「介護大崩壊」コロナで起きた負の連鎖…“倒産”へ、そして“認知症進行”

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2020年06月14日 10:10  AERA dot.

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写真休業状況調査結果/経営への影響について (週刊朝日2020年6月19日号より)
休業状況調査結果/経営への影響について (週刊朝日2020年6月19日号より)
 ケアマネジャーのAさん(東京都)は、医療機関から依頼があった男性(70代)のケアプランの作成に頭を抱えていた。

【図で見る】在宅サービスの利用控えなどによる心身の機能低下は?

 ケアプランは、介護サービスを利用するために必要な介護計画書で、ケアマネジャーが当事者やその家族らと話し合って作る。

 男性は3月、新型コロナウイルスのPCR検査で陽性が確認された。入院して治療し、2度のPCR検査で陰性だったことから、退院。だが、後遺症で呼吸器障害が残ったため、自宅療養をしながら訪問リハビリや訪問介護を定期的に受けなければならない状態になっていた。

 Aさんは訪問介護を行っている事業所に連絡し、男性の介護を依頼しているが、男性が感染者だったことを伝えていることもあり、どこからもいい返事がもらえていない。

「陰性になった患者さんが再度、陽性になったという報道もある。新型コロナについてはまだわかっていないことも多く、陰性になったとしても、受け入れる事業所にとっては不安やリスクが残ります」(Aさん)

 新型コロナは、利用者にも事業者にも影を落としている。

 今年2月末、名古屋市のデイサービス(通所介護)事業所でクラスターが発生し、63人の高齢者が感染、12人が亡くなった(3月15日時点)。

 居宅系介護サービス(デイサービスなどの通所系と、訪問介護の訪問系がある)に詳しい東洋大学ライフデザイン学部の高野龍昭准教授は、

「これ(名古屋の件)で一気に通所系、訪問系の事業所に緊張が走った」

 と振り返る。クラスターは3月末には封じ込められたが、その後、全国で休業する事業所が相次いだ。

 厚生労働省のまとめによると、全国への緊急事態宣言が出た4月13〜19日に、感染防止などのためにサービスを休業した事業所の数は全国で909件。その1週間前の約1.7倍に増えた。

 休業とまではいかなくても、サービスの提供時間を短縮したり、受け入れ人数を減らしたりした事業所は多い。

「一人でも感染者を出したら休業しなければなりませんし、風評被害によって利用者が減るリスクもある。多くの事業所が、自身の運営するデイサービスがクラスターの拠点になることを恐れて、サービスを縮小しています」(高野准教授)

 こうした休業や事業の縮小は、介護の現場に負の連鎖を引き起こしている。

 一つは、事業所の経営面だ。

 利用者が入居し、毎月決まった額が入る特別養護老人ホームなどの施設系の事業所とは違い、居宅系は、提供したサービスの内容や量によって介護報酬の額が決まる。当然だが、利用する人や量が減れば、額も減る。

 事業所に報酬が入るのは、サービスを実施した月の2カ月後。緊急事態宣言が出た4〜5月の収入減が実際に事業所の経営を圧迫するのは、6月末〜7月だ。

「そもそも、居宅系の介護報酬は、度重なる介護保険制度の改正で、かなり引き下げられてきた。以前から、赤字覚悟で事業を継続しなければならないという状況が続いていました」(同)

 そこに、新型コロナが追い打ちをかけた。もともと体力がない小規模の介護事業所は、倒産や閉鎖などに追い込まれる可能性が非常に高いという。

 切迫した状況は数字からも見て取れる。

 全国介護事業者連盟の調査では、回答を寄せた約1800カ所の事業所のうち、4月上旬の時点で、経営に影響を受けている、と答えたのは、通所系が82%、訪問系が31%。対して、施設系の特養は23%にとどまっていた。

 もう一つの負の連鎖は、利用者に対するものだ。

 前述した、デイサービスで集団感染があった名古屋市は3月上旬、市内の二つの区(緑区、南区)の通所系の事業所など126カ所に、2週間の休業要請を出した。高齢者の外出自粛も求められ、介護を必要とする人たち(要介護者)がサービスを受けられない事態となった。

 緑区の居宅介護支援事業所でんじやまのケアマネジャー、水野勝仁さんが担当している要介護者(要介護1)のBさん(80代)は、デイサービスを利用していたが、休業要請が出たことで通えなくなった。

 要請が解除された後、水野さんはBさんの自宅を訪れ、家族に様子を尋ねたところ、Bさんはずっと自室に引きこもり、認知症が進んでいた。食も細くなり、2週間で4キロ減っていた。

「Bさんは入院して様子を見ることになりましたが、食事量が戻らなくて。デイサービスを再開するどころか、家に戻ることさえ難しい状況で、今はご家族と施設への入居を前提に検討しています」(水野さん)

 こうしたケースはほかにも見られたため、水野さんは休業要請でデイサービスに通えなくなった利用者21人に聞き取りなどの調査をした。

 すると、全体の6割にあたる13人に、何らかの悪影響が出ていた。具体的には、「昼夜逆転の生活になり、認知症も進んで、夜中にみそ汁を作るようになった」「外出先で転倒していた」「(認知症が進んだことで)外に出て空き缶を拾うようになった」「一日中寝ている」などだ。Bさんのほかにも入院が必要となった利用者がいるという。

 一方、デイサービス以外にも外出の機会があった人ほど、影響は小さかった。

 デイサービスの役割は、食事、入浴、排泄といった日常生活を送るために必要な部分を支援するところにある。

「その部分を訪問介護などで補えば、利用者さんの健康状態は維持できると思っていましたが、そうではなかった。デイサービスに行くことで人と交流し、生活リズムを整える。それができなくなったことのダメージは予想以上に大きいことがわかりました」(同)

 ヘルパーも日々、不安を抱えながら、サービスを提供している。

 NPO法人グレースケア機構(本社・東京都三鷹市)の副所長で介護福祉士の加守田久美さんは、週に数回、訪問介護に出向く。

 最初に新型コロナの影響を感じたのは、東京都が企業に対して在宅ワークを推奨し始めたころだ。

「仕事が在宅に切り替わり、家族で介護ができるので、訪問介護はキャンセルしてほしい、という連絡が相次ぎました。利用者さんの数が3割ほど減ったという印象です」(加守田さん)

 キャンセル理由のすべてがそうだとは思わない。感染リスクを避けるため、家に人を入れたくないという気持ちもあるのではないか、と加守田さんは推しはかる。

「介護サービスの利用者さんは高齢の方が多く、持病もあります。感染した場合に重症化するリスクが高いので、たとえヘルパーでも家に入れるのは不安なのでしょう」(同)

 淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)は、利用者の利用控えについて、介護関係者約500人にアンケートを実施した。

 在宅サービスの利用を控えている利用者がいる、と答えたのは、82.3%。利用控えなどによって心身の機能低下が起こっている、と答えたのは、62.3%だった。

「機能低下が起こると、介護だけでは立ちゆかなくなり、医療機関での治療が必要になります。しかし、今は医療側のキャパシティーの問題で、受け入れてくれる医療機関を見つけるのが難しい」(結城教授)

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2020年6月19日号より抜粋

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  • 大手企業は政府にゆさぶりをかけさせるほどのたっぷりとした内部留保でビクともしないのにねぇ
    • イイネ!2
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