夫と子どもに先立たれ、孫たちは拒絶… 原因は娘婿の浮気を責めたから? 83歳女性の生前整理

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2020年07月04日 11:30  AERA dot.

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写真※写真はイメージです(Gettyimages)
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 人生で最も費用対効果が高い節約術は、「生前整理」かもしれない。生前整理とは、生きているうちに自分の死や老いに備え、不用品を整理したり、資産状況などを把握し、自分の意志がはっきりしているうちに、大切な人に想いを伝えておくこと。

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 生前整理や遺品整理の現場で7年近く活動を続けている生前整理診断士の大島美香さんは、「生前整理は、物・心・情報(手続き関係)の整理です。物・情報は完璧でも、心の部分が整理できないために、寂しい最期を迎えるケースもあります」と話す。実際にあった事例をもとに、有益な生前整理について聞いた。

■夫と子どもに先立たれた83歳の女性

 愛知県の梶田とし子さん(83歳、仮名)は、5年ほど一人暮らしをしていた。夫は20年ほど前、65歳でがんにより死去。娘は10年前、43歳で心臓の疾患により他界。同居していた息子は5年前、朝になっても起きてこないため、心配した梶田さんが部屋を見にいくと、布団の中で冷たくなっていた。検死の結果、死因は心疾患とされた。45歳だった。

 次々に家族に先立たれたものの、梶田さん自身は健康そのもの。生活習慣病や認知症になることもなく、後期高齢者と言われる年齢になっても、自分の身体も家の中もきちんと管理できていた。

 しかし80歳を超えたころから、万が一のことを思うと、このまま一人暮らしを続けることに不安を覚え始める。

 悩んだ末に梶田さんは、元気なうちに高齢者向け施設に入所することを決意。ただ、施設に入るためには「保証人」が必要だが、梶田さんには息子も娘もいない。そこで、すでに成人している亡き娘の子どもたち(孫)に頼もうと、久しぶりに連絡をとった。すると、「迷惑をかけないで!」と拒絶されてしまう。

 もともと人付き合いが苦手な梶田さんは、近所付き合いもなく、相談できる友人・知人もおらず、途方に暮れた。

 なぜ孫たちは梶田さんを拒絶したのか。梶田さんは「娘婿が孫に自分のことを悪く言っているからではないか」と考えている。

■孫たちとの絶縁

 夫は生前、梶田さんや子どもには厳しかったが、孫のことはとても可愛がった。出産祝い金に始まり、ベビー用品、洋服、入園・入学準備金、家電製品、普段の食費など、「自分たちは贅沢しなくてもいいから」と、お金の援助を惜しまなかった。そのため梶田さんと孫たちとの関係も良好で、「おじいちゃんおばあちゃんの家は居心地がいい」と、孫たちだけで遊びに来ることも少なくなかった。

 ところが、娘の夫は何年か前から浮気をしていたようだ。夫が浮気していることに気づいた娘は、梶田さんに何度か相談した。夫がいつから浮気していたかは分からないが、相手が誰なのかは分かっていた。梶田さんは、娘から相談されるたびにじっと耳を傾け、優しく慰めたが、最後には必ず「家へ帰って、夫婦でしっかり話し合いをしなさい」と促した。

 娘から何度目かの相談を受け、いつものように諭してから数日後。娘は買い物に出かけた先で突然倒れ、救急車で病院へ搬送されたがそのまま亡くなってしまう。

 梶田さんは、「娘が死んだのは、娘婿の浮気によるストレスが原因だ」と思い、娘の葬儀の際に娘婿に詰め寄った。しかし娘婿は少しも動揺せず、悪びれる様子もない。そればかりか、一緒にいた娘婿の母親から嫌味を言われ、梶田さんは悔しい思いをしただけだった。それ以降、良好だった孫たちとの関係もギクシャクしていく。

 梶田さんは、「娘婿が孫たちに、自分のことを悪く言っているのだ」と推測。だから「施設に入るために保証人になってほしい」と頼んでも、拒否したのだと思った。

「これまで随分可愛がってあげたのに、保証人にさえなってくれないなんて。こんなひどい孫たちとはもう関わりたくない!」

 梶田さんは孫たちと縁を切る決意をした。

■身寄りのない人の生前整理

 生前整理診断士の大島さんと初めて会ったころの梶田さんは、全く笑わなかった。口から出る言葉は、「辛い」「悲しい」「ひどいことをされた」といったネガティブな言葉ばかり。心を閉ざし、毎日を泣きながら過ごしていた。

 大島さんは、梶田さんの話を丁寧に聞くことから始めた。突然早朝に梶田さんから電話がかかってくることもあったが、そのたびに何時間も耳を傾けた。こうしてヒアリングにかけた時間は、延べ50時間ほど。梶田さんは、大島さんに話すことで段々と明るさを取り戻していき、笑顔を見せたり、感謝を伝えてくれるようになっていったという。

「保証人がいない」という問題は、NPO団体が梶田さんの保証人になることで解決。梶田さんは、「身内は一人もいなくなったから」と、死後事務委任契約も同様に交わした。

 死後事務委任契約とは、人の死後発生する煩雑な事務手続きを、生前のうちに誰かへ委任しておくことができる制度のことだ。葬儀の主宰や役所での行政手続き、施設や病院代などの清算、クレジットカードの解約など、様々な事務手続きは、多くの場合、故人の家族や親族がおこなう。しかし身寄りがない人の場合は、その事務手続きをしてくれる人はいないため、このような契約を交わすのだ。「保証人」や「死後事務委任契約」といった相談は、基本的には身寄りのない“おひとりさま”からが多いが、「身内はいるが、遠方で頼れないから」というケースも少なくない。

 梶田さんは、施設に入所するときに必要な家電なども大島さんと一緒に買いに行き、いよいよ施設へ引っ越す当日には2人で鍋を作り、梶田さんの家を片付けるために集まった生前整理診断士たちとともに、「家の卒業式」もした。

 その後、思い出の詰まった家を出て、希望する施設に入居。梶田さんの新しい環境での生活が始まった。

■後悔のない最期

 無事に施設に入所できた梶田さんだが、自身が孫たちに会うことを頑なに拒み続けているため、このまま亡くなったら、親族が一人も来ない、寂しい葬儀で送られることになる。たった一度の喧嘩のせいで、梶田さんは孤独な最期を選んでしまった。

「梶田さんに何回か、『私がお孫さんに会いに行ってもいい?』と聞いたことがありましたが、了承してもらえませんでした。おそらく、自分の言い分とお孫さんたちの言い分が違うことを指摘されるのを恐れたのではないかと思います。梶田さんは自分の考えを否定されることを極端に嫌がる人で、いつも『私の考え、間違ってるかね?』とすがるように聞いてきました。自分を守る行動の一つだと思います」(大島さん)

 大島さんが梶田さんから聞いた話によると、孫たちの父方の祖父はすでに亡くなっていたが、祖母が介護施設に入った後、何度もトラブルを起こして施設を変わらざるを得なくなり、その度に娘婿や孫たちが対応していたという。

「梶田さんが心を開いて、お孫さんたちの話をちゃんと聞けていたら、縁を切らなくても済んだかもしれません」(大島さん)

 大島さんは、「気が変わったらいつでも連絡してね」と伝え、梶田さんの入居する施設と連携をとっている。

「私が梶田さんの娘だったら、自分の母親にそんな寂しい最期を迎えてほしくありません。私は、梶田さんの心が穏やかになり、また自分から孫に会いたいと思ってくれることを期待しながら、見守っています」

 生前整理は、物・心・情報(手続き関係)の整理だ。この3つをバランス良くおこなうことができないと、人生に後悔を遺してしまう。梶田さんは83歳と高齢だが、健康に恵まれ、希望の施設に入所することができた。しかし、自分の身の回りの物や手続きなどの生前整理はできたかもしれないが、心の整理はまだのようだ。

「当事者が望めば、生前整理診断士が中立の立場で家族の話し合いの場を作り、みんなの意見を取りまとめることで、家族が和解するケースはあります。いざ話し合いをしてみると、揉め事の原因は、実はそれぞれの勘違いだった…ということも珍しくありません」(大島さん)

 梶田さんが孫たちと和解して、後悔のない最期を迎えられることを願わずにはいられない。(取材・文/旦木瑞穂)

このニュースに関するつぶやき

  • 一番役に立たなかったのはなんか急に死んだ息子ですね
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  • 身内がいても遠方とか、付き合いが疎遠とか事情がある場合は第3者を頼るのも良いですね。
    • イイネ!11
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