オンライン授業「視線合わない」問題で学習効果に差 研究で明らかになった「効果が下がる学習者」のタイプとは

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2020年06月02日 09:00  AERA dot.

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写真※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
 全国の学校が授業のオンライン化を模索しているが、やはりどうしても対面とは違う感覚は拭い切れない。情報科学・教育工学が専門の共立女子大学、谷田貝雅典教授は、その理由が「視線が合わないこと」にあるといい、テレビ会議システム特有の負の側面と正の側面があるという。また、学習者の属性によって、学習効果に違いが出ることが研究で示されているという。オンライン授業は教育に良いのか、悪いのか、谷田貝教授に聞いた。

*  *  *
――オンライン授業のためにさまざまな学校がZoomなどのテレビ会議ツールを使っています。

 通常、テレビ会議はカメラとディスプレーが離れているため、双方の視線が合いません。これが対面とは違った不自然な感覚を生んでいます。

 私は視線の一致が学習にどのような影響を与えるかを測るため、「視線一致型装置」を用いた実験をおこないました。視線一致型装置とは、カメラの前にハーフミラーを設置し、そこにディスプレーの映像を投影することで、相手の目を見る視線とカメラに向ける視線を一致させる装置です。これを用いて視線一致型、従来の視線不一致型、対面の3パターンで174人の高校生に同内容の授業をおこない、学習効果を比較しました(注)。

 研究でまず明らかになったのは、視線不一致型のテレビ会議では、学習者は「ゆるみ」や「飽き」、「疲労感」をかなり感じやすく、それによる学習効果の著しい低下が見られるということでした。一方、視線一致型と対面の学習効果は同程度でした。

――それはなぜですか?

 視線が一致しないと、リアリティーが削がれてしまうからだと考えられます。たとえば授業中に教員が学習者を指して発言を求めるような形式の場合、「いま目が合ったから指されるかな」といった空気感・緊張感が伝わらない。指されても、目が合わないので自分が指されたのかどうかが一瞬わからない。「間」の取り方がわからないのです。

 また、慣れるまでは相手の発言を聞き返すなど、コミュニケーションが円滑にいかないこともよくあります。このような状態で一生懸命、授業についていこうとすると、学習者に負荷がかかり、疲労感が高まっていきます。視線が一致するかしないかという環境によって、学習効果の格差が生まれるのです。

 また、学習者の属性の違いについても検証しているのですが、

▼優越感(楽観的、自信がある等)が高い学習者は、視線不一致型だと、学習効果が下がる
▼外向傾向(積極的、陽気等)が高い学習者は、視線一致型だと、学習効果が上がる
▼不適応傾向(世間からの疎外感や不満感がある等)が高い学習者は、視線不一致型だと、学習効果が下がる

 といったことがわかっています。

――オンライン授業は対面に比べてまったくダメということですか。

 一概にそうとは言えません。たとえば、粗雑傾向(大ざっぱ、無頓着等)の高い学習者の場合、視線一致型または対面の場合、学習効果はむしろ下がってしまうという結果が出ています。

 また学習者がプレゼンテーションをおこなう形式の授業の場合、対面よりもむしろ視線一致型のテレビ会議のほうが、学習効果が高くなることもわかっています。プレゼンターからすると対面よりもリラックスして発表できますし、プレゼンを見ている学習者からすると、カメラ目線で話しかけてくれるのは、テレビのニュースを見ているような没入感を生むのではないかと考えられます。

 そして基礎学力が高い学習者は、対面において学習効果が上がるものの、とくにテレビ会議だからといって学習効果が下がる結果にはなっていません。ですから学習への意識が高い大学生などであれば、基礎学力も高く、オンライン化による学習効果のマイナスはあまりないと考えられます。とはいえ、先ほど述べたように空気感が伝わらないなどの理由から、学生は疲労感を感じているとは思います。

――視線不一致下でうまくオンライン授業を受けるコツはありますか?

 まず、使用するディスプレーを大きくすることが大事です。ディベート型の授業において、15インチ・30インチの画面をそれぞれ用いた実験をおこなったのですが、30インチ視線不一致型と15インチ視線一致型の間には、学習達成度に有意な差は見つかりませんでした。つまり、視線不一致によって伝わらないリアリティーが、画面の大きさによって補われていると考えられます。

 今はスマートフォンでオンライン授業を受けるという学生もいるかもしれません。私も大学でオンライン授業をおこなっていますが、学生にはHDMIケーブルでテレビに接続するなどしてできるだけ大画面で参加するようアドバイスしています。

 授業をする側にも工夫が必要です。まず、できるだけカメラ目線で話しかけること。質問する際もカメラ目線を維持することで、学生側からすると「先生から質問がくるかもしれない」という合図になります。いつ質問がくるのかわからない状態だと学生もずっと緊張が続いてしまいますが、カメラ目線の合図があれば気が楽になります。

 また一番重要なのは、ファシリテーターやティーチングアシスタント(TA)といった人に、授業を補助してもらうことです。例えば先生が学生に質問するときは、TAが司会のように間に入る。チャットで学生からの質問を受け付けている場合は、TAが質問を選んで先生に聞く。先生と学生がコミュニケーションする際にワンクッション置くことで、先生も学生も、オンライン特有の疲れが減るでしょう。

――今後、視線一致型のテレビ会議が主流になるのでしょうか。

 まだ一般的には視線一致型装置は普及していません。しかし、視線一致に関する研究は1967年にはすでに存在していました。視線が合わないことによる不自然さを検証した結果、カメラはモニターの上部分に設置するのが一番よいということを示した論文です。そして80年代にはNTTが視線一致を実現させる装置の研究を始めています。まだブラウン管モニターの時代です。

 ただ今後も視線一致に関する課題は残っています。たとえば人間は人の目線に非常に敏感で、カメラ目線の二次元の画像は、たとえ5〜6メートル離れた場所にあったとしても、自分が見つめられているような感覚になってしまいます(モナリザ効果)。そのため、視線一致のディスプレーが複数あると、人はその視線に疲弊してしまいます。

 これが二次元ではなく三次元の立体画像であれば、その疲弊も緩和され、複数人のディスカッションを視線一致型でおこなうことができるのではないか。私は今、そのような研究もおこなっています。いままで日本ではテレビ会議はあまり普及していませんでしたが、このオンライン化の流れを受けて、変わっていくのではないかと思っています。

(注)谷田貝雅典・坂井滋和・永岡慶三・安田孝美(2010) 視線一致型および従来型テレビ会議システムを利用した遠隔授業と対面授業における学習者特性に応じた学習効果の共分散構造分析 教育システム情報学会誌 Vol.27, No.3 11−23

(文・白石圭)

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  • むしろ『視線不一致型で学習効果が上がる』事例の方をもっと知りたかったんだが…
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