日本企業がコロナ危機を生き延びるために必要なのは? 冨山和彦の“痛いところを突くド正論”

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2020年06月03日 10:01  リアルサウンド

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『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』

 コロナ禍を受けて、日々をいかに過ごしているのか、これからの生活や教育、経済がどうなるのかに関する緊急出版が相次いでいる。


参考:犬山紙子が語る、コロナ時代における夫婦円満の秘訣


 本書『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』(文藝春秋)も、4月上旬に1週間で書かれ、5月9日に発売された、コロナ禍を受けて日本企業がいかにこの危機を乗り越えるかについての緊急提言の書だ。


 著者の冨山和彦氏は東大法学部在学中に司法試験に合格、新卒でBCGに入社し、スタンフォードMBAを経て2003年に産業再生機構代表取締役に就任。現在はIGPI(経営共創基盤)代表取締役を務める。カネボウをはじめ、数々の企業再生案件に携わり、修羅場をくぐり抜けてきた人物だ。


 経済重視の徹底したリアリストゆえに「日本の大学は、グローバル人材養成機関としてのG型大学と、ローカル経済に従事するための職業訓練校であるL型大学に二極化させるべき」といった提言をしてアカデミズムから反発を招いたことでも知られる。


 経歴から明らかなように、冨山氏はその企業が生きるか死ぬかの危機のときに活躍してきた人である。緊急時には痛みを伴っても、身体の一部を失ったとしても、手術を断行して生き延びることが先決だ。そういう荒行を何度もやってきた冨山氏の、痛いところを突くド正論は平時には煙たがられることも少なくない。しかし有無を言っている場合ではないこんな時期には特にグサリと刺さる。


 というわけでド正論連発の『コロナショック・サバイバル』を紹介してみたい。


現状分析――リーマンショックよりコロナショックのほうが深刻だ
 コロナショックは、人と人が接することを避けねばならないという特徴ゆえに、各国の地場に根付いたローカル経済、人々が国境を超えて行き交い国際商取引を行うグローバル経済、そしてこれらに資金を提供する金融の順に危機が伝播していく。これはちょうどリーマンショックとは順番が逆であり、実体経済への打撃は今回の方がはるかに大きい。


 日本の雇用の8割は中小企業が担っている。そしてその多くがGDPの7割を占めるローカル経済のサービス業(たとえば飲食や介護など)の担い手だ。そこが真っ先に大打撃を受けたのが今回。つまりリモートワークで代替できないような産業が大ダメージを負っており、「リモートワークやネット宅配の市場が伸びているから何とかなる、みたいなことを言っているお気楽な連中がいるが、リアルなローカルサービス産業が吸収している雇用は膨大で、おそらく二桁くらい違うオーダーの世界を比較して代替を期待する議論はナンセンスである」。


 このローカル経済のダメージに留まらず、目下グローバル大企業とその下請け中小企業にまでコロナショックは派生しており、さらには金融機関に波及していく可能性がある。しかし金融クラッシュに至るとローカル、グローバル双方を動かす資金が途絶えて市民生活が再生不可能なレベルにまで傷を負ってしまう。したがってその前に食い止められるかがひとつのカギだ。


 金融のことなんて知ったことか、と思う人もいるだろうが、もちろんローカル経済も、修復不可能なくらいダメージを負う前で踏みとどまれるかが重要だ。しばしば指摘されているように、地場のバス、タクシー会社などの交通機関などが廃業するとその地域に二度と十分な交通網が復旧しない可能性があり、致命的にまずいことになる。


 ではどうやってこの危機を乗り越えるか? 本書の提言はほとんどここに費やされているが、代表的なものを少しだけ紹介したい。


■とにかく現金を確保!


 企業にしろ家計にしろ、日銭が回らなくなれば破綻する。だから危機のときにはとにかくキャッシュが大事だ。当たり前すぎることのように思えるが、日銭が回っている平時にはこの重要さは意外と認識されていない。


 実際には日本では中小企業だけでなくトヨタのような大企業でさえ、平均すると2カ月持つくらいしかキャッシュを持っていない。自粛期間が長引くと経済が死ぬ、と語る論者が多いのはこういう理由だ。


 だからいずれ危機が来ることを見越して日頃から現預金を積んでおけ! とも言っているのだが、積んでいなければこれは今さら言われてもどうにもできない(とはいえ、アイリスオーヤマの大山健太郎氏も冨山氏も言う「100年に一度の危機」レベルの災難が実際には10年おきにはやってきているのだから、そのつもりで備えておけ、というのもまた真実だが)。(参考:マスク生産で注目、アイリスオーヤマはなぜ危機に強いのか? オイルショックで見出した経営哲学)


 したがって今はとにかく現預金のショートに備えて(自分は当座大丈夫だと思っていても、取引先と共倒れになる可能性だってある)、金融機関から政府の助成金、他にもとにかくあらゆる手段を使って、最悪の事態を想定しながら可能な限り確保する。


 それから名目上(損益計算書上)の売上/売掛ではなく現金の出入りを日次で管理する。平時なら自分も相手方も支払いが滞ることは多くないだろうが、こういうときはシビアに振る舞わなければならない。


■独裁者をリーダーに選べ!


 今は平時ではなく戦時だ。


 本当にやばくなれば、切らなければいけない事業や人も出てくる。そんな「あれか、これか」の痺れる意思決定が連続する危機のときに、八方美人でみんなにいい顔をする調整型人間をトップにすると、意思決定に時間ばかりかかって出血多量で死ぬ。


 したがって、ピンチになるとアドレナリンが出まくって頭が冴え渡り、いくら罵倒にさらされても必要な決断をやり抜ける胆力のある人間こそをトップに据えなければならない。


 もちろん、事態を客観視できないワンマンは論外だし、現場主義を履き違えて現場に「大丈夫か?」「やれるよな?」と聞いてまわるようなタイプもだめだ。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる状態で「できるか?」と聞かれて「できません」なんて現場の人間が言うはずがないからだ。


■短期的な生き残り策から中長期的な生き残り策に展開できるか?


 さらに冨山氏は筆を進める。


 そもそもコロナ禍に見舞われる前から、日本のローカル経済を支える中小企業は低い生産性と賃金にあえいでいたし、グローバル経済で戦う大企業は国際競争と破壊的イノベーションの荒波に揉まれていた。


 コロナの流行が過ぎ去ったら自動的にそれらの問題は解決するか? するわけがない。


 つまり、今回の危機に対して短期的に生き残るだけでなく、中長期的に生き残るための抜本的な変革のきっかけにし、攻めに転じることが必要だ、と冨山氏は説く。


 過去に冨山氏が再生に携わった企業も、まずは危機を克服し、次いで事業体としての姿を変身させることによって、その後の持続的な成長につなぐことができたのだという。


 「え、でもどうやるの? だって潰れないために貯めといたキャッシュを放出していくんだから変革に使えるお金なんかないじゃん!」と思うかもしれない(少なくとも私はそう思った)。


 ところが、この危機を中長期的な生き残りを懸けた変革につなげる方策はこの本には書いていない。6月24日に発売される「後篇」である『コーポレート・トランスフォーメーション』に続くのだ。なんてこった!


 しかし今はまだ皆「抜本的変革」フェーズ以前の「生き残り」できるかどうかの段階にいる。後編は機会があれば、また紐解くことにしたい。(飯田一史)


このニュースに関するつぶやき

  • コロナ経済に疑問を投げかけるだけでその答えは、自分で考えるか、次に出る本を買ってねって宣伝か…経営者が生き残るための答えは、この本には無いみたいだ
    • イイネ!2
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