橋本愛が考える、コロナ以降の表現方法 「固定概念や現状を少しずつ変えていければ」

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2020年06月23日 17:31  リアルサウンド

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写真橋本愛
橋本愛

 コロナ禍における映画業界の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンド映画部の特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来』。第7回は、ミニシアターを中心に映画館へ足しげく通うシネフィルとしても知られる、俳優・橋本愛にインタビューを行った。Instagramでのファンとの交流や、ミニシアター・エイド基金に寄せたコメントが大きな話題を呼んだ彼女に、インスタライブをやろうと思ったきっかけ、ミニシアターへの思い、そしてコロナ禍を経て感じたことをたっぷりと語ってもらった(6月8日取材/編集部)。


参考:橋本愛が語る、『告白』と上京当時の思い出 「日活撮影所に行くと胃が痛くなってしまって」


ーー緊急事態宣言が解除されてから約2週間が経ちましたが、お仕事の再開状況はいかがですか?


橋本愛(以下、橋本):対面の仕事はまだほとんどありません。ファッションのお仕事で、短時間の撮影をひとつやったぐらいです。あとは来週あたりから現場や衣装合わせなどが入ってくるという感じです。


ーー緊急事態宣言下の約2カ月間はどのように過ごされていたんでしょう?


橋本:「特に何もしていない」というのがすごくわかりやすいかもしれません(笑)。この仕事って、休みも仕事みたいなところがあるので、本当の意味でやっと休めたような感覚があって。なので、個人的な気持ちとしては、すごく開放的に過ごしていました。2年半ぐらいやっていなかった自炊をしたり、引っ越してから一度もやっていなかった部屋の整理を1カ月ぐらいかけてやったり……家の中を心地いい空間にすること、それと自分自身の生活リズムを整えることに注力していました。あとは、撮影はできずとも決まっている仕事はあったので、準備のためにリサーチやレッスンをしたりしていました。


ーー延期やキャンセルになったお仕事も多かったのではないかと思います。


橋本:そうですね。でも、延期になったものは結構ありましたが、コロナが理由で完全になくなってしまったものはありませんでした。先延ばしになっただけで、逆に準備期間が増えた、みたいな。あとはこういう取材だったり、原稿を書いたり、Instagramなどを通して何かを発信していくことはやっていました。


ーーInstagramでのインスタライブはかなり頻繁にやられていましたよね。


橋本:インスタライブに関しては、この期間中に初めてやってみたんです。今までは一切やっていなかったし、私自身SNSにものすごく疎くて。ストーリーズ機能もたぶん今年に入ってから使い始めたぐらいで(笑)。インスタライブも基本的に告知せずにやるので、最初にやったときもゲリラ的な感じで始めました。


ーー今までやってこなかったインスタライブ、いわばファンとの交流ですが、始めようと思ったのにはどういうきっかけがあったんでしょう?


橋本:今回のコロナウイルスによって、世界も自分も停止してしまったような感覚になったんです。その停止したときに、私自身は言ってしまえば経済的にも精神的にも打撃はものすごく少なく済んだんですけど、世界にはそうじゃない人がたくさんいて。もし自分のファンの方の中にそういう方がいたら、大げさに言うと、命を救えるかもしれないし、生きる活力にもなり得るんじゃないかと思って、やってみることにしました。実はいままでもそういう気持ち自体ははあったんですけど、ちょっと警戒心があって……。


ーー表舞台に立つお仕事をされているわけですから、警戒心があって当然だと思います。


橋本:そう、このお仕事って、最悪の場合生命を脅かされるようなこともあるし、私自身もそういうリスクを長年抱えて生きてきた方なので、すごく警戒心が強かったんです。もちろん、皆さんからの言葉はすごく届いていたし、愛をお返ししたいという気持ちはずっとありました。ただ、愛を返すことで生まれるリスクに立ち向かう姿勢だったり勇気だったりが、自分の中で整っていなくて。理想は、ファンの方と1対1で向き合うことだったんですけど、それがちょっと怖くて、ファンの方や世間という大きな存在に対しての私1人、みたいな向き合い方しかできていませんでした。ただ、やっぱりそれがずっとしっくりきていなかったし、文化芸術の重要性や、1人の変革が世界の変革につながるということが、自分の中でも日に日に明確化されていく中で、いままでの自分のやり方とは合わなくなったんです。例えば映画だと、撮影から皆さんにお届けできるまで1年前後はかかるものなので、そういうかたちとはまた違う、いま苦しい人をいま助けたいと思いました。そういう衝動をすぐに行動に起こせるという意味では、SNSはものすごくいいツールだなと。だから、コロナや緊急事態宣言下での自粛要請がきっかけで始めたことではあったんですけど、これからも何らかのかたちでの1対1の交流は、自分の中の土台になっていくのではないかと思っています。


ーー正直、橋本さんがインスタライブをやられるというのはけっこう意外で驚きました。


橋本:たしかにイメージと違うと言われることは現場でもよくあります。やろうと思ったもう一つの理由もそこにあるんです。


ーーというと……?


橋本:いまおっしゃっていただいたような、デビューしてからのパブリックイメージみたいなものがあるじゃないですか。“雲の上の存在”とか“女神”みたいな、そういうイメージをすごく信じてくださっている方ももちろんいる。普段の生活だったり、自分の心の中のフラットな部分を見せることで、そういう方たちへの裏切りにならないか、みたいなことも考えてしまって。最終的には、「見たい人は見る、見たくない人は見ない」という選択権さえあればいいかなという結論に落ち着いたんですけど、幻想を破壊することの罪深さは感じてしまいました。でも、いまこの時代に、芸能人(自分を芸能人とは思っていないけれど、俗称として)がすごく遠い存在というのも、もういいんじゃないかなって。この時期に、やっとそういう発想に至りました。


ーー実際にインスタライブでファンの方々と交流してみて、いかがでしたか?


橋本:やっぱり一番うれしい言葉って、「かわいい」とかよりも、「元気が出た」「頑張れる」「救われた」とかなんです。誰かに何か力を与えられることがすごくうれしいし、そのフィードバックがあって、初めて「この仕事をやってよかった」、大きく言えば「生きててよかった」と思える。いままでは、俳優はプライベートを見せてはいけないという概念や、取材のときとかに自分の思想や哲学を話すのは作品の邪魔になるから控えるみたいなことを、ものすごく意識しまっていて、自分の中の本質的な部分を避けた言葉遣いをしてきたところがありました。そんな中で、先日インスタグラムで初めてファンの方からの質問返しをやったときに、自分の深い部分をさらけ出してみようと思ったんです。そしたら、意外と言葉に引っかかってくれる方が多くて。きっといまは本質を見る目がものすごく養われてきているし、私自身もそういう世界を望んでいる。むしろそうならなければいけないと思うので、そういう固定概念や現状を少しずつ変えていければと思いました。そう思えたのは、ファンの皆さんのおかげですね。すごく助けてもらいました。


ーーインスタライブなどでの交流は今後も続けていく予定ですか?


橋本:そうですね。いままでも自分の中の言葉を吐き出したい衝動ってたくさんあったんですけど、俳優にとってそういう場所は、作品のプロモーション取材とかでしかなかったから、ずっと溜まっていた部分もあるんです。徐々に撮影などお仕事も再開していくと思うので、いままでのペースでできるかどうかはわからないですけど、タイミングがあればまたやると思います。


ーー橋本さんが発せられた言葉でいうと、「ミニシアター・エイド基金」に寄せられた応援コメント動画も大きな話題となりました。


橋本:ミニシアターは私にとって、普通にある存在、まるで日用品と同じ位置にあるような生活圏にあるものだったので、ものすごく大事というよりも、存在してくれていなければ、自分の平常が狂ってしまうものなんです。これもさっきの話に通じることではあるのですが、他の皆さんが寄せられたコメントも拝聴した中で、私に何ができるかを考えたときに、腹を割って話すしかないと思って、自分の実体験を素直に出てきた言葉で語ることにしました。ものすごい反響をいただき、実際にあの動画きっかけで基金に賛同してくださった方もいらしたようなので、それは単純にものすごくうれしかったですね。


ーー「私は昔、映画に命を助けてもらいました」「唯一安心できる暗闇は、映画館だけでした」「絶対に生きて、生きて、生きて、生きて、またミニシアターで会いましょう」など、橋本さんの言葉はものすごく心に響きました。


橋本:自分がやってきた体験って、少なくとも自分が選んできた体験なんです。私自身、仕事面でうまくいかないことが続いた時期があったのですが、それもすべて自分で選択したことだったんですよね。なぜ自らそういう選択をしたのかというと、自分の中にどん底を知りたいという気持ちがあったから。そのままうまくいってしまうことへの危機感を感じてしまって、自らどん底に落ちていったんです。実際に地獄を見て、来なきゃよかったとは思ったんですけど、地獄を知っている人たちの痛みを知ることはすごく重要だったので、そういう意味ではいまでも間違ってなかったと思うし、これからも自分の選択を間違いにしないための選択をしていかなければいけない。ミニシアター・エイドに寄せたコメントによって、絶望の淵に立たされた人たちに少しでも寄り添えた気がしたので、過去の経験が報われた気がしました。


ーー結果的にミニシアター・エイド基金の総額は3億円を超えました。映画館も再開され始めましたが、ウイルス対策のため販売座席数が減少するなど、平常化にはまだまだ時間がかかりそうです。


橋本:そうですね……。ミニシアター・エイド基金に関しては、深田晃司監督や濱口竜介監督をはじめとする方々が立ち上げてくださったから、私たちは支援金として寄付をするという最低限のアクションで済みましたが、深田監督と濱口監督がこの特集記事の中で「第2弾、第3弾は基本的に考えていない」とおっしゃっていたように、やっぱり自粛期間だからこそできたことで、その労力は相当なものだったと思います。私としては、日々変わっていく状況の中で、できることを見つけながら、行動していきたいなと思っています。


ーーまずはちゃんと映画館に行くことが最大の貢献になるかもしれませんね。


橋本:そうなんですよね。私、この自粛期間、家で1本も映画を観ていないんですよ。


ーーえっ、そうなんですか?


橋本:そうなんです。みんなにすごく驚かれるんですけど(笑)。この期間で、どれだけ自分にとって“空間”が大事かを実感しました。音楽にしても、家でライブ映像を観るのではなく、やっぱりライブに行きたい。舞台は劇場で観たいし、映画は映画館で観たい。いまは配信サービスがすごく豊かになってきていて、世界的にもそういう流れになっていくのかもしれないですけど、私はその空間がなくなってしまったら、自分の人生に耐え難い虚無を抱えることになってしまうので、空間を残す、保つ、努力は一個人として継続していきたいです。


ーー本当にその通りだと思います。一方で、映画やドラマの撮影も再開されていくと思いますが、そこも完全に元に戻る見通しはまだ立っていません。


橋本:撮影に関しては、私はそこまでストレスを感じずに済むだろうなと思っています。というのは、もともと現場で人と距離を取っていたタイプだったので(笑)。収益面や効率面などいろんなリスクがある一方で、距離を取る必要性があることは、プラスに働く側面もあるんじゃないかなと思っています。社会を見ても、人との距離の測り方を見誤ってる人がいて、そういう人のせいでうまく人との距離を縮められない人もいる。そういう社会の悪習がソーシャル・ディスタンスというかたちで一旦フラットになって、人と人との適切な距離が見直されることを期待しています。


ーー役者として表現を伝えていく中で、今回のコロナ禍によって何か変化することはあるのでしょうか?


橋本:私は「絶対にない」と言い切れます。たとえば、東日本大震災のときは、惨状が明らかに可視化されたじゃないですか。そういう景色をカメラに映してしまえば、それだけで心をえぐられるものがあったけど、いま目に見えている景色は、数か月前と何も変わっていない。飲食店のシャッターが閉まっていたり、外に出る人が減っていたりというのはもちろんあるんですけど、それ以外に目に見えた変化は感じにくい。見た目が変わっていないのに中身が蝕まれている、まさに“ザ・ウイルス”という感じですよね。それはごくごく日常で、映画はそんな、外からは見えない他者の不幸や絶望に、クローズアップして光を当てて、それを見た私たちが世界や人生に向き合い想いを馳せるという構図は変わらないと思うんです。私自身は、今日もどこかで誰かが亡くなっているんだとか、いま誰かが経済的に困窮してるとか、いま誰かが絶望の淵に立っていて……というようなことを、本当に日々考えながら生きてきたんです。自分がいま生きていることの奇跡を普通に毎日感じていたので、今回のコロナによってそれが増幅したとか拡張したことも一切ないんです。変わったことといえば、そういうことがニュースなどで可視化される機会が増えたことぐらいで、いままで生きてきた感覚とまったく変わらないんですよね。毎日、毎秒が、生きてるだけで奇跡なのはいつも同じだから、その感覚は絶対に忘れたくないです。なので、役者としても、作品のテーマに寄り添って、役を生きるというこれまでとまったく変わらないです。


ーーこれまでと変わらずに、与えられた役を生きていくだけだと。


橋本:ただ、この期間に一つ思ったのは、この仕事ってやっぱり雇われ仕事だなと。それは前から思ってたんですけど、今回より強く思いました。やっぱり俳優って、発注がないと動けないわけで。今回も「あ、動けない」となって、それがすごく窮屈に感じてしまったので、俳優ではなくて、創作者にならなきゃダメだなと思いました。


ーー今後、作品づくりにも挑んでいくということですか?


橋本:そうです。いままでも監督をやるとか音楽をやるとか、いろいろ考えてはいたんです。ただ、ちょっとロースピードで進んでいたので、ギアを上げてやっていこうと。それは今回のことで踏ん切りがついたので、今後はそういうことにも挑戦していこうと思います。(取材・文=宮川翔)


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