志村けん、トップを生き抜いた国民的スターの“仕事哲学”とは? 月間ビジネス書ランキング1位『志村流』を読む

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2020年06月02日 08:01  リアルサウンド

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月間ランキング【経済・ビジネス書】(2020年4月 honto調べ https://honto.jp/)
1位 『志村流 (王様文庫)』志村けん 三笠書房
2位 『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方(PHP新書)』橋下徹 PHP研究所
3位 『話すチカラ』齋藤孝、安住紳一郎 ダイヤモンド社
4位 『嫌われる勇気』岸見一郎、古賀史健 ダイヤモンド社
5位 『KFC(R) 50th Anniversary やっぱりケンタッキー! (TJ MOOK)』 宝島社
6位 『知的再武装60のヒント(文春新書)』池上彰 文藝春秋
7位 『「育ちがいい人」だけが知っていること』諏内えみ ダイヤモンド社
8位 『スッキリわかる日商簿記3級 第11版 』滝澤ななみ TAC
9位 『みんなが欲しかった!簿記の教科書日商3級商業簿記 第8版』滝澤ななみ TAC
10位 『シン・ニホン』安宅和人 ニューズピックス


関連:【画像】志村の顔写真入り帯が付いた書影


 4月期のビジネス書ランキングで1位となったのは、新型コロナウイルスによる肺炎のため、3月29日に亡くなったタレント志村けんの『志村流』だ。日本国内で新型コロナウイルスによる著名人の死去が公表されたのは初めてだったため、多くの人に愛されながらも迎えた志村の突然の死は、感染症の恐怖を人々に思い知らせる結果となった。


 多くの惜しむ声を聞き、改めて故人の偉大さを実感した人も多いだろう。付き人を経て24歳でザ・ドリフターズの正式メンバーとなり、「バカ殿様」、「変なおじさん」等のキャラクターや様々なギャグを産み出し、長きにわたりテレビの世界で活躍を続けたのはここで説明するまでもないが、『志村流』では、本人の口から発せられたエピソードにより、そんな志村けんの仕事と人生における哲学をうかがい知ることが出来る。


■「志村は三人いる!?」


 本名・志村康徳である「素の志村」。ドリフの付き人から30年以上も笑いの道を走ってきた「芸人・志村」。自ら創りだしたバカ殿様や変なおじさんを演じている「キャラ・志村」。


 地元の商店街で買い物をしている時の「素の志村」は、私たちからすると意外だが無口で人見知りだという。しかし、酔いながら六本木でファンに声をかけられた時は、「芸人・志村」。しかし、「キャラ・志村」が演じている変なおじさんは、本心。つまりは、成りたい自分であるらしい。


 3人の志村を使い分けながらも、客観的に分析し、己を保つ。だが、これは振れ幅の違いこそあれ、多くの人が行っていることではないか。職場での顔、家族と過ごす際の自分、1人で人生をみつめる瞬間の心の内。自分はどのように生き、どう在りたいか。SNSも当然に利用する現代人なら、芸能人でなくとも、境界を見失わずに自己管理したいものだ。


■「キャラクター・ブランドの長期維持戦略」


 テレビ番組の『志村けんのバカ殿様』は15年続く中でも、放送回数はたったの計25回だと言うのには驚いた。キャラクター・ブランドの維持には「飽きられず、忘れられず」を基本戦略とし、慎重すぎるくらいに露出管理を徹底している。


 その一方で、幅広い支持を得るための派生ビジネスの展開は大きい。マスコットストラップからバスタオルなどの定番ものはもちろんだが、お土産の「バカ殿様人形焼き」は書籍発行時点でキャラクター部門の第2位に輝いた。ちなみに第1位は「サザエさん」だと聞くと、国民的人気がうかがえる。


■「人の鼻の差ぐらい先を読む」


 志村けんファンど真ん中なら、『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の「投稿ビデオコーナー」をリアルタイムで視ていた人も多いだろう。企画打ち合わせで、「素人の撮ったビデオを募集する」と提案した当初は、「まだビデオなんて普及してない」、「素人なんてレベルが低い」とスタッフ全員が否定的だったらしい。


 しかし、コーナーの人気は国内のみならず、TBSがアメリカのテレビ局にアイデアを売り全米で反響を呼んだ。YouTuberが職業として認知される現在では、面白いコンテンツにプロも素人も関係ないのは当然だが、「これから皆にウケることなんて、難しく考えず、誰もが思いつきそうなことを少しだけ早く現実化させればいい」との言葉は、読者の背中も押してくれるだろう。


■「礼儀は永遠に不滅です」


 先輩の芸能人にコントで水をかけるときも、いかにゲストを目立たせるかを考える。礼儀の問題は新しい、古いじゃない。芸能界だからではなく、人間社会のルールだと諭されると、世代を問わず支持され、業界内でも尊敬を集めると言われるのも納得だ。


 ただし、常識は不変ではないとも語っている。「グループサウンズ」が「GS」で通じなくとも、「イチゴ大福」が定番になり「あんこ」は古臭いと避ける人がいようとも、「オツムの回転には柔軟性を持たせようぜ」と、昭和から平成、令和とトップを生き抜いた国民的スターに言われたら、これもまたナルホドと納得だ。


 コロナにより常識も変わってしまった。時代を超えた人気にも、惜しまれつつ亡くなってしまった「人間・志村けん」のエッセンスに、変わること、変わらないものを考えながら学んでみるのはいかがだろうか。


(文=中田英志郎/MARUZEN&ジュンク堂渋谷店)


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