『チェンソーマン』クレイジーな新ヒーロー・デンジの魅力とは? 常識と道徳心の欠けた主人公の強み

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2020年06月04日 22:31  リアルサウンド

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写真『チェンソーマン(1)』
『チェンソーマン(1)』

「テメエら全員殺せばよぉ! 借金はパアだぜ! ギャアーハッハハァ!!」


参考:『チェンソーマン』5巻、壮絶な戦闘描写で捧げる“B級ホラー映画”へのオマージュ


 悪役のセリフではない。これは『チェンソーマン』の主人公であるデンジが、敵を嬲りながら放ったセリフだ。こんな倫理観もへったくれもないセリフ、他の作品の主人公が吐くことはそうそうないだろう。常識と道徳心の欠如した最高にクレイジーな新ヒーロー。それがデンジだ。


 デンジの人生はどん底から始まっている。人を襲う悪魔と、それを狩るデビルハンターが存在する世界。幼いころに父が死に、その借金を背負わされたデンジは、やくざにデビルハンターとしてこき使われて暮らしている。借金のかたに内臓や目玉も売らされた上に、働いても働いても返済金でむしり取られる。ジリ貧のなか、一枚の食パンを齧って飢えをしのぐような生活。唯一の相棒は、犬のような姿の悪魔・ポチタだけ。


「食パンにジャム塗ってポチタと食って、女とイチャイチャしたりして、一緒に部屋でゲームして……抱かれながら眠るんだ……」


 床で丸くなってポチタを抱きながらデンジが願う夢は、余りにもささやかだ。


 だが、ついに雇い主であるやくざにも裏切られ、デンジはゾンビの悪魔に殺されてしまう。その時、チェンソーの悪魔であるポチタが語りかけてくる。


「私の心臓をやる。かわりに……デンジの夢を私に見せてくれ」


 ポチタの心臓を宿して復活したデンジは、チェンソーの悪魔の力を手に入れていた。


 ゾンビの悪魔を殺したデンジの前に現れたのは、公安のデビルハンター・マキマだった。マキマはデンジに、「悪魔として殺されるか、人として私に飼われるか」の選択肢を与える。


「飼うならちゃんと餌はあげるよ」
「……朝メシはどんなの?」
「食パンにバターとジャム塗って……サラダとコーヒー、あと…デザートかな」


 どうってことのない朝食のメニュー。それは、デンジが夢見た以上のものだった。


「最高じゃあないっすか」


 こうしてデンジは、公安のデビルハンターとなることを選ぶ。


「返事は「はい」か「ワン」だけ」「使えない公安の犬は安楽死」


 デンジを脅して使うマキマには非情さが垣間見える。けれど、今までの人生で誰にもまともに扱われたことのないデンジは、食事を与えてくれ、(犬として)優しく接してくれる上に美人のマキマに一瞬で心を奪われる。好きな男のタイプを訊かれて、いけしゃあしゃあと「デンジ君みたいな人」と答える狡さもまともに受け止めて(一緒に仕事してくうちにそういう関係になってくんじゃねーか?)と妄想を膨らませる。


 公安のデビルハンターとしての仕事が始まってからも、デンジの単純さは常識のなさとも相まって爆発していく。胸を揉ませてやるとか、ベロチューしてあげる、なんて餌につられて猛然と死地に飛び込んでいくし、敵に対してもそのクレイジーさは遺憾なく発揮される。


「悪いヤツぁ好きだぜ〜? ぶっ殺しても誰も文句言わねえからなあ〜」


「テメエが俺に切られて血ィ流して! 俺がテメエの血ィ飲んで回復…! 永久機関が完成しちまったなアア〜!」


 セリフだけ見れば完全にヴィランのそれだ。「人と悪魔どっちの味方だ?」という質問にさえ「俺を面倒みてくれるほう」と即答する。その言動は、心臓に悪魔を宿しているからだけでなく、すでに半ば悪魔だ。


 そんな、道徳心が欠けている上に下心満載で公安に入ってきたデンジを、教育係を任された先輩ハンター・早川アキは嫌悪する。


「軽い気持ちで仕事するヤツは死ぬぜ?」「お前以外全員本気なんだよ」


 家族を悪魔に殺され、その復讐のためにすべてを賭けて悪魔を狩るアキの目に、デンジの振る舞いはふざけているように映る。人間だけではない。「胸を揉みたい」を目的に戦うデンジを、悪魔でさえも「低俗な欲望」と見下す。周囲から馬鹿にされ続けたデンジはぷっつんとキレる。


「みんな偉い夢持ってていいなァ!! じゃあ夢バトルしようぜ夢バトル!! 俺がテメーをぶっ殺したらよお〜……! テメエの夢ェ! 胸揉む事以下な〜!?」


 デビルハンターの任務は命がけだ。強い悪魔を前に、信じられないほどあっけなく人が死んでいく。そういう場所にあって、胸を揉みたいとか衣食住が保証されるという理由で戦うデンジは、確かに「軽く」見えるかもしれない。けれど、それは本当に「軽い」のか。


 どん底からスタートしたデンジの人生。誰にも人間らしく扱ってもらえず、自分の体すらも簡単に切り売りされ、食パンにジャムを塗ることでさえ夢のまた夢。「軽い」というならば、デンジにとっては自分の命も人生も、最初から軽いのだ。そんなデンジらしい精神が、このセリフに現れている。


「俺は軽〜い気持ちでデビルハンターなったけどよぉ、この生活続ける為だったら死んでもいいぜ」


 全てが軽い、デンジの人生。だからこそ、胸を揉みたいとか、マキマといい関係になりたいとか、パンに好きなだけジャムを塗りたいとか、はたから見れば「軽い」ことにも価値があって、そのためならいくらでも「軽い」命を張ることができる。


 常識と道徳心の欠けたクレイジーヒーロー。けれど、デンジには、ポチタがいなくなって悲しむ心も、マキマに恋する純情さもある。そして、ささやかな自分の夢のために、どこまでも突き進んでいく。その姿はあまりにも単純で、素直で、人間らしい。


 今後デンジの前に立ちはだかるのは、なぜかデンジの心臓を狙う悪魔たち。得体の知れない能力を持つ謎多きマキマ。そして最悪の敵「銃の悪魔」。深まっていくストーリーと数多くの試練を前に、デンジがその人間らしいクレイジーさをどのように発揮してくれるのか。続きがただただ待ち遠しい。(満島エリオ)


このニュースに関するつぶやき

  • デンジでまだ人間臭い方ですよ!!! というか主要登場女性キャラの精神構造がヤバい奴ばっかなんだけど(笑) グロ耐性あればおススメ出来る作品
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  • この記事だとレザーフェイスは越えてない印象(´・ω・`)
    • イイネ!6
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