横田めぐみさんの父・滋さん死去 「めぐみは生きている」と信じ続けた43年

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2020年06月06日 16:15  AERA dot.

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写真会見する横田滋さん(左)と早紀江さん=2014年(c)朝日新聞社
会見する横田滋さん(左)と早紀江さん=2014年(c)朝日新聞社
「めぐみちゃんに一目会いたい」。そう強く信じ続けた父の思いは届かなかった。

 拉致被害者・横田めぐみさんの父、滋さんが5日、87歳で亡くなった。1977年、めぐみさんが北朝鮮に拉致されてから43年。妻の早紀江さん(84)とともに拉致問題解決を訴える家族の会の初代代表を務めるなど中心的な存在だった。

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 2002年9月17日に開かれた日朝首脳会談では、北朝鮮が拉致被害者のうち、めぐみさんを含む8人が国内で死亡したと発表。週刊誌「AERA」は、約1年後の03年7月28日号で、横田滋さん・早紀江さん夫妻を2時間にわたってインタビューしていた。進展しない拉致問題、誠意を示そうとしない北朝鮮――。ここでは、当時の夫妻の言葉を再掲する。

*  *  *
<早紀江さん> この1年、小説でもこう書けるだろうかと不思議に思うことばかりですね。

<滋さん> あれから1年といっても、めぐみはそれまでに(拉致されてからの)25年という歳月があるわけですから……。

――横田夫妻について、いまさら説明する必要はあるまい。13歳で北朝鮮工作員の手で拉致され、去年9月17日の日朝首脳会談で、「死亡」と北朝鮮側が発表した横田めぐみさんの両親である。

「いずれ人は、みな、死んでいきます。(めぐみは)本当に濃厚な足跡を残していったのではないかということで、(中略)皆さまとともに闘ってまいります。まだ生きていることを信じて闘ってまいります。めぐみを愛してくださった皆さまに心から感謝します」

 その日、記者会見で早紀江さんが口にした言葉は、聞く者の心を突き刺した。
 
<早紀江さん> 私自身は、特別なことを言う意識などなくて。ただものすごく腹が立っていたんです。こっちが何か言うと、向こう(北朝鮮)はそれを見てると聞いてますから。こっちがやられた姿を見せれば、向こうは「しめた」と思うに違いない。どことなくそんな思いがあって、何か言わないと駄目だという不思議なものが勝手にあふれてきたんです。

<滋さん> あれは、めぐみが死んだと認めたような発言でもあったんですけど。

<早紀江さん> 認めてはいません。絶対に生きていると思ったけど。だから支離滅裂。何を言ったかわからないんだから。

<滋さん> それまで、拉致されたのは間違いないと思っていても、1%ぐらいは……。証拠がなかったですから。でも北朝鮮が認めただけでなく、(孫の)キム・ヘギョンさんまで現れたわけで、確信をもって語ることができるようになりました。

――(97年にめぐみさん目撃を証言した)北朝鮮元工作員の安明進(アンミョンジン)氏が、めぐみさんは金正日(キムジョンイル)総書記の息子の日本語の家庭教師をしていると語りましたが。

<早紀江さん> それは直接聞きました。大変な所に入れられたと思いました。これじゃもう、一番出にくいなと。本当かどうかわからないのですが。

<滋さん> 安さんが、めぐみを金正日政治軍事大学で見たというのは直接、経験したこと。家庭教師の話は、他の人から聞いた話なんです。比較的新しい時期だということでしたが。

<早紀江さん> 安さんは9月17日の時点で、めぐみが亡くなったというのは絶対に違う、死んでいないと言いたかったと。あまりいろいろな話が出ていて、もう訳がわからないですよ。いつまでも闇の中で、いつまでも生殺しで。いろんなことが出てくるのに、本当の核心はわからない。だからいまはその核心が出てくる過程だと思っています。本当のことが出るのを待っています。何か起きるたびに驚いていては、生きていけない。だから、あまり動揺しないようにしてるんです。

――けれど、めぐみさんは絶対に生きていると。

<早紀江さん> ずっと思っていますよ。そう思ってあげないと可哀想ですよ。せっかくここまで我慢して……。

<滋さん> 死んだとの明確な証拠がない限り、生きていると信じます。

――ご夫妻の訪朝問題が論議を呼びました。

<滋さん> 私は、9月17日以後は、同じ被害者の家族といっても、生きている人と死んだといわれる人がいて、かなり状況が変わってきたんだから、やはり、個々の状況に応じて考えるべきだと思うんです。

<早紀江さん> でも北朝鮮はこちらの動きを見てますよ。行くとなると、それを利用して何かやってくるに違いないと思う。そういう所には行かない方がいいというのが私の考えです。孫に会いたいかと言われれば、誰だって会いたいです。抱きしめてあげたいと思いますよ。

――この件は、おふたりで話をなさるんですか。

<早紀江さん> 話しても、意見が合いません。主人は「行きたいんだ。親の気持ちも大事だ」と言いますから。でも、拉致事件はものすごく大きな問題ですし、行ったらどうなるか、よく考えないといけない。5人の方たちの帰国後、こう聞きました。横田夫婦が北朝鮮に来るように、これだけのことを言いなさい、と言われて来たと。やっぱりそうかと。

<滋さん> (去年10月初めに)政府調査団が北朝鮮から、めぐみの夫というキム・チョルジュさんの手紙を持ってきて、めぐみと結婚して幸せだったとか、こんな形で手紙を出さなきゃならないのは悲しいとか、両親がこっちに来てくれればいろんな話ができますと書いてありました。めぐみの墓があって、遺骨が出れば、もうあきらめざるを得ない。違っていれば、北朝鮮の主張全体がウソということになる。行って確かめられるならということなんです。

 家族会としては、現時点では行かないことに決めました。でも事情が許せば、1カ月後に行く可能性もあるし、半年後も行かないこともある。今の時点では、行かないということなんです。

<早紀江さん> 私は、いくらこちらの思いを伝えても絶対、違うようにされると思う。それなら行かない方がいい。指導者次第で何でもできる国ですから。

――ヘギョンさんのことをどうお思いですか。

<早紀江さん> (めぐみと)すごく似てますから。会いたいですよ。こっちに来てくれればね。

<滋さん> (北朝鮮での会見で)テレビが事前にうちに来て、我々の写真とかマンションを撮影して持って行き、本人に見せたようなんです。テレビの人が、ぬいぐるみとかを渡したとき、(ヘギョンさんが)おじいちゃん、おばあちゃんは今度は来てくれるかと思ったけど、また会えなかったと言ったそうです。

――ヘギョンさんはエリートの子どもという印象でした。

<滋さん> (6月に会った)韓国の金泳三(キムヨンサム)元大統領も、そんなことを言ってました。私たちは朝鮮語がわからないけど、あの方はわかるから。泣いたり笑ったり、まるで俳優さんみたいだったと。

<早紀江さん> あの子にしたら、どうしようもないことですからね。そういう所で育ったんだから。言う内容を教えられたんだと思いますよ、きっと。
 
 そういうことも含め、本当のことはまだ出てこない。だけど隠れたものは必ず、全部、暴き出されると信じていますから。その過程で苦しまなきゃならないけど、私たちが生きている間に、願わくば、そうなってほしいと思っています。

 ですから、勝手には動けません。私は行きません。どんなことがあっても。

<滋さん> 行ったらなかなか帰って来られないとか、そんなことはないでしょう。

<早紀江さん> お父さんはいつも軽く言うけど。そんな国じゃない。人が良すぎるんです。

――北朝鮮について、息子さんおふたりの考えは、早紀江さんに近いんですか。

<早紀江さん> 同じです。3人はいつもよく似てます。

――お父さんは……。

<早紀江さん> 大変だと思いますよ(笑い)。柔らかいから。

――滋さんは、行ってみなきゃ、わからないじゃないかというお気持ちなのですか。

<滋さん> そうなんです。行っても成果がなかったら、それはゼロなわけで。ゼロかプラスかじゃないかと思うんです。

<早紀江さん> どの国も、いま北朝鮮にどう対処するか考えながら動いているわけでしょう。向こうも困れば、何か起こしてくるか、言ってくるし。こっちは、その時に対処すればいいんだから。

――早紀江さんは、めぐみさんが拉致されて7年後に、洗礼を受けられたそうですね。

<早紀江さん> あの苦しみの中で、聖書に巡りあったんです。なんでこんな目に遭わなきゃいけないのかと、悲しくて、死にたい思いでした。そんな時にクリスチャンの友達が、読んでみてと言って持ってきて下さったんです。読むと、ああそうかと。人間というのは、どんなに立派に見えても、心の中って見えない。何を考えているのかとか。そこを掘り下げていくんです。祈りというのは、形には見えないけれど、すごく深い。自分というものがどんなものか、掘り下げると、わかってくるんです。自分がどれほど小さな存在なのかも。心の平安も得られます。神様は何もかもご存じですから。

 週に一度の礼拝は休みませんでしたが、日曜日が集会などで忙しくなって、この1年は行けなくなって。いまは行ける時に近くの教会でお祈りしています。

――滋さんは?

<早紀江さん> 全然。神様を迫害してばかりです(笑い)。信じられないといって。

<滋さん> 子どもの教育なんかでも、私は、あまりしかりませんでした。でも家内は、しかった方がいいと言ってましたし、そこは違いますね。

<早紀江さん> 甘やかす一方。めちゃめちゃに可愛がる方で。

――めぐみさんは、大変なお父さん子だったそうですね。
 
<早紀江さん> そうですね。大事に大事にしてましたから。

――めぐみさんからプレゼントされた櫛を、滋さんはいまもお持ちなんですか。

<滋さん> 携帯用の鞄に入れてあるんです。

<早紀江さん> ボロボロになりましたけど、出かけるときは必ず鞄の中に入れてますね。

――めぐみさんが生きていたら、北朝鮮の影響を相当受けているのではないでしょうか。

<滋さん> そうでないと生きていけないわけですから。帰国した方の言葉だったか、日本は我々を見捨てたと思っていたのが、帰国の専用機の窓から下を見ると、たくさんの人がいて、これは我々をだますためのサクラではないかと思ったけれども、地元でも大歓迎してくれた。

 それでも北朝鮮を出るときは不安だったと言いますから。でもめぐみは、年も若いし……。

<早紀江さん> それは、いくら想像しても、どうにもなりません。何よりまず、めぐみを捜しているわけですから。駄目なら駄目で、その時は本当に、仕方がない。DNA鑑定などで調べて、間違いなければ、これはもう現実だから……。わからない先のことを、いくら考えたって、仕方がないわけですから。

 (文/北朝鮮取材班 週刊誌「AERA」2003年7月28日号掲載)

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  • 反宗教だった #横田滋 氏も、昨年洗礼を受けたらしい。
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  • 社民党ツイッター、横田滋さんに哀悼も「どの面下げて」の声 http://agora-web.jp/archives/2046471.html
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