだ方がまし。そんなことを口にされる方は増えてきています」(藤田さん)

 今後、不安やストレスによるメンタル不調から、うつ病など深刻な精神疾患へと移行する可能性を指摘するのは、前出の勝医師だ。その理由として、今後、感染症によって「私たちの行動が変容していくこと」を挙げる。新型コロナウイルス自体は目に見えず、人間が媒介するため、結果的に私たちの中に人間への恐怖が生まれる。その恐怖は強力に学習され、「コロナ後も簡単には消えることがない」。

「個人や大切な人の健康を優先する気持ちから、しばらくは大勢で楽しく過ごすことも難しいでしょう。よく知っている人でも何らかの警戒心が生じ、ましてや新しい親密な関係を築くことは困難になる」(勝医師)

 居場所を取り戻すことや新しい居場所をつくることも、すぐには難しくなる。

 だが、ポジティブな感情は、人間関係においてこそ生まれるもの。「3密」のうち「密集」「密接」は本来、大切なものだ。

「居場所を確保する機会を失うことは、ストレス耐性を低下させ、メンタルヘルスを脆弱にします。適応障害、不安障害、うつ病、依存症などを発症する危険性を高める可能性がある」(同)

 今後の最大の懸念は、経済の悪化により失業者の増加が確実視されることだ。

「失業は職場という重要な居場所を失うばかりでなく、経済的問題から家族、友人関係、趣味などの居場所にも、大きな影響を与えます。結果として、社会的立場や役割などのアイデンティティーに強い衝撃を与え、大きな喪失体験となり、うつ病や自殺につながる恐れがある」(同)

 今後の自殺についての研究もある。京都大学レジリエンス実践ユニットは、失業率と自殺者増の相関関係に基づき、今後の自殺者数を推計したシミュレーションを発表した。コロナ収束を1年後と仮定する「楽観シナリオ」でも年間自殺者数は3万人を超え、2019年の水準に戻るまで19年かかり、その間の累計自殺者は14万人増加する。収束まで2年の「悲観シナリオ」では、19年の水準に戻るまで27年間、累計自殺者は27万人増という計算だ。

 厚生労働省は4月の自殺者数が前年の同月よりも約20%減と発表した。一見朗報に思えるが、3.11後は景気悪化で自殺者が増加した。前出の藤田さんは、「みんな大変なんだから我慢しよう、という意識があることで、何とか持ちこたえているのでは」と分析し、こう話す。

「問題は経済活動が再開された後です。『あの人はうまく仕事ができているのに、自分はまだ仕事が見つからない』『あの人はこの経済危機で家族を失わなかったのに、自分は離婚してみじめな状況だ』など、他との比較が始まります。そこで決定的なストレスを受けることになります」

 だからこそ、国や行政は雇用の確保と社会保障の整備を最優先すべきだという。

「働いている人たちで言えば、働く場所が大きな居場所ですから、間違いなく失業がいちばんの自殺リスクになります」

 藤田さんが、政府や行政に出してほしいと考えるメッセージがある。失業して生活保護を受けたとしても、自分を卑下する必要はない、ということだ。

「『生活保護を受けて、いったん落ち着きましょう』と説得して、やっとそこまでこぎつけても、自殺してしまう人がいる。『すみません、耐えきれません、国のお世話になりたくありません』と一筆書いて首をつられる方もいます。人を頼る、社会に頼ることに慣れてないんです」

 勝医師は、「政策とは国民の健康や幸せを『最大化』すること、という行政の本来の目的を見失わないでほしい」と語る。感染症のリスクから国民の命を守ることと、経済活動とのバランスを取ることは難しい。しかし、感染症のリスクを完全になくすことが不可能である以上、日本の感染死者数が欧米より少ない現状では、死亡者数に見合った対策を、バランスをとって行うべきではないか。

「自粛要請などで人々に欧米並みの恐怖が植えつけられ、欧米並みの制限や政策でないと安心できない状態にあるようにも見えます。しかし、こうした政策の副作用である、人間への恐怖が人間関係を分断すること、経済の停滞で失業が増えうつ病や自殺が増える可能性があることに、行政の注意が十分払われているとは思えません」(勝医師)

 いま、追いつめられている人々がいる。その命と心を守ることは急務だ。(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2020年6月1日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • 【日本人以外世界中の人々はスト等して権利と収入を守りました】我が身に降り掛かり気付いても時既に遅いです【優先順位を考えて】とずっとメッセージを続けてきましたが残念
    • イイネ!6
    • コメント 0件
  • 致死率0.2%の病への恐怖(への洗脳)に取り憑かれた結果。
    • イイネ!19
    • コメント 11件

つぶやき一覧へ(10件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定