トップ選手が知る世界を学生に講義 陸上短距離の五輪銀メダリスト、末続慎吾が壮絶な体験を語る

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2020年06月24日 18:31  OVO [オーヴォ]

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トップ選手が知る世界を学生に講義 陸上短距離の五輪銀メダリスト、末続慎吾が壮絶な体験を語る

 40歳になった陸上競技男子200メートル日本記録保持者の末続慎吾。今も現役で100歳まで走るのが夢という。その彼が、旧知のスポーツジャーナリストである増島みどりさんが講師を務める法政大学スポーツ健康学部の「トップアスリート論」のオンライン授業に、特別講師で登場。壮絶という言葉がぴったりの若いころの練習、レース前の緊張した神経を逆なでするようなトップ選手同士の駆け引き、途絶えることのないドーピングなど、世界を相手に戦ってきた人間だけが語れるさまざまな話題を披露した。


失神するほど練習

 末続の実績は素晴らしい。オリンピックには2000年のシドニーから04年アテネ、08年北京と3大会連続で代表に選ばれた。北京では男子400メートルリレーで銀メダル(当初は銅も、その後金メダルチームがドーピングで失格)を獲得。世界選手権には01年から4大会連続で出場し、特に03年パリ大会200メートルで銅メダルに輝いた時は、能力で劣るとみられたアジア人が表彰台に上がり世界に衝撃を与えた。また、03年にマークした200メートル20秒03の日本記録はいまだに破られていない。

 当時の練習は増島さんが「失神するまで自分を追い込んでいた」と証言するように、ハードの一言。先輩たちもけがを抱えながら練習をこなし、末続は「こんな壮絶な練習をしていたら長生きしないだろうな」と思ったそうだ。ただ、20代のころは「日本代表の責任感、使命感、義務感といったものに後押しされ競技を続けた。自分の感覚だけならやめていただろう」という。


罪の意識薄いドーピング

 今年6月、ドーピング検査に必要な居場所情報を申告しなかったとして、19年の世界選手権男子100メートルを制したクリスチャン・コールマン(米国)が、暫定的な資格停止処分を科せられた。1年か2年の資格停止となり、東京五輪に出場できない可能性が出てきた。ドーピングについて、末続の経験談が興味深い。自身もレース前、この選手は怪しいなと感じた瞬間があったそうだ。「目の輝きが異常だったり、動物的な臭いがしたり。五感を研ぎ澄ますと感じるんです」。

 禁止薬物の力を借りて能力を高める行為は、もちろん排除されるべきだが、成績を取り消されたり、競技人生を終えなければならないリスクが伴うにもかかわらず、手を出す者が後を絶たない。末続は「今の世界はこうなんだ。不正を見つけられるのは、交通違反切符を切られるくらいにしか考えていないのではないか」と指摘する。




気と気のぶつかり合い

 レースでは、素人には想像もできない感覚の世界があることも明らかにした。陸上競技の短距離では、選手は決められたレーン内を走るため体の接触はないが、故意に体を近づけ「抜くぞ」とか「来るな」といった「気と気のぶつかり合い」があるそうだ。03年の世界選手権ではコーナーで外国の有力選手に体を寄せられ「今でいう、あおり運転をされているような感覚に襲われた。このレベルだと、こういうことが起きるんだ」と感じたそうだ。1回目のスタートでわざとフライングを犯し、ほかの選手のリズムを乱すこと(03年から10年までは2回目以降はフライングした選手が失格)を狙う選手もいるという。 こうしたかく乱戦術には技で対抗した。「元気なうちはスタート音で力が入ってしまうが、疲れてくると自然に体が反応する。そういう技を身に付けておく」。こうなるとフライングの心配はないし、意外とタイムもよくなる。さらに相手の力を利用したこともある。200メートルで、世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)の隣りのレーンで走った時は「体をボルトに寄せて走りを同調させ、ついていくのではなく大きな体のボルトに引っ張ってもらった」そうだ。これで120メートル付近まで競り合ったという。


抽象的な感覚を言葉に

 長く取材してきた増島さんによると、最近の末続は走りや技術の抽象的な感覚を、具体的な言葉に置き換え始めているという。例えば「レース前のルーティーンは」という問いに「基本的に平常心でいることは無理。勝手に反応している動きがルーティーン」と説明する。末続ほどの選手にそうアドバイスされたなら、若い選手は「緊張するのは当たり前」と納得するに違いない。トップレベルを経験した選手だけが語れる世界があり、それを平易な言葉で聞くことができれば、陸上競技に対するイメージは大きく広がり理解も深まることだろう。

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