中日の秘密兵器候補は「第5の助っ人」 実はあの“伝説の右腕”のご近所さん

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2020年06月12日 11:50  ベースボールキング

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中日のモイセ・シエラ
◆ 戸惑った“投手の投げ方”

 無観客のスタンドに響いた打球音は「ボコッ!」──。会心というより、詰まっていた。それでも、低い弾道の白球は、そのまま左翼フェンスを越えた。


 開幕を控えた6月6日の練習試合・西武戦(メットライフ)。新外国人のモイセ・シエラ外野手が“来日1号”となるソロを放った。

 3回、左腕・武隈祥太の内角速球をたたいた。

 「反応で打てました。助っ人なので活躍しないといけない。1本出て安心しました。(出迎えるチームメートを見て)とってもうれしかった」


 ドミニカ共和国出身の31歳。メジャーでの実績は9本塁打。米国からメキシコリーグを経由して育成で来日。戸惑ったのは食生活でも気候でもなく、投手の投げ方だったという。

 翻弄されたのは、タイミングをずらすための投手のテクニック。脚の上げ方に始まり、走者もいないのに突然クイックで投げられたことも。

 「フォームがいろいろあるから球速90マイル(約144キロ)でも打ち取られた。対応するのに時間がかかったんだ」

 オープン戦は8打数2安打で、ヒットはともに単打。苦しい時期を振り返った。


◆ 背番号も“母国のレジェンド”を意識

 ジャパニーズ・ドリームをつかみたい…。母国の伝説右腕の教えを心に刻んでいる。

 歩いて5分のところに豪邸を構えていたのは、メジャー殿堂入りを果たしたペドロ・マルティネス。通算219勝でサイ・ヤング賞3度のスーパースターだ。

 幼少期には友人と自宅へ遊びに行ったといい、「とても優しい人。貪欲で、周りのみんなを助ける。野球で自分の人生を切り開いていく。そういうところを学んだ」と語る。

 たとえ近所のちびっ子でも、グラブを持ちバットを握る。そんな子どもは誰でも家に招き入れられていた。


 背番号もマルティネスを意識した。

 育成契約で入団し、3月下旬に支配下契約を結んだ。新背番号には、提示された候補の中にあった「45」を迷わず選んだ。

 「ペドロ・マルティネスと同じだ、って思ったんだ。とっても興奮しているよ」

 ちなみに、背番号「45」はレッドソックスの永久欠番になっている。


◆ 生き残りをかけて打ちまくれ!

 立ち位置は「第5の外国人」となる。

 開幕を前に、外国人の4枠は野手がダヤン・ビシエドとソイロ・アルモンテ、投手はライデル・マルティネスとルイス・ゴンサレスが有力。そもそも、当初の獲得理由といえば、右脚の故障で出遅れが予想されたアルモンテの“保険”だった。

 それがコロナ禍に開幕延期で状況は一変。アルモンテにとって沖縄キャンプはリハビリ期間。開幕がずれ込んだため、結果的に球春に間に合う形となった。


 与田監督は「競争してレベルアップしてもらいたい」と語る。

 シエラに求められるのは、まず打撃でのアピール。一軍にいるには、野手が2枠ならばアルモンテとのマッチレースを制する必要がある。もしくは、投手を1枠に減らすほど打ち続けるか…。そうすれば、まずは一軍にいられる。

 そのうえで、レギュラーになるために待っているのは福田永将との左翼争い。道は険しいが、“ペドロ魂”がある。貪欲に、勝利のピースに徹する。


 2013年のWBCでは、準決勝のオランダ戦で同点の適時二塁打を放つなど、母国の初優勝に貢献。そのときのチームメートには、昨季までヤンキースでプレーしてホワイトソックスに移籍した通算414本塁打のエドウィン・エンカーナシオンや、ヤンキースやマリナーズで活躍した通算2570安打のロビンソン・カノらがいる。

 幼い頃からスーパースターの振る舞いに触れ、名プレーヤーと同じグラウンドに立ってきた。待ちに待った2020年シーズン。ひょっとしたら近い将来、シエラがお立ち台に上がっているかもしれない。


文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)
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