振付ユニット CRE8BOY、“キャッチー”を大事にする理由 平手友梨奈、野口衣織らパフォーマーとしての魅力にも言及

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2020年05月31日 11:41  リアルサウンド

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撮影:池村隆司

 J-POPシーンの最前線で活躍する振付師にスポットを当て、そのルーツや振付の矜持をインタビューで紐解いていく連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」。第8回となる今回は、CRE8BOYに取材した。“振付ユニット”として活動する彼らのルーツやスタートを振り返るとともに、後編となる本稿では、彼らが振付を手掛けてきたアーティストの中で魅力的だと感じたパフォーマンスや、“ダンサーを増やす”のではなく、“ナチュラルにダンスを楽しむダンス人口を増やしたい”というCRE8BOYの思い、また、今後一緒に仕事してみたいアーティストなどについて話を聞いた。(編集部)


(関連:振付師・ダンサーTAKAHIROが語る、欅坂46の表現が進化し続ける理由「言うならば、振付は器」


■平手友梨奈、野口衣織、フェアリーズ……振付師からみたパフォーマンスの凄み


――日向坂以外にも乃木坂46や複数のAKB48グループの振付を手掛けられていますが、グループごとのダンスのカラーをどういう風に捉えていますか?


秋元:乃木坂46はスタッフさんからも“可憐に美しく、エレガントに”というワードが出てくるので、自然にそういう雰囲気が作品を通して見えるようにしたりといった振りの色分けの仕方はしてますね。たとえば日向坂だったら腕を元気いっぱいに伸ばすところを、乃木坂だったら手を差し伸べるような感じにしてみたり。


――白石麻衣さんの卒業シングル曲「しあわせの保護色」は振付にあたってはどういうポイントを意識されましたか? MV用の振付と歌番組やライブ用の振付がそれぞれあって、かなり悩まれた部分もあるかと思うんですが。


秋元:そうですね、あの曲は楽曲やMVの完成までにイメージが二転三転したりしたので、そこまでが本当にすごく大変でした。


山川:でも最終地点として白石さんが悔いなく卒業できる曲にしようということで、衣装からサウンド面や僕らの振付についても、綿密にみんなで相談しながら進めました。わりといつも振付は固めて出すことが多いんですけど、この曲では目線をどこにどう向けるかとか、些細な点も細かく相談しながら完成させて。


――SNSでCRE8BOYさんの振付に言及しているツイートがたくさんあるんですけど、この曲では卒業メンバーを囲むように円を作る振付が好きだという声が多かったですね。


秋元:MVはプロム(注:アメリカなどで高校の学年最後に行われるダンスパーティ)っぽくというのがテーマだったので円を作るダンスや、ペアで手を繋いだりするシーンのヒントになっていましたね。


――2017年の『FNS歌謡祭』で欅坂46時代の平手友梨奈さんが平井堅さんの「ノンフィクション」で踊った時に、振りの中で歌詞を忠実に再現したり、情景が見えてくるようなダンスが話題になりました。CRE8BOYさんの振付には感情が強く出ているなと感じます。


秋元:時間が取れる限り振付や作品についても話すようにしているので、そういうステップがあると、どんどん踊り手にとっても作品の輪郭がはっきりしてくるし、かつ、見る人にもより伝わりやすくなってくるだろうなと思います。


山川:なかなか難しいんですけど、振り入れと同じくらいその曲について話す時間があったらなとは思いますね。


秋元:初めてAKB48の振付をやらせてもらった時には「こんなタイトな時間でやるんですか?」って驚いた記憶があります。


山川:本当に忙しいメンバーだと10分振り入れで「はい本番!」とか。


秋元:でもAKBグループの選抜に選ばれてくるような子たちはとくに振り覚えが早くて驚きますね。あっという間に覚えていくので、鍛えられてるなと。


――さっき平手さんの話が出ましたが、彼女の欅坂時代のソロ曲「角を曲がる」の振付もされていますね。


秋元:「ノンフィクション」があって、その流れでMVの振付のお話をいただきまして、内容的には映画『響 -HIBIKI-』の監督の月川翔さんがプランを考えて下さったんです。その結末に、2人の平手さんが出てくるんですが、鬱々として座り込む平手さんと晴れやかに踊る平手さん、最後にどちらをフィーチャーするのかについて、結構みんなで悩みました。MV撮影の時も、「ノンフィクション」の時もそうでしたが、彼女は常にギリギリまで悩み続けてそのまま本番に行くところがあって。「角を曲がる」の時も最後の最後まで「どういう気持ちで踊るのか」「どういう気持ちであそこに立つのか」みたいなことをギリギリまで話して決めましたね。


――実際にパフォーマンスを『ミュージックステーション』で披露した時には晴れやかに踊る方が採用されましたよね。


山川:本人が心の底でどう思っているかはわからないですけど、見てくれている人に曲の理解度を深めてほしいというのが一番強い気がしたんです、言葉尻からそういうものを感じたというか……。「この曲の世界が一番伝わるためにはどうしたらいいのか?」ということを考えに考えて、あの曲の最後に、全部包んでくれるような表情で終わった方がこの曲がちゃんと理解してもらえるんじゃないか、という結論でそちらをチョイスしていた気がします。


――それを受け取ったリスナーそれぞれに曲について考えてほしいということですよね。振付する側のお二人から見た、パフォーマーとしての平手さんはいかがですか?


秋元:最高ですかね。自分たちが付けた振りの持つパワーを倍にして返してくれるし、より高めあえる気がします。なので、表現者として本当に出会えて良かったなと思います。あの曲は彼女でなければ成立しないものだったと思うので、彼女に踊ってもらえて本当に良かったという気持ちもあります。


山川:僕らは枠組みを作って提供をする側で、その枠組みをどう使うかは人それぞれなんですけど、平手さんの場合はその枠組みをバーンと取っ払ってしまうような感じなんです。僕らが作った枠組みに対して、その可能性をもっと広げてくるというか「そういう方法もあるよね」的なアハ体験をさせてくれるところがある。表現者としてもすごいんですけど、その中にクリエイティブを感じるところがすごくあって、作り手側の目線も持ち合わせているような印象です。


――ちなみに今までに振付を手掛けてきたアーティストの中でパフォーマンスが魅力的だと感じた方はどなたですか?


秋元:=LOVEの野口衣織さん。「手遅れcaution」を見てほしいです。ライブがまた、すごいんですよ。


――アイドルでありいち表現者というか、最初に出てきた時にはいい意味で浮いて見えました。


山川:僕らが作った枠組みの中の空間を埋め尽くしてくるタイプですね。一度イベントで「手遅れcaution」を青空の下で観たんですが、ポップでパステルカラーの背景なのに、あの子の勢いだけでガラッと場の雰囲気が変わるんですよ。何度見ても拍手したくなります。


秋元:どうしても見たくなるよね。=LOVE自体が面白いなと思うんです。たとえば「手遅れcaution」を踊るときに過剰な感じを出すのが普通なんですけど、諸橋沙夏さんはみんなが熱くなっているのにスッと引いて軽くウインクして、“悪い女”的なパフォーマンスをしたことがあって、あの曲で引き算ができる表現力がすごいなと思いました。あとグループでいうと、SKE48の「金の愛、銀の愛」が僕たちのAKB48グループで一番最初の振付作品なんですけど、ぜひYouTubeでパフォーマンスを見ていただきたいです。今振り返っても、みんながすごい表現をしてくれたなと思います。


山川:歌割がある子は歌に集中してほしいので、振付にもちょっと隙間があるんですよ。でも、動画で見返したりすると、表情や手の使い方とか、曲の世界観を感じるような動きを自分たちで出したりしていて、SKEの子たちはそれをよくやってくれたなあと。


――彼女たちはとくにダンスパフォーマンスに強いグループというイメージがあります。


秋元:そうですね。歴代の先輩がみんなしっかりしているから、リハーサルのときにメンバー内でも注意しあってくれるんですよ。それが他のグループにはあまりない傾向だと思います。SKEは元気に頑張って踊ることを大事にしているし、そこも面白くていいですよね。


山川:僕らが言わずとも「みんな聞いて!」って始まりますからね。ちょっと体育会系なところもSKEの良さというか。


――テクニカル面でいったら近年のシングル表題曲のほとんどを手掛けているフェアリーズもすごいですよね。


山川:彼女たちは、もうプロすぎるんです。


秋元:シンプルにダンスが上手い。しかもその上手さが、ダンサー目線で見た上手さで、体の使い方を熟知しているんですよね。例えばアイドルの子たちの振付に入れるには難しかったり細かすぎるような動きでも、フェアリーズなら細かい動きや表現を揃えてお客さんに伝えることができるから、振付にあまり制約を入れなくていいし、何でもやってくれるから素晴らしいですね。


――ライジングプロダクションのアーティストらしさとしてシンクロ感を重視したダンスがあると思うんですが、「Synchronized 〜シンクロ〜」なんかは歌詞の世界観をダンスでもバチッと表現しているような……。


山川:そうそう、揃いすぎて怖かったです。あれでガッツリ歌うんですからバケモノですよね。あんなアーティスト、しかも女の子のグループではなかなかいないんじゃないかなって思っちゃいます。


――“キャッチー”というキーワードに戻るんですが、CRE8BOYさんの振りって、まったくダンス経験がない人でもついつい真似したくなるところがありますよね。


山川:そこなんです。ダンス人口を増やしたいんですよね。


秋元:僕たちはダンサーを増やしたいわけじゃないんです。見てくれた人がナチュラルにダンスを楽しんでくれれば、それが一番“振付師冥利”に尽きるなという感じです。日本人っておとなしいじゃないですか、たとえば作品に関する打ち合わせでも座りっぱなしだったりして。でも振付の話をしている時に相手が「こういう感じで」とか少し動いてくれるだけでも、楽しいと思ってやってもらえているのならそれが一番だなと思うんですよ、キャッチーの醍醐味はそこなので。かくいう僕らもキャッチーという言葉の解釈で迷子になることはあるんですが(笑)、その振付に触れて、誰かがそれに対して話したり、身体を動かしたりしているときに、その人の中で幸せホルモンがちょっとでも出ていたらいいなというのはありますね。


――J-POPの中でのキャッチーの定義はまさにそこかもしれませんね。


秋元:それが“日本ハッピー化計画”ですよ。


山川:大きく出たねえ(笑)。


――そういう思いがTikTokみたいなところで短く切り取られた動画でも伝わっているんじゃないかと思うんです。あとはみなさんでも「振付けてみた」動画を上げていらっしゃいますけど、ダンサーとしての活動も並行されているんですか?


山川:ごくまれにそういうオファーが来る時もありますが、パフォーマンス集団ではなく、あくまで振付集団としてできるところまでやりますという感じです。あの「踊ってみた」は定点の振付動画を見たい人もいるんじゃないかということで、ファンの方がライブの時にマネして一緒に踊ってくれたりするような楽しいポイントを作れたらいいなという主旨の見本動画みたいなものなので。


――お二人が今注目されている振付師やダンサーの方はいらっしゃいますか?


秋元:Phillip Chbeeb(参考:Instagram)という振付師がいるんですが、ヤバいです。もはやペアダンスって呼んでいいのかもわからない域で、Instagramで載せている動画がものすごく面白いんですよ。想像がつかないような動きをしてきます。


山川:すごく無秩序なようでいて、でもその流れが全部きれいに繋がっているんです。


秋元:相当体幹を鍛えていないとできないような動きで、形も面白いし流れもすごい。たとえば3人で床に寝そべって踊っている動画(参考:Instagram)もあって、そういうアイデアも含めていい意味で相当イカれてるなと思うんですよね。


――やはりインプットにはInstagramを活用されていますか?


山川:そうですね。僕はよくPARRI$(Parris Goebel)のを見てます。BIGBANGや2NE1などYGエンターテインメントのアーティストの作品でも知られていますけど、一番有名なのはジャスティン・ビーバーの「Sorry」で一気に火が着いたんですよね。


秋元:あと理想的な作品ということで言うとAKBの「願い事の持ち腐れ」です。僕的にはAKBの今までのすべての振付の中で一番いいなと思っていて。あれは名振付ですね。


――センターが松井珠理奈さんと宮脇咲良さんの踊れる2人というのもありますね。


山川:僕もあの曲が一番いいと思う。歌割を見せるという点でもすごく上手くできていて流れが本当にいいのと、サビの振付も面白くて曲の世界観に合っているので、完璧だなと思いました。


――なるほど。今後一緒に仕事してみたいアーティストやタレントはいますか?


秋元:最近はずっと同じことを言い続けているんですけど、King Gnuさんとやりたいですね。彼らの曲が、めちゃくちゃ踊れるんですよ。踊りたくなる曲でアートセンス的な部分もすごいですし、面白い表現ができそうだなと思うので、ぜひ一度一緒にやってみたいなと思っています。


山川:僕もほぼ毎晩家でKing Gnuで踊ってますね。かぶったな(笑)。


秋元:あと、米津玄師さんもいつかご一緒したいアーティストですね。


――さっき「集団行動」の話が出ていましたが、米津さんがMVの中で踊ったりされているようなコンテンポラリーというか、不規則な動きもお好きなんですか?


山川:どっちも好きです。集団行動的なものも、感情をバーンと表に出すようなものも。


秋元:わりと極端に、両方好きかもしれないですね。


――そういう意外な方との共演も今後見られるかもしれないと期待しています。


秋元:そうですね、言ったらたぶん叶うんじゃないかなと思うんで。一緒にやりたいです!


山川:僕はもう一人、椎名林檎さんですね。僕の中で「林檎さんとあのダンス、めっちゃ合うでしょ!」っていうジャンルがまだ組み合わさっていないのが、すごくもどかしくて。


――ちなみにどういうダンスを思い描いているんですか?


山川:社交ダンス的なニュアンスの、ボールルームダンスです。前に阿波踊りも合うなと思っていたんですけど、以前にライブで阿波踊りはされていて。しかも本人とビッグバンドが演奏して、その前を阿波踊りの人たちが囲むっていう画力のヤバさで、それを見た時に「キーッ、俺もやりたい!」と思ったんですけどね(笑)。彼女の品があるところがボールルームダンスとすごく相性がいいんじゃないかと思っていて、そういうものを提案できたらいいなと思っています。


――普段は歌って踊るアーティストではない方も、振付師の方とのコラボで生まれる化学反応を楽しんだり、面白いと思うんじゃないかと思います。


山川:僕らの振付ってわりと可愛い感じに見られがちではあるんですけど、他にもいろいろやりたいことが、死ぬほどあるんですよ。


――これまでお話を聞いてきて、お二人の意見が合致しているポイントが多いと思ったんですが、意見がぶつかったりすることはないんですか?


山川:基本的にクライアントから振付のテーマやコンセプトが必ず降りてくるので、それに沿っているかどうかという話し合いはするんですけど、そこで意見が食い違って「そうじゃねーだろ!」みたいな展開にはならないですね。あくまでそのコンセプトがある中で、話し合う感じでやっています。


――振付師という職業が注目され始めてきたここ10年くらいの流れの中でも、振付師のユニットというのは珍しいと思うのですが、CRE8BOYさんのチームとしてのルールみたいなものはありますか?


秋元:“丁寧に、優しく、基本ハッピーに”というのが絶対的にベースにあると思います。たまに若い子たちの振付のときに「厳しく怒ってください」と頼まれることもありますけど、基本的にはみんなが楽しく踊れるようにというのがベースにあります。


山川:あと振りを作る上で1人で作るということは絶対にしないですね。必ず複数人で、どうしても現場が割れちゃう場合もありますけど、そんな中でも3〜4人以上で作るようにはしています。


――振りを付けるプロセスにおいて、必ず誰かと話し合うということは決まっているんですね。


山川:まず作る前に「こういう風に進めるよ」という流れだけを決めて、だいたい誰かがメインで作ったものをみんなでブラッシュアップしながらまとめていく形が多いですね。そうすると暴走が起きないといいますか、いろんな角度から見てこういう風にした方がいいという意見を組み合わせた振付になるので。


――J-POPシーンの中でも振付に対する注目度が年々高まってきていますが、当事者としてその実感はありますか?


秋元:そうですね。いろんなところで徐々に、振付師のクレジットも出してもらえるようになって……。歌番組やYouTubeでも最初の頃は全然触れられていなかったので、時代が変わったなと思います。


――日本のダンスシーンの中での振付師という仕事の今後をどんな風に見られていますか?


山川:自分の色を出したい人と、クライアントさんの意見を汲んだ上でそれに沿ったものを作りたい人という感じで、シーンが二極化してきそうな予感はします。どちらもありだと思うんですが、前者の方は“見つけてもらう”感覚が強いのかな。これまでの振付師の人たちはわりと後者が多いと思うんですけども、時代的にもSNSだったりで「自分はこういうのを作ってますよ」とアウトプットできる人が増えたので、そういう人たちも見つけてもらいやすい時代なのかなと。


――その二極化でいうとCRE8BOYさんはどちらのスタンスですか? クライアントの要望にも応えつつ、でもCRE8BOYさんっぽさもちゃんとある作品になっているので、個人的にはバランスがいいなと思っているんですけども。みなさんがテーマにしている“魔法のスパイス”が効いている振付というか。


秋元:まさに今言って下さったようなことを言われたことがあって「こちら(クライアント)の意見も組みつついい感じの味も出してくれるから、すごいバランスがいいよね」という言葉がすごく嬉しかったんですよ。それを僕らの持ち味にしていきたいですね。


山川:励みになります!(古知屋ジュン)


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