思春期の男女の“痛々しさ”を浮き彫りにーー志村貴子『ビューティフル・エブリデイ』が突きつける黒歴史

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2020年06月27日 08:01  リアルサウンド

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 両親の再婚をきっかけに一つ屋根の下で暮らすことになった3人の義兄妹を中心に、思春期の男女の姿を描いた志村貴子の漫画『ビューティフル・エブリデイ』(祥伝社)の最新刊となる2巻が6月8日に発売された。同作は『FEEL YOUNG』(祥伝社)に連載されているシリーズで、これまで多感な若者特有の熱狂や痛々しさを繊細に表現してきた“志村ワールド”全開な群像劇となっている。


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「朝からごめんねーあたしやっぱり花琳ちゃんのこと好きになれなーい」。


 この台詞は1巻で描かれる冒頭のシーンで、高校生の主人公・花琳に対して、義妹の美咲が駅のホーム越しに吐いた台詞だ。さらに追い討ちをかけるように、電車で一緒になった義兄・光一は車内が満員なのをいいことに花琳を抱きしめ、あろうことか欲情して勃起。花琳は気持ち悪くなって、途中で電車を降り、亡くなった実父・大地のお墓で一人涙を流す。


 なぜ花琳が最初からこんな目に遭っているのか。それは、彼女の母・えみりの職業が“エロマンガ家”であることに起因する。花琳自身が母の職業に対して不満を持っているとか、それが原因で虐められた経験があるような描写はない。しかし、引越しの際にえみりが描いたエロマンガを見つけた美咲と光一から、花琳は好奇の目に晒されてしまう。


 また、花琳に一目惚れした光一は無神経にも彼女に対し、「さっきコレでシコってたんだ」と自分の性事情を申告。手を出すわけではないが、花琳を連れ込んでお気に入りの音楽や動画をおすすめする強引さはある。美咲が花琳に好きになれないと言ったのは、光一の部屋から出てくる花琳の姿から2人が身体の関係を持ったと勘違いしたから。


 問題児の義兄妹に囲まれて生活する主人公が、さぞ不遇な人生を送るのだろう……と思いきや、そんなこともないのがこの漫画の面白いところだ。花琳はおとなしそうな女の子に見えるが、“キモイ”が口癖の美咲に対しては、「おまえのがよっぽどキモイわ」と心の中で毒突くし、勢いで告白してきた光一には、実父もエロマンガ家だったことや両親の本を見て自慰を覚えたことを明かし、エロマンガ家の娘=エロいと思っている光一の偏見を本人に突きつけた上で、「そのとおり」だと認める。


<だからってあんたとなんかぜったいセックスしてやらない。おまえなんか妹とでもヤってろバカ!>


 泣きながら光一にそう告げるシーンで、1話は幕を閉じるのだ。怒涛の展開だが、次話からは比較的たんたんとした日常が、光一や美咲、花琳を取り巻く人々の視点から描かれる。


 その中で、読者は1話だけ見ると憎たらしく思える光一や美咲がどんどん可愛く見えてくるだろう。例えば、光一はイケメンにもかかわらず、先のエピソードのように無神経で、性欲だけで生きているような高校生だ。さらには、以前好きになった女の子に友達を使って話しかけたり、花琳に彼氏がいることが発覚して学校をズル休みするような少しカッコ悪い一面も。しかし、そんな光一はどこか憎めなくて、自分にも心当たりがあるようなエピソードの数々に気恥ずかしさを覚える。


 他にも、美咲が夢であるアイドルとしての未来を見据えて振る舞う場面や、大地が小学生の頃、こっそり絵のモデルにした同級生から「冨田くんはすごいと思う。でももう見るのやめてね」と言われたエピソードなど、若さが生んだ“黒歴史”が細かく描かれているのが特徴だ。


 志村の作品で、近日劇場版アニメとして公開が予定されている『どうにかなる日々』、アニメ化もされた『青い花』や『放浪息子』などと同様、大地が幽霊となって登場したり、花琳の同級生である綾乃が密かに彼女に恋していたりと、志村ファンにとっては堪らない展開の数々が待ち受けている。


 ひとつひとつのエピソードは、他人にとって取るに足らないものかもしれない。けれど、よく目を凝らして見ると傷つき、傷つけながら誰かを思う若者の姿がそこにある。私たちは恥ずかしさで過去の自分から目を逸らしてしまいがちだが、『ビューティフル・エブリデイ』の登場人物を通して、一生懸命だったあの頃の自分に想いを馳せてみてはどうだろうか。


(文=苫とり子)


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