米国8万人ががん診断の遅れも コロナ禍で健康に関わるこれだけの心配事

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2020年06月03日 07:05  AERA dot.

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写真山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員
 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「コロナ後の生活への様々な影響」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

【写真】手洗い促進ソングを歌うピコ太郎

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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月7日に発令された緊急事態宣言。5月25日にようやく全国で解除となり、休業要請が段階的に緩和されつつあります。休校となっていた多くの学校も始まり、閉まっていた店も営業が再開され、街には活気が戻りつつあります。

 次第に日常に戻りつつあるとはいえ、新型コロナウイルスがいなくなったわけではありません。北九州市の小学校での集団発生や、新型コロナウイルスの感染者数の増加、新型コロナウイルスの病院内での集団感染の発生など、現在も一定数の感染者が発生しています。

 アジアや欧米の一部の国々で段階的な制限緩和が始まる一方、世界では、米国のジョンズ・ホプキンス大学の報告によると、5月30日時点で新規感染者数は13万4000人超と過去最多を更新し、世界の感染者は累計600万人を超えたといいます。ロシアやインド、ブラジルなどの中南米では、感染拡大が深刻化しているのです。
 
 初めに湖北省武漢で原因不明の肺炎の症例が確認されてから6カ月が経過した今、新型コロナウイルスが私たちの生活に及ぼした具体的な影響も報告されつつあります。新型コロナウイルスについて新たにわかってきたことも含め、ご紹介したいと思います。

 まずは、食生活に関する報告です。ベルギーのアントワープ大学の研究グループが、11カ国(オーストラリア, ベルギー, チリ, ウガンダ, オランダ, フランス, オーストリア, ギリシャ, カナダ, ブラジル, アイルランド)の約11,000人の消費者を対象に行ったインターネット調査によると、新型コロナウイルスの流行で家に閉じこもらないといけなくなった結果、スナック菓子やレストラン、デリバリーといった出来合いの食品を手にしなくなり、野菜や果物を購入し、家で料理をするようになり、より健康的な食生活を送るようになったといいます。

 一方、貴族院のIlora 氏らによると、イギリスのおけるスーパーマーケット全体の売上高は43%の上昇だったのに対して、アルコールの売上高はロックダウン開始の3月21日からの1週間のうちに67%も上昇しました。新型コロナウイルス感染流行前からアルコール中毒だった人や中毒に近かった人は特に注意が必要であること、そしてアルコール性の肝疾患は今後一層増えるだろうと指摘しています。

 クリニックで診療していると、「外出を控えるようになり、自炊する機会が増えた」「会食がなくなり、家で食事を取ることが多くなった」という声が患者さんから多く聞かれる一方で、「在宅勤務になり、運動を全くしていません」「体重が増えてしまいました」という声も多く聞かれます。スクワットのような簡単な筋トレなど、家の中でも可能な簡単な運動習慣をつけるようにアドバイスしていますが、健康的な食生活になった一方で、運動不足による体重増加や生活習慣病の悪化などが、今後深刻な問題となってくる可能性は十分にあるでしょう。

 院内感染の報告を受けて、健康診断が中止や延期になってしまい、しばらく受診できていない、という方も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、検診や検査を受けられなかったことによる影響もすでに予想されています。

 IQVIAの報告によると、新型コロナウイルスの流行により医療機関を受診できなかったことを受けて、6月5日までの3カ月間に米国の8万人以上の人々が、乳がん・前立腺がん・大腸がん・子宮頸がん・肺がんの5つの診断が得られない、または診断が遅れると推定されたといいます。基準の2月に比べて4月の初めには乳がん、前立腺がん、大腸がん、子宮頸がん、肺がんの検診や検査数が4割から9割も減ってしまったことから、乳がんは36,000人、前立腺がんは22,600人、大腸がんは18,800人、子宮頸がんは2,500人、肺がんは450人が、診断が得られない、ないしは診断が遅れてしまうと推定されています。

 健康診断だけではありません。ユニセフによると、37カ国で1億1700万人もの子どもたちが麻疹の予防接種を予定通り接種できない恐れがあると言います。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、開発途上国ではワクチン接種の取り組みが休止状態に追い込まれているからです。日本でも、小児のワクチン接種率の低下が問題になっています。感染拡大を受け、通院をためらうケースが増えており、すでにワクチン接種で予防可能となっている疾患の感染拡大も懸念されているのです。

 クリニックには、「留学や海外赴任は延期になってしまったものの、渡航に備えて前もってトラベルワクチンを接種しておきたい」という方が多く受診されています。渡航先によって必要なワクチンの種類も接種回数も異なるため、余裕を持って接種計画を立てる必要があります。

 夏以降の入国制限の緩和の検討が始まったという報道がありましたが、まだすぐに渡航が可能になるような状況には残念ながらならなさそうです。「流行が落ち着いたら、海外旅行に行きたい」「留学したい」「海外赴任の予定がある」という方は、ぜひ今のうちに渡航の際に必要なワクチン接種を済ませておかれることをお勧めします。

 さて、治療薬やワクチン開発はもちろんですが、新型コロナウイルスの遺伝情報の解析も進んでいます。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのLucy氏らが7,666の新型コロナウイルスゲノムを解析したところ、なんと新型コロナウイルスの感染流行は2019年10月6日から12月11日のいつかに始まったと推定され、198の変異がすでに発生していることも判明しました。

 また、マウントサイナイ医科大学のAna氏らによる84の異なる新型コロナウイルスゲノムの解析の結果、2月末から急速に感染者が増加したニューヨークでの新型コロナウイルス流行は、主に欧州やアメリカの他の地域からのウイルスが起源であり、恐らく旅行者が運び込んだウイルスである可能性が高いことが推定されました。

 遺伝情報の変容を追うことが、薬やワクチンの開発、そして感染者数や致死率に大きな差を生んでいる謎を解く鍵になるかもしれません。

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