遠隔合奏のために、音質、低遅延に全振りしたいと思います ヤマハ「SYNCROOM」始動、開発の狙いを聞いた

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2020年06月29日 18:23  ITmedia NEWS

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写真Android版SYNCROOM βには回線チェック機能も
Android版SYNCROOM βには回線チェック機能も

 数十キロから数百キロ離れた遠隔地のプレイヤー同士で、同じ部屋にいるかのような音楽セッションができる。ヤマハが6月29日に正式スタートした低遅延遠隔合奏サービス「SYNCROOM」はそんな夢のような技術だ。だがこの技術自体は既に10年の稼働実績を持つ。



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 コロナ禍で身動きが取れない中、ミュージシャンにとっての救世主とも言えるSYNCROOMはどんな意図で生まれたのか、何ができるのか、基になったサービス、NETDUETTOとはどう違うのか。10数年前から開発を進めてきた原貴洋さんをはじめとする、SYNCROOMチームのみなさんに疑問を全てぶつけてみた。



 ヤマハの出席者は次の通り(所属名は6月29日現在):



・原貴洋さん 電子楽器事業部電子楽器開発部音源プラットフォームグループ 主事



・野口真生さん マーケティング統括部UX戦略部CE企画グループ リーダー



・北原英里香さん マーケティング統括部UX戦略部CE企画グループ



 筆者が一般公開前のNETDUETTOアルファ版をテスターとして触ってから10年。5Gを見据えたサービスとして、SYNCROOMの前身であるNETDUETTOに着目し、2018年に取材をしてから1年半。このサービスは現在、以前とは違う形で注目を浴びている。



 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により音楽の世界は壊滅的被害を受けた。感染症予防の観点から演奏者が集まって合奏できなくなり、やれば非難されるような情勢になった。ライブ会場がクラスターの発生源になり、コンサート会場やライブハウスなどの「ハコ」が活動停止に追いやられた。ミュージシャンたちは自宅から1人で“アンプラグド”な演奏を届けるくらいしかできない。



 他のプレイヤーと合わせて演奏する合奏の楽しみを奪われたのは、プロミュージシャンだけでない。アマチュアもだ。リハスタ(リハーサルスタジオ)に入って練習すらできない。



 そこで注目されたのがNETDUETTOだ。PCにソフトウェアをインストールし、オーディオインタフェースに楽器やマイクを接続すれば、高速なインターネット接続によって遠く離れたバンドメンバーと同じスタジオにいるような感覚で演奏ができる。



 ビデオ会議や音声チャットで同じようなことをしようとすると、遅延が大きすぎて合奏が成立しない上、音質も不十分なのが大半だ。NETDUETTOはその壁を乗り越える技術を提供するサービスで、コロナで分断されたミュージシャンたちを再びつなげてくれるツールとなっている。



 そのタイミングで、NETDUETTOの後継としてSYNCROOMが発表された。これはどのような意図で生まれたのか。



●なぜSYNCROOMにリニューアルしたのか



 なぜヤマハが低遅延のネットワークサービスを実現できるのか。それは、ヤマハの主要事業の1つに、ルーターなどのネットワーク製品があるためだ。原さんはもともとネットワーク製品の開発に関わっており、その中で低遅延技術を音楽に応用する実験を始めた。それが数年かけてNETDUETTOという形に結実したのだ。



 そのNETDUETTOがSYNCROOMになると何が変わるのか?



 SYNCROOMになっても性能、機能は大きく変わらない。10年間ずっと「β版」だったNETDUETTOと違い、SYNCROOMはヤマハの正式サービスとしてスタートするというのが最大の変化だ。



 企業としてちゃんとサポートする体制ができたのだ。このため、誰でも匿名で参加できるシステムではなく、利用者がアカウントを取得してログインする仕組みとなった。ヤマハのWebサービスを利用する際に必要な共通アカウントを既に持っていれば、そのまま使える。サービス自体は無償のままだ。



 ヤマハはSYNCROOMを会議システムに発展させようとは考えていない。「現時点ではこのサービス本体から収益を得ることは考えていない」というヤマハにとって、SYNCROOMによって楽器を長く使ってもらうことが、このサービスを提供する対価となるのだ。



●新機能はどんなものか



 SYNCROOMアプリからアクセスできる機能で大きなものは3つ。まずは自分の声や楽器にリバーブをかける機能。リバーブの深さも変えられる。オーディオインタフェース側にリバーブ機能がある場合もあるが、気持ちよく歌える、演奏できるエフェクトとして活用したい。使えるリバーブは幾つあっても困ることはない。



 残りの2つはメトロノームと録音機能。どちらも練習には欠かせないものだ。著作権の問題を考慮し、再生と録音は別々に処理する。



●どのマシンで利用できるか



 利用できるPCのOSはWindowsならWindows 10の64ビット版、MacならmacOS MojaveおよびCatalinaとそれぞれ新しいものが推奨だが、それより前のバージョンでも動かないわけではない。むしろ、最新版OSできちんと動作を検証していると考えてほしい。



 SYNCROOMはPC、Macに加え、さらにAndroidでもβ版として利用できる。iPhone版の提供は未定。



 ヤマハは5Gネットワークを利用したスマートフォンでNETDUETTOを使えるよう、NTTドコモと共同で試験してきた。しかし、コロナにより外出に制限がかかり、商用電波での検証は十分にできていない。性能や利用可能なエリア、端末などを、このβ版の利用状況から調べていきたいという。アプリは既にGoogle Playストアで「SYNCROOM β」として公開している。



 スマートフォンに楽器をつなげばそのままワイヤレスマイク、ワイヤレスシールドとして遠隔地のプレイヤーと演奏できる未来に一歩近づける。Android用SYNCROOMは5Gでなくても「条件のよいWi-Fiであればある程度のセッションはできる」という。



 公開されたβ版をRakuten Miniにインストールし、自宅のWi-Fiで回線チェックしてみたが、「セッションできる可能性が高いです」と表示された。



●ネットワーク環境の制限はどうなるか



 SYNCROOMの推奨ネットワーク接続は光回線となっている。だがケーブルネットワークやADSLなどを排除しているわけではない。IPv6 IPoEも推奨しているが、それ以外で使えないこともない。正式サービスになったことで、ヤマハのサポート体制も整いつつある。回線業者と連携したサービス保証なども将来的には用意するかもしれない。



●スタジオやライブ会場で利用できるか



 こういうオンラインセッションをやるとき、ギターやキーボード、ボーカルはまあいいのだが、ドラマーは困る。最近は電子ドラムも普及しているが、それでも集合住宅では厳しい。ドラマーだけはスタジオに入って他のメンバーはSYNCROOM、というスタイルもできるとありがたい。



 ヤマハにはリハーサルスタジオ、レコーディングスタジオやコンサート会場からの問い合わせもあるという。同社は、業務の成立を絶対的に保証できるものではないと理解してもらった上で、問い合わせに応じる姿勢だ。



●MIDIならもっと悪い条件でもつながるのではないか



 使っているネット回線のせいでどうしても接続がうまくいかない場合もある。そういうときでも、MIDIデータのやりとりだけならデータが軽いからうまくいくのではないか。そんな疑問をぶつけてみた。



 ヤマハの答えは「MIDIでも難しい」というものだった。オーディオのレイテンシを縮められないときはMIDIでも難しい。接続が不安定なときはバッファをためて使うが、それもオーディオのときと同じく「ネットワークがよれちゃう」のだそうだ。



●遅延を減らすにはどうしたらよいか



 SYNCROOMは低遅延で合奏できるシステムだが、低遅延は時間を削る小さな積み重ねで実現できるものだ。インターネット接続ではIPv6 IPoEにできるならその環境で。Wi-Fiではなく有線のイーサネットで。PCの性能はできるだけよいものを。そして、オーディオインタフェースの中でも遅延が少ないものを選ぶとよいという。



●注目を浴びたことによるプレッシャー



 原さんはSYNCROOMがコロナで注目されるようになったことについて「正直複雑な気分でした」と述懐する。



 もともとSYNCROOMは家にいながら合奏できるメリットを訴求するもので、今までの音楽活動に「プラスアルファ、プラスワン、加わるといいかもね」くらいだった。それが「どうしても必要なもの、切実なものに変わってきた」という。これでは手放しで喜べない。



 だが、コロナの影響の中で「NETDUETTOがあることで気持ちが救われた」という感想をもらえるようになった。



 ヤマハのメインビジネスである音楽機器はこのところ上り調子だ。テレワークのビデオ会議を高音質にするオーディオインタフェースの人気商品、AG03/06はいまだに品薄で「工場のキャパシティーを超えた」状態。潤沢になるには秋まで待つ必要があるそうだ。ギターやサイレント楽器など、手頃な楽器の購入も伸びているという。



 これまでのNETDUETTOの利用者は、技術のことをかなり分かっている人だったが、これからはオーディオインタフェースやレイテンシといった難しい技術、用語を知らない人たちにも優しいサービスにしていかなければならない。



 直接競合するサービスはないが、DiscordやZoomといった、遅延が少ないことをうたうサービスは出ている。それでも「今の時点では音楽をやるレベルでの遅延、音質で一定の優位はある」。



 SYNCROOMは「音楽を成立させるために、音質、低遅延に全振りしている。会議システムに使うなどのある意味メリットを捨てて、音楽セッションができる方にパワーを全振りしている」という、パラメーター極振りサービスだ。



 オンラインセッションは10年の歴史を迎え、セッション相手をSNSで探して回る人、オープンルームで一期一会のセッションを楽しんでいる人など多様な利用方法が生まれている。プロのミュージシャンも積極的に利用するようになった。SYNCROOMではスマートフォンがあれば手軽に演奏に参加できるように裾野の拡大が期待できる。「おうちでセッション」はごく普通の音楽形態になっていくのかもしれない。


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  • NETDUETTO懐かしいな 正直あまり使えたもんじゃなかったけど、本当に使える代物になってるなら試してみたい
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