広瀬香美、YouTuberとして話題を集める理由は? “広瀬節”炸裂のアレンジと意外な選曲の妙

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2020年06月25日 12:11  リアルサウンド

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広瀬香美『WINTER TOUR 2020 "SING" + Live at Blue Note Tokyo』

 新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、ライブやコンサートが軒並み延期や中止に追い込まれる中、アーティストの間ではインターネット環境を利用した動画投稿や配信ライブを行う動きが活発化した。それぞれに趣向を凝らしたコンテンツでSNSを賑わせる様子が連日メディアでも報じられたが、一際話題になった人といえばシンガーソングライターの広瀬香美だろう。昨年12月に自身の公式YouTubeチャンネルを開設し、主に過去のライブ映像や歌唱法をレクチャーする動画を公開していた広瀬。しかし、今年3月上旬に「広瀬香美の○○を歌ってみた」と題して米津玄師の「Lemon」を歌う動画を投稿して以降、Official髭男dismの「Pretender」やあいみょんの「マリーゴールド」などヒット曲を次々にカバー。視聴者からは「これがプロの力か……」「鳥肌が立った」など絶賛のコメントが相次ぎ、初回から300万回再生を突破した。


(関連:広瀬香美による「Lemon」カバーはこちら


 とはいえ、「歌ってみた」といえば、動画投稿サイトでは定番のネタ。なぜ彼女の作品がこれほど注目を集めたのだろうか。


 1992年のデビュー以来、パワフルな美声と類まれなソングライティング力でJ-POPシーンの第一線で活躍してきた広瀬香美。90年代に放った、「ロマンスの神様」「幸せをつかみたい」「ゲレンデがとけるほど恋したい」「DEAR…again」「promise」などのヒット曲は今なお聴き継がれる名曲として人々の記憶に残り続けている。そんな彼女が「歌ってみた」動画に挑戦した理由は、「Lemon」を練習する姿を見たスタッフに懇願されたことがきっかけだったそうだが、実際にそのパフォーマンスを見ればスタッフの意図もわかるというもの。彼女なりの解釈でアレンジが加わった楽曲は、オリジナルとはまた違った魅力を引き出すことに成功していたからだ。


 たとえば、「Lemon」はややジャズ寄りのピアノ伴奏のもと情感たっぷりに歌い上げる歌唱を披露。中盤には即興めいたピアノソロも交えるサービスぶりで視聴者を圧倒した。また、King Gnuの「白日」にいたってはさながらオペラの一節かと思うほどドラマチックな仕上がり。全身全霊の演奏スタイルにもついつい目を奪われてしまう。その他の楽曲についてもケタ違いの声量とリズム感を生かした“広瀬節”とも言えるアレンジで、オリジナルのファンをも唸らせる名カバーを連投。ともすればカラオケになってしまいがちな「歌ってみた」動画でベテラン歌手の凄みを見せつけた。


 また、「広瀬香美の○○を歌ってみた」の場合、選曲の意外性も注目を浴びた理由のひとつだろう。これまでにアップされた動画は、前述の米津玄師ら若手アーティストのほか、アニメ『鬼滅の刃』の主題歌として大ヒットしたLiSAの「紅蓮華」や嵐、石川さゆり、お笑い芸人・どぶろっくのネタ「もしかしてだけど」などとにかく幅広いラインナップに驚く。時にはリクエストに応えるかたちでリスナーと積極的にコミュニケーションをとる姿勢も、YouTubeならでは。加えて分析パートと称して、楽曲の成り立ちにまで踏み込んだ丁寧な解説を付け加えるなど、わずか10分足らずの動画の中に多くの見どころを詰め込んでいる。


 彼女ほどキャリアのあるミュージシャンなら、「歌ってみた」をしなくとも自身の楽曲をいくらでもコンテンツ化できただろう。それをあえて挑戦したことが思わぬ“バズ”を生んだ。しかも片手間な演奏ではなく、1曲ずつかなり練習を重ねて仕上げてきていることは疑いようもなく、何より音楽へのあふれる愛と原曲へのリスペクトがひしひしと伝わってくる。動画のクオリティも回を追うごとにパワーアップし、コメント欄の活況ぶりを見るに世代を超えたファンを獲得することにも繋がったのではないだろうか(かつて「ニコ動」でブレイクした小林幸子のように)。コロナ禍で生のエンターテインメントと接する機会が奪われた今、私たちに音楽を楽しむことを改めて教えてくれたと言っても過言ではない。ステイホーム期間が終わっても、コンテンツとして続けて欲しいと切に願う。(渡部あきこ)


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