日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。6月14日は「19歳の漂流 〜妊娠…出産…家族を求めて〜」というテーマで放送された。
あらすじ
行き場のない10代、20代の女性たちを支援するNPO法人「BONDプロジェクト」の活動を11年間続ける橘ジュン。渋谷で活動する橘の元に、19歳のセナが助けを求めてやってくる。
セナの実母は17歳で未婚のままセナを産む。セナは乳児院で2歳まで育ち、その後里親に育てられるも、厳しい家庭に居場所を感じられず、中学生から不良仲間の家に入り浸るようになっていく。中学3年の冬、SNS上のささいなトラブルがきっかけで仲間と共に女子生徒に対する暴行事件を起こし、1年間、少年院に服役する。現在は水商売をしながら川崎で生活しており、暴行事件の被害者に毎月2万円を振り込んでいる。そんな中で、セナに妊娠が発覚する。父親は過去の交際相手でそれ以上のことは語らない。一人で子どもを育てる決意をしたセナだが「シンプルに不安よりも嬉しい気持ち」と、家族ができる喜びを話す。そして男の子を出産。現在は母子支援施設に入居し、子どもと共に暮らしている。
橘が少女たちを支援するきっかけとなったのは、10年前に会ったもう一人の19歳、マリの存在が大きかったという。もともとライターとして居場所のない少女たちの取材を続けていた橘は、歌舞伎町でマリと出会う。
東北で生まれ育ったマリは17歳で交際相手の間に子どもができ、高校を中退し結婚。出産、子育てに励むが長くは続かず、子どもは相手の元に引き取られてしまう。親の反対を押し切って結婚したため実家にも居場所がなくなったマリは故郷を飛び出し、水商売をしながらネットカフェでその日暮らしをしている。橘との対話を通じ、徐々に前向きになりつつあったが、19歳でマリに再度の妊娠が発覚する。
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マリは橘に「(学生の)相手に迷惑をかけたくない」と繰り返し、初めて病院を訪ねた際は、もうおなかがかなり大きくなっていた。その後、男の子を出産し、育児は困難と判断され子どもは乳児院に預けられる。今度こそ子どもとの普通の暮らしを望んだマリだったが、3年後、2度の薬物事件により実刑判決を受ける。子どもは現在、里親の元で育っているという。
番組冒頭で、橘が不平不満を漏らす少女に対し「ちゃんとね、逃げたりとか、うざいとか、むかつくとかいう言葉だけじゃなく、どうしてそう思うのか(伝えてほしい)」と諭していた。この言葉は、少女たちと向き合う橘の根底にある思いに思える。「どうして」を伝えない、伝えられないのはセナとマリにも共通するように見えるのだ。
というのも、二人とも「妊娠」という人生の一大事が発覚した際、セナは相手の男性にそれを告げるも返事がないことに諦めたのか、一人で育てることを決意し、マリに至っては相手が学生だから「迷惑がかかる」としきりに口にし、相手には「ほかの人の子どもを妊娠した」と伝えていたという。
子どもは一人で作れないのだから、相手にも責任はある。彼女たちは「なぜ自分は相手に何も言えないのだろう?」と疑問を持つこと、考えることに蓋をしているように見えてもどかしかった。
「妊娠した」→「相手から返事がない/相手には言えない」→「どうしたらいいかわからない」。「どうしよう」と困っている状態は、考えているとは言えず、問題を放置しているだけではないだろうか。「どうすればいいんだろう」「どうすればよかったんだろう」と自分に問い続け、考えていかないと人生は短絡的になり、周りに翻弄されてしまいやすくなるのではないだろうかと思った。
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番組の最後で、30歳になったマリは「頑張ってきたはずなのに、何も変わってない。悪あがきしただけなのかな」 とこぼしていた。考えのない状態での頑張りは、方向がずれた「悪あがき」にもなりかねないように思える。一方で、30歳のマリには自分の人生を洞察する「考える力」がついている。19歳の時点でその力があれば、と思う。
言葉にしないで黙る彼女たち
まだ若いのに頼れる環境もなく、経済的にも精神的にも極めて不安定な生活の中で生き抜かねばならない少女たちに、「考える力」をつけろというのも酷な話だ。何より悪いのは、そんな状況の少女たちに付け込んで妊娠させた挙句、返事もしなかったり、妊娠の事実を告げることすら諦めさせた相手の男性たちだ。
あらためて、彼女たちの妊娠時の諦めのよさを不思議に思う。相手のことがまだ好きだから、妊娠を告げて困らせたくないのか、相手にうんざりしていてこれ以上の関わりを持ちたくないのか、トラブルになることで自分自身が傷つきたくないのか、相手のことが怖いのか――。それすら、言葉にしないで彼女たちは黙る。言葉にすることを、考えることを先送りにしたら、またそういった問題は形を変えてやってきてしまうのではないだろうか。
次週のザ・ノンフィクションは「孤独死の向こう側 〜27歳の遺品整理人〜」。「孤独死の現場」を“ミニチュア”で再現し孤独死の現実を世の中に伝える27歳の遺品整理人、小島美羽。小島と社長の増田が見つめる孤独死の現場について。