マスク不足に人材不足も加速か “withコロナ”で困窮する介護の現場

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2020年06月14日 10:05  AERA dot.

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写真利用者の手を拭くときも使い捨ての手袋を着用=加守田さん提供
利用者の手を拭くときも使い捨ての手袋を着用=加守田さん提供
 休業、利用控え、ヘルパー不足……。新型コロナウイルスの影響で、デイサービスや訪問介護の事業所が経営危機にさらされている。サービスを受けられない利用者には認知症の進行がみられるなど深刻な状況だ。感染リスクと隣り合わせの現場では、介護崩壊を避けるための暗中模索が続く。

【図で見る】在宅サービスの利用控えなどによる心身の機能低下は?

 利用控えを食い止めようと、介護現場も必死だ。

 NPO法人グレースケア機構(本社・東京都三鷹市)の副所長で介護福祉士の加守田久美さんの事業所では、以前から訪問先での手洗いと、口腔(こうくう)ケアや排泄介助のときの手袋着用、訪問先から帰ってきたときのうがいは徹底していた。

 今はそれらに加え、排泄介助などのときだけに着けていた手袋の常時装着、訪問先の室内では手すりを消毒するなどの感染症対策もしている。また、訪問中は密閉した状態にならないよう、窓を開けっぱなしで介護にあたっている。

 ただ、加守田さんは「限界がある」とも話す。

「耳が悪い利用者さんは、マスク越しで話しても聞き取れないことが多いので、話すときはマスクを外します。認知症の方は相手の表情を読むので、マスクのままではコミュニケーションがとりにくい。体を密着させる必要のある介護では、ソーシャルディスタンスを取ることはできません。どうやって利用者さんを介護したらよいのか──。試行錯誤を続けています」

 そもそも、介護現場ではマスクや消毒用のアルコールなどが足りていない。淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)は、利用者の利用控えについて、介護関係者約500人にアンケートを実施。その調査でも、6割が「足りていない・あまり足りていない」と答えている。政府が介護職員のために用意したのは、布マスクだ。

「利用者に密接してケアをする訪問介護でやることは、訪問看護に近い。感染リスクは同じなのに、医療者にはサージカルマスクで、介護者には布マスクというのは問題だと思います。もう少し政府も注目してもらいたい」(結城教授)

 訪問介護に携わるヘルパーは、濃厚接触や感染の疑いで自宅に待機している利用者やその家族の家を訪れるケースもある。

 結城教授の調査では、担当している利用者の中に、新型コロナに感染した人がいるか質問したところ、約2%にあたる9人が「いる」と答えた。

 ニアミスと呼べるケースについて話してくれたのが、埼玉県新座市で居宅系介護サービスを運営するNPO法人「暮らしネット・えん」の代表理事の小島美里さんだ。近くのデイサービスで感染者が出たが、そのデイサービスを利用していた1人の利用者が、えんの訪問介護サービスも受けていたことがわかったのだ。

 小島さんは当時のことをこう振り返る。

「保健所から、その利用者さんは濃厚接触者にはあたらないと言われるまでは、ヘルパーを統括するサービス責任者が予防衣とサージカルマスク、フェースシールドなどの装備で訪問しました」

 ヘルパーは最初の研修で感染症の基本を学ぶ。だから、インフルエンザやノロウイルスなど従来の感染症については、ある程度、知識を持って対策にあたることができる。

 だが、新型コロナは未知のウイルス。対応策は万全ではなく、ヘルパーも不安な状態で利用者宅を訪れなければならない。

 何より、訪問介護のヘルパーは、現場の関係者が自虐的に“老老介護”というほど高齢化が進んでいる。60代が主力で、現役で働く70代、80代のヘルパーも少なくない。

 また短時間から働けて、子育てと両立ができることから、ママヘルパーもいる。

 高齢者ヘルパーは自身への感染が不安であり、ママヘルパーは子どもの幼稚園や保育園、学校が休園・休校となるため、いずれも仕事を休むことになる。

 小島さんは、新型コロナがきっかけで、ヘルパーの人材不足が加速しないか心配する。

「もともとヘルパーの有効求人倍率は13倍で、募集してもまったく集まらない状況です。そういうなか、今回の新型コロナの影響でさらに働き手が減ってしまうようなら、閉鎖する事業所も出てくるのではないでしょうか」(小島さん)

 困窮する介護現場に必要なのは何か。

 5月27日、政府は新型コロナに対する今年度の第2次補正予算案を閣議決定した。そのなかには、事業者への融資や介護職員に対する慰労金の支給も盛り込まれた。

 居宅系介護サービス(デイサービスなどの通所系と、訪問介護の訪問系がある)に詳しい東洋大学ライフデザイン学部の高野龍昭准教授は、

「これについては評価できますが、新型コロナの影響は長期化が見込まれます。一時的な支援に終わるなら不十分です。介護事業所への抜本的な経営支援策は盛り込まれてはおらず、このままでは地域の高齢者を支える通所系、訪問系の事業所は消えていきます」

 と危惧する。

 現在、国内の感染は、東京都や北九州市でややぶり返しているものの、小康状態ともいえる。

「この間に、支援に加え、“withコロナ”のなかで、どんな介護ができるのかを考える必要があります。例えば、介護職員向けの研修会などを開いて、新型コロナに対する正しい知識を身につける場を提供するなど、第2波、3波が来る前に何かしなければいけません」

 と話すのは結城教授。その上で、現在、通所系や在宅での介護サービスを受けている利用者やその家族にこう訴える。

「利用者の心身の機能低下を防ぐためにも、サービスの利用は控えないで。新型コロナの影響で、今は多くの事業所が新規の利用者を入れてくれません。このタイミングで関係を断ってしまうと、ご家族の健康状態が深刻になったときに、介護を受けることができなくなってしまいます」

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2020年6月19日号より抜粋

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