匿名のSNSであっても自分の社会性を強化することはできる/鴻上尚史

1

2020年06月03日 09:02  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

写真写真
―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

◆匿名で発信するSNSで“社会”を強化するという試みの先に

 総務省の『情報通信白書』に公開されているツイッター利用に関する調査で、日本のツイッターの匿名率が75.1%なのに比べて、アメリカが35.7%、イギリス31% フランス45%、韓国31.5% シンガポール39.5%というのは衝撃の数字でした。

 SNSでの誹謗・中傷の哀しい事件を受けて、『グローバル・ジャーナリズム』(岩波新書)を書かれた澤康臣氏がツイッターで紹介していました。

 澤氏は、「日本は匿名で言説することへの抵抗感や懐疑が希薄な国だと思う(内部告発者など例外は無論あるが)TWも公の場、誰もが責任も誇りももって話す空間になればと願う」という文章をこの数字に添えていました。

 以前、この連載で紹介した、「SNS で知り合う人はほとんど信頼できる」という設問(『情報通信白書』)に対して、「そう思う・ややそう思う」が日本は12.9%、アメリカが64.4%、ドイツは46.9%、イギリスは68.3%という総務省の調査と、根本の所では同じ状況を現していると思います。

 ツイッターなどのSNSでの誹謗・中傷をどうしたらいいかは、今、法律家を中心に活発な議論が起こっています。

「匿名であること」は「表現の自由」と深い関係もあるわけで、いきなり法律を改正して厳罰化する、という流れは危険だという論調に僕も賛成します。

 SNS事業者の団体が、緊急声明を出したとニュースにありました。SNSの健全利用に関する取り組みを行うという発表でした。

 課題も多いでしょうが、少しでもうまく機能してくれるといいと思います。

 同時に、「発信者情報開示請求」の簡略化が重要だろうと思います。

 はっきりしていることは、人類はいまだ経験していないことを、手探りで進めている、ということです。誰にも分かりやすい正解があるわけではなく、試行錯誤を続けながらベストではなく、ベターな解決案を探るしかないてでしょう。

 いえ、ひょっとしたら、ワーストではなくワースな解決案かもしれません。でも、最悪を選ぶよりは、それよりは悪さがましなものを選ぶという対策もあると思います。

◆“世間”だけに向けて行うSNSは排他的になる

 また、日本ならではの事情もからんできます。

「同調圧力」の強さと、「自尊意識」の低さが、日本の宿痾(しゅくあ)であると僕は繰り返し書いています。「宿痾」とは、「長い間、治らない病」です。

「同調圧力」から一瞬でも逃れる方法は、匿名になることです。

「旅の恥はかき捨て」ということわざがありますが、旅に出て、初めて「世間」のしがらみから自由になったと感じる日本人は多いと思います。

 SNSを実名で登録することは、精神的に自由な空間に「世間」を持ち込むことです。抵抗がある人が多いと思います。

 実際に、フェイスブックとかで、「知り合いですか?」と勝手に紹介されると、重たい感覚に僕はなります。

 匿名でSNSをやることと、自分の「世間」ではなく、「社会」を強化し、広めることとは、矛盾しないと僕は思っています。

 自分の「世間」を強化するためにSNSを使う場合は、仲間にだけ分かる言い方で親しく語り、他人を無視します。

「世間」の特徴は排他性ですからね。

 逆に言うと、周りの「社会」を排斥するからこそ、「世間」の絆は強まるわけです。

 自分の「社会」を強化するためにSNSを使う場合は、知らない人と会話するスキルが求められます。ただ、感情を吐き出したり、ぶつけたりするだけだと、知らない人は相手にしないからです。

「あ、この人は私とコミュニケイトしようとしている」と分かる人とだけ、人は会話を始めますからね。

「あ、この人は吐き出してるだけだ」と感じる人とは、誰も話したいと思わないでしょう。

 で、この話は道徳の話ではなくて、長い時間をかけたら、「世間」を強化することより、「社会」を強化することの方が、自分の世界が広がり、結果的には幸せになるんじゃないかと、僕は思っているということです。

 また、詳しく、書きます。

―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―

このニュースに関するつぶやき

  • *「同調圧力」の強さと、「自尊意識」の低さが、日本の宿痾(しゅくあ)である*https://youtu.be/SnRk5-zsZbI?t=152
    • イイネ!9
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定