King Gnu、マカロニえんぴつ、清竜人……セルフカバー各楽曲を聴き比べ 作り手のこだわりが光るアレンジに

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2020年06月07日 12:01  リアルサウンド

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King Gnu『CEREMONY』

 他のアーティストに提供した楽曲を制作者自らが演奏して歌うセルフカバー曲。他者の持ち歌となった原曲と聴き比べると、よりアーティストの個性と美学が打ち出されていることが分かる。本稿では今年に入って注目されたセルフカバー楽曲をいくつか紹介したい。


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 今年1月にリリースされ、大ヒット作となったKing Gnuの3rdアルバム『CEREMONY』。その9曲目「Overflow」は常田大希(Vo/Gt)が家入レオに提供した楽曲のセルフカバーだ。


 2019年4月の6thアルバム『DUO』に収録された家入レオ版「Overflow」は、言葉数の多さとタイトなリズムワークが異彩を放つ1曲であった。復縁を願う溢れる気持ちのまま“君”に会いに行こうとする、という内容のリリックを開放的な歌唱で演出する。様々なアーティストから楽曲提供を受ける家入レオならではのアプローチで、クールに楽曲と一体化した1曲だ。


 一方、King Gnuによる「Overflow」は原曲では打ち込みだったリズムがドラムとベース共に生演奏となり、引き締まったグルーヴを実感できる。また、歌詞における情けなさや抑えきれない感情が体現されたような井口理(Vo/Key)の歌声も、別の角度から楽曲の世界へと没入させてくれる。家入レオ版のイメージを引き継ぎつつも、バンドで鳴らす楽曲に仕上げるべく音を精査し、肉体性を高めたセルフカバーだ。


 今年4月にリリースされ、バンドの勢いを決定づけたマカロニえんぴつの2ndアルバム『hope』。8曲目「愛のレンタル」は、はっとり(Vo/Gt)が私立恵比寿中学(以下、エビ中)に提供した楽曲のセルフカバーだ。


 エビ中ver.の「愛のレンタル」は2019年12月発売の6thアルバム『playlist』に収録された。作詞作曲ははっとり、編曲はマカロニえんぴつが担当しており、その軽やかな演奏に共振するかのように6人の歌声が滑らかに乗った心地よい1曲。中でも、真山りかのソウルフルな歌声は出色の仕上がり。恋のあれこれに戸惑い始める時期の心情を、自然体に歌い上げている。


 一方、マカロニえんぴつver.ははっとりが痰を吐き捨てる音声で始まる。終始、激しく突き放すような歌唱は恋の全てに行き詰まった男の嘆きにも聴こえてくる。アレンジこそ原曲と大きく違わないが、ワウギターを押し出してよりファンキーな演奏を聴かせつつも、全体を通してどこか寂しげなムードが漂う。終盤に鳴るストリングスのフレーズに合わせ、がなるように響かせるスキャットもまた、その哀愁を引き立てている。同じ歌詞、同じメロディでも印象をガラリと変える、これぞセルフカバーの醍醐味だろう。


 清竜人が5月27日に突如配信リリースしたアルバム『COVER』は、これまで楽曲提供してきたナンバーをセレクトし、セルフカバーした作品集である。アイドル、声優、歌い手、バーチャルYouTuberなど多様なアーティストに提供する彼だが、『COVER』は全楽曲をピアノ弾き語りで統一し、新鮮な質感を与えた作品となった。


 1曲目「イマジネーション」はももいろクローバーZ(以下、ももクロ)への提供曲のセルフカバーだ。ももクロver.は、メルヘンチックな台詞パートに耳を掴まれ、爆発寸前の熱情を歌い連ねた宇宙規模のラブソングへと飛翔していく煌びやかなアップチューンだ。眩いストリングスと跳ね回るリズムに、否応なしに気分が高揚していく豪華絢爛な1曲である。


 一方、清竜人による「イマジネーション」はしっとりとした聴き心地だ。台詞パートを排したことで生まれた長いイントロはゆったりと楽曲の中へ誘い、語尾を伸ばしてこちらに語りかけるような歌唱には切実な思慕が込められている。原曲では賑やかに転がる間奏も、最小の音数でシックに編み直し、ファンタジックなアイドルソングを渋みと色気を感じさせるピアノナンバーへと変貌させた。


 田村ゆかりの「ゆかりはゆかり♡」や、上坂すみれの「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」など、清竜人自身が歌うことを想定していなかったであろう作家性を全開にした楽曲にも、その歌心で新たな命を吹き込んだ『COVER』。清竜人のボーカリスト/ピアニストとしての手腕に酔いしれることができる作品だ。


 自分の手から離れた楽曲に対し、別の完成形を示す意義もあるセルフカバーという表現法。両曲の差異にこそ光る作り手のこだわりに注目しながら聴いてみると、様々な驚きが新たに見つかるかもしれない。(月の人)


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  • 竜人くんが歌うと声優さんが歌うキラキラな楽曲がすっげー色気となるのよね。
    • イイネ!4
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