「永久機関がムリなのはエネルギー保存則が成り立たないから」はちょっとおかしいから、実際に作って考えてみた

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2020年06月01日 20:03  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真今回制作してみる「ボイルの自己循環フラスコ」
今回制作してみる「ボイルの自己循環フラスコ」

 皆さん、永久機関は好きでしょうか? 私は大好きです。



【材料費400円】画像で見る永久機関の制作過程



 永久機関とは、文字通り、永久に動き続ける装置です。それも、ただ動き続けるだけではありません。そこから何らかのエネルギーを取り出せるような装置です。もう少し正確に言うと、「外部からエネルギーを一切供給することなく、永遠に動き続け、しかもそこから外部にエネルギーを取り出せる装置」のことを(第一種)永久機関と呼びます。



 これは夢のような装置です。なぜなら、一度その装置を作って動かしてしまえば、そこから無限のエネルギーを取り出せるからです。石油も原子力も必要ありません。世界中のエネルギー問題が一発で解決します。



 当然、太古から多くの人々がその制作に挑んできました。例えばこんなものが有名です。



 「ロバート・フラッドの循環式ひき臼」では上部の樋に水がたまっており、落下する際に水車が回転。その水車によって、今度は螺旋状のパイプが回り、水を上部の樋にくみ上げます。そして、その水はまた落下して水車が回り、螺旋状のパイプが回り、また水がくみ上げられ……そのついでに、水車の回転で石臼を回せば、人間が何もせずとも永遠に粉をひき続けることができるのです!!



 しかしこの装置は、実際には動きません。



 なぜならば、水をくみ上げるためには水車を何回転もさせる必要があり、そのために必要な水の量と、それでくみ上がる水の量が、全く釣り合わないからです。要するに、水はどんどん落ちるのに、ほんのちょっとずつしかくみ上げられないわけですね。



 歴史上、有象無象の永久機関が考案されてきましたが、いずれも何かしらの理由で実現できませんでした。そうこうするうちに、科学者たちは「エネルギー」というものの存在に気が付き、「エネルギー保存則」というものの存在にも気付きます。そして、こう結論付けました。



 「永久機関は、エネルギー保存則が成り立たないから、作製できない」



 とはいえ、永久機関は夢のある話なので、現代でもいろいろな装置が考案されています。また、“一見、作れそうな永久機関”は結構あり、それが実際にはダメな理由を考えるのは物理の勉強や頭の体操になります。



 もちろん「エネルギー保存則が成り立たないから」で説明できてしまうのですが、その一言で片付けてしまうのはナンセンスです。全ての永久機関はエネルギー保存則を持ち出さなくとも否定できますし、そもそもエネルギー保存則の発見には永久機関の開発が関わってきています。エネルギー保存則で永久機関を否定するのは、順序が逆だと言わざるを得ません。



 それに科学理論というのは、極論すれば単なる経験則です。もしかしたら、過去の人々が失敗しただけで、次こそは本当に永久機関が作れるかもしれないじゃないですか!



 何にせよ、永久機関にチャレンジすることは無意味ではありません。失敗したらその理由を考えることで勉強になりますし、成功したらノーベル賞どころの騒ぎではありません。



 というわけで、今回チャレンジしてみたいのはこちらの永久機関「ボイルの自己循環フラスコ」です。



●ライター:キグロ



5分間で数学を語るイベント「日曜数学会」や数学好きが集まる部室みたいなもの「数学デー」の主催者。数学の記事を書いたり、小説『QK部』を書いたりしている。



●永久機関作ってみた



 器の中に水がたまっており、器からは十分に細い管が伸びています。水は「毛細管現象」により器の上部まで上昇し、管の先端から滴り落ちる、という理屈。毛細管現象とは、水などの液体が細い隙間に入っていく現象のことで、身近なところで言うとぞうきんが水を吸い上げる現象です。



 もしこの永久機関の作製に成功したら、世界中のエネルギー問題が解決し、私の名前が歴史に残ることになります……が、もちろんこの装置も現実には動かないと言われています。しかし、それはなぜでしょうか?



 水が持ち上がらないから? ――しかし我々は、ぞうきんが水を吸い上げることを知っています。



 では、水が管から落ちないから? ――しかし我々は、ぞうきんから水が滴り落ちることも知っています。



 それでも、動かないのはなぜなのでしょうか。実際に作って考えてみましょう。



●「ボイルの自己循環フラスコ」の作り方



 まずは材料集めです。空きビン1個、曲がるストロー2本、ティッシュ1〜2枚、セロハンテープ適量と、ご家庭にあるもので十分作れますし、なければ100円ショップで購入できるものばかりです。



 まずはストローを短く切りましょう。1本はこのようにバッサリと切ります。使うのは曲がる部分がある方です。もう1本はそのままでOK(ビンのサイズに合わせ、必要に応じてカットしてください)。



 そうしたら、2本のストローにねじったティッシュを突っ込み、貫通させたらストロー同士をドッキングさせます。



●作りやすくなる工夫



・ストローに切れ込みを入れておくとドッキングしやすい



・ティッシュは角からねじるのではなく辺に沿ってねじる、細かく折ってからねじるとストローに入れやすい



●この永久機関は動くのか……?(答え:ムリ)



 最後に余ったティッシュを切り落とし、ストローをセロハンテープでビンに固定したら……



 完成です!



 え、地味? まあこの永久機関を世界に広める際には、見た目も気にすべきでしょう。しかし今はまだ実験段階。見た目は二の次で、機能のブラッシュアップに集中します。



 パッと見、元の絵とは異なりますが、装置が働く仕組みは同じです。ビンに入れた水をティッシュが吸い取り、ストローを上って滴り落ちます。落ちるはずです。落ちてくれ。



 さて、輝かしい栄光を期待しながら水を注ぎます。



 また、今回は見ていない間に水が落ちても分かるように、ビンにティッシュでフタをしました。



 後は放置するだけ。もし一滴でも水が落ちたらその瞬間世界が変わります!!



●「ボイルの自己循環フラスコ」がうまくいかない理由とは



 世界中から送られる称賛の嵐を夢見ながら、一晩寝かせた結果がこちらです。



 ビタ一滴落ちていません!!!



 写真では分かりにくいのですが、ストローの出口からはみ出したティッシュがぬれています。つまり、水はちゃんと吸い上げられ、出口まで来ているのです。でも落下はしていません。ぐぬぬ、あと一歩なのに……!!



 なぜ水は落ちてこないのか。ものすごーく簡単に説明すると、“重力よりも強い力”がはたらいているためです。



 毛細管現象により、水はティッシュの詰まったストローの中を上ります。ということは、“重力よりも強い力”が作用しているわけです。一方、出口から落下するときには重力に引っ張られるわけですが、ここでも“重力よりも強い力”がはたらき、ティッシュに留まってしまうのです。



 「いやいや、そうきんから水が滴ることだってあるだろ」と思うかもしれませんが、それはぞうきんが保持できる以上の水を含んでいるから起こるもの。ビンの中にはたっぷり水が入っていますが、まあ考えてみれば当たり前の話で、保持できる以上の水を吸い上げるはずがありません。



 そもそも毛細管現象とは、水が表面積を小さくしようとして生じる現象です。水に管を差すと、管の内壁にごくわずかに水が上がります。その上った水が小さく縮まろうとして、下の水を引き上げることによって生じるのです。



 したがって、管の中の水が満たされていればそれ以上は水が入りませんし、重力に勝るので出口が下向きでも落下することはありません。



 ちなみに、毛細管現象が起こるきっかけの「管の中で水が盛り上がる」現象ですが、管の太さや材質によって上昇量が変わります。そして引っ張り上げる力も、管の太さや材質によって変わります。



「ということは、入口と出口で管の材質を変えればうまくいくんじゃないか?」



 と思ったそこのあなた! そう思ったのなら、ぜひやってみましょう!



 先人の失敗から学び、原因を取り除き、少しずつ成功に近付いていく……。それが科学の歴史であり、人類の歴史です。栄光はその先にあります。



 さあ、あなたも永久機関の沼にハマりましょう!


このニュースに関するつぶやき

  • 犯罪者が刑務所で自転車を漕いで発電するのが1番( ´・∀・`)・∀・` )犯罪は永久に無くならないから
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  • 19世紀にカルノーが思考実験でサイクルエンジンの原理を発案したというのにこの記者ときたら…
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