「持続化給付金」疑惑で問題の「決算公告」、罰則アリでも“実施少数”の理由

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2020年06月15日 14:11  弁護士ドットコム

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持続化給付金の業務を国から受託した一般社団法人サービスデザイン推進協議会が、設立以来、一度も決算公告を行っていなかったことが報じられ話題となった(批判を受け、6月5日にHPで公表された)。


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決算公告については、株式会社であれば「会社法」で、一般社団法人であれば「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」で義務づけられている。義務違反には「100万円以下の過料」の罰則規定があることも同様だ。



朝日新聞(6月3日)によれば、国から巨額の公的事業を多数受注してきた一般社団法人が決算公告を行わないというのは異例だとする一方、中小企業などでは行っていないケースも目立つという。



ツイッターでも、「まともに決算公告してる会社の方が圧倒的少数」「決算公告しなくて大丈夫と言われたことある」といった意見や、「罰則適用が一般社団法人に対しても緩そうなことが知れてよかった」といった皮肉の声がある。



罰則規定まである義務が果たされていないケースが少なくないというのは驚きだが、どういった理由が考えられるのだろうか。



●決算公告しなければ「いつ処罰されてもおかしくない」

企業法務に詳しい宍戸博幸弁護士は、決算公告を行わないことに対して警鐘を鳴らす。



「まず注意したいのは、処罰されたケースが大々的に公表されていないだけであって、罰則規定がある以上、決算公告を行わなければ、いつ処罰されてもおかしくないということです。



『決算公告をしなくてよい』というのは明確な誤りなので、信じないようにしてください。『捕まることなんてほとんどないから、スピード違反をしてもいい』と考えるドライバーはいませんよね。それと同じように考えてほしいと思います」



他方、やはり実際には決算公告を行っていない中小企業も多いようだ。宍戸弁護士は、「その理由は大きく3つ考えられます」という。



●決算公告しない理由(1)「中小企業にはメリットが感じられない」

宍戸弁護士は、1つ目の理由として、中小企業には決算公告をするメリットが感じられないことを挙げる。



「毎年決まった時期が近づけば、お世話になっている税理士・会計士に決算書の作成をお願いし、特に株主総会を開くことなく次年度が始まっていくという中小企業は多いのではないでしょうか。



また、『よくわからないけれど、株主総会議事録という書類にハンコを押している』という経営者の方もいるのではないでしょうか。



中小企業の多くは親族やごく近しい人間関係から成り立っています。そうすると、その企業に関わる人間は経営状況をだいたい把握していますから、わざわざ決算を公表する動機やメリットが感じられないのです。



経営的な観点から決算公告をする必要に迫られていないということが、中小企業において決算公告が行われていない最大の理由だと思います」



では、中小企業とは事情の異なる大企業などはどうだろうか。



「大企業は、不特定多数の株主や利害関係者を抱えているため、健全かつ順調に経営が行われていることを広く世間にアピールする必要があります。



そのため、大企業ではしっかりと株主総会を開催して計算書類の承認を受け、決算公告を行う必要があります。



大企業のホームページを検索すれば、詳細な決算報告が掲載されていますのでぜひ検索してみてください」(宍戸弁護士)



●決算公告しない理由(2)「安くない費用がかかる」

決算公告は、官報や新聞への掲載などで行うことが法律で決められている(会社法440条、939条)。宍戸弁護士は、2つ目の理由として、「決算公告にかかる費用」を挙げる。



「官報への掲載には最低でも数万円かかりますし、新聞への掲載にはさらに多額の費用がかかります。あまり必要性を感じないことにあえてコストをかけようという中小企業は多くないでしょう」



●決算公告しない理由(3)「制度の認知不足」

また、3つ目の理由には、そもそも決算公告という制度の具体的内容が広く認知されていないことを挙げる。



「決算公告がなくても経営できてしまっている中小企業が多数ありますよね。そして、中小企業の多くが決算公告を重視していない(知らない)結果、『決算公告をしなければならない』とは認識されていないのだと思います」(宍戸弁護士)



●決算公告を通じて「会社経営を見直すきっかけにしてほしい」

「メリットが感じられない」「費用がかかる」「制度がよくわからない」とあって、実際の経営で大きな支障が生じていなければ、あえて決算公告を行おうとは思わないのかもしれない。



しかし、宍戸弁護士は、決算公告を行うことは「会社の経営状態を見直す良い機会になるはず」と話す。



「決算公告は、もともと財務状況を広く知らせることで取引の安全を図る制度です。



しかし、それ以上に、公表するとなれば、会社(特に経営者層)は気を引き締めて経営に当たらなければならなくなります。



普段、決算書をチラッとしか読まずに戸棚にしまったままになっている経営者の皆さんも、決算を世間に公表するとなれば、しっかりと決算書類を読み込み、顧問税理士・会計士と相談してみようと思いますよね。



決算公告制度には賛否両論ありますが、少なくとも法律で定められている以上、どの企業も実施すべきです。そして、『他山の石』ではありませんが、今回の報道が、みなさんの会社経営を見直す良いきっかけになってほしいと思います」




【取材協力弁護士】
宍戸 博幸(ししど・ひろゆき)弁護士
債権回収・企業法務に特化し、年間の事件処理数(事務所ベース)は2000〜3000件にも上る。法科大学院の講師として教鞭をふるうほか、休日には趣味の茶道を嗜む。
事務所名:弁護士法人黒川法律事務所
事務所URL:https://kurokawa-lawoffice.com/


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