『志村どうぶつ園』のプリンちゃんが危ない! 動物園で「強要的なショー」か

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2020年07月04日 18:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

志村けんさんとプリンちゃん(公式インスタグラムより)

 7月4日、志村けんさんがMCを務めていた動物番組『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)が9月いっぱいで終了することが発表された。10月からは、同番組で志村けんさんとともに司会を担っていた嵐の相葉雅紀(37)をMCに、新しい動物番組『I Loveみんなのどうぶつ園(仮題)』をスタートさせるという。

 16年半も続いた人気番組だけあって、形を変えながらも継続させる意向に温かいコメントが多く寄せられていた。しかし、そんな動物番組には“深刻な問題”があるようで──。

感動的な報道の背景にある危険性

プリン、再開心待ち 志村さんネタのショーも》(5月26日、熊本日日新聞)

志村さんに見せたかった…プリンちゃん縄跳び初披露》(6月5日、西日本新聞熊本版)

プリンちゃん、大縄跳び成功 志村けんさんからの最後の宿題》(6月6日、神戸新聞)

 5月末から6月初旬にかけて西日本の新聞社各社が、ある動物園のニュースを伝えている。新型コロナウイルスによる肺炎での志村けんさんの急逝から約3か月。生前、志村さんが可愛がっていたチンパンジーに関する報道だ。

 熊本県にある動物園『阿蘇カドリー・ドミニオン』は、コロナウイルスの影響で4月12日から5月末まで臨時休園していた。冒頭の報道は、同園が営業を再開させ、志村さんに可愛がられたチンパンジー『プリンちゃん』が、彼が提案したというショーでの“縄跳び”を披露したことを伝えるものだ。

 志村さんは自身がMCを務めていた番組『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)の企画で、'04年から『阿蘇カドリー・ドミニオン』に毎月のように訪れていた。番組でプリンちゃんやその父親である『パンくん』と共演するだけでなく、同園で行われるショーの内容についても提案をしていた。

 報道によると、このプリンちゃんの縄跳びは、志村さんの提案であり、“最期の宿題”だったという。

すごく上手に何十回と飛んでいて可愛らしかったです! 志村園長も空から見てくれていたんじゃないかなぁって

 そう話すのはショーを見た女性の1人。また、縄跳びの報道に対してネット上では《プリンちゃんの晴れ姿、見てほしかった…》《涙が出る》といった意見が多く見られた。

 志村さんとチンパンジーの間に生まれた絆は美しいものだ。しかし、この縄跳びや『阿蘇カドリー・ドミニオン』のプリンちゃんの扱いについて、ヒトとチンパンジーの比較研究を専門とする大阪成蹊大学教育学部准教授の松阪崇久さんは警鐘を鳴らす。

映像からみるプリンちゃんへの負担

プリンちゃんのショーでの縄跳び芸の映像を見ましたが、プリンちゃんはワンピースを着せられて、後ろ足2本で立っています。トレーナーである宮沢厚園長がプリンちゃんの手をつかみ、プリンちゃんの興味がそれて少しフラフラし始めると、手をビクンと引っ張って2足でまっすぐに立たせます。

 プリンちゃんもチンパンジーですから、普段は4足歩行ですが、ショーのときにはこのように“2足で立つ”ことを強要されるということです。これだけでも、ある程度の負担がかかった状態だと言えるでしょう

 営業再開後の縄跳びショーでは、プリンちゃんは大縄を20回ほど飛んでいる。

「当然ですが、野生のチンパンジーは縄跳びをしません。縄跳びも2本足でくり返し飛ぶことは不自然な行動です。プリンちゃんも自分から進んで縄跳びをやっているようには見えません。

 遊びで楽しんでやっているなら、“play face”と呼ばれる遊びのときの笑顔を見せてもおかしくありませんが、そういう表情は見られません。芸として調教され、やらされているだけだと言っていいでしょう」(松阪さん)

人間であれば、強要されるようなことがない限り、縄跳びは“遊び”だろう。

「人間の子どもなら、うまく跳べるように自らの意思でチャレンジし、成功したら達成感を得て笑顔も見せるでしょう。しかし、プリンちゃんはそのような楽しさを感じることができていないようです。縄跳びに成功しても、プリンちゃんはうれしそうな様子を見せません。

 プリンちゃんをまるで人間の子どものように思って見ている人もいるようですが、人間の子どもが縄跳びをするのとはまったく異なる状況であることに注意してほしいと思います」(松阪さん)

 冒頭にある西日本新聞熊本版の報道によると、プリンちゃんは《当初、あまり興味を示さなかったが、職員らが楽しそうに跳ぶ姿を見ているうち、跳べるようになった》そうだ。また《約50日間の休業中にみっちり練習してきた》という。

人間のように扱われるプリンちゃん

成長を促すためのチャレンジとして動物に芸を覚えさせるという発想に、強い違和感を覚えますそれは、プリンちゃん自身はそのような成長をまったく望んでいないと考えられるからです。芸をさせたいのは人間の側であって、プリンちゃんが自ら進んで芸を覚えたがっているわけではありません。

 未来のことを考えて、自分の意思でチャレンジして努力しているわけでもないでしょう。芸を覚えさせる人間側の視点に立てば、縄跳びの修得を“成長”と見なせるのかもしれませんが、プリンちゃん自身にとって、それがどのような意味を持つかを考えなければいけません。

 プリンちゃんは、何をしたら観客を笑わせたり喜ばせたりできるかを理解してやっているわけではありません。ただトレーナーに指示されるままにやっているだけでしょう。人間のように扱われているので、人間の子どもが舞台に出るのと同じような感じでプリンちゃんも“頑張っているのだ”と思う人がいるかもしれませんが、同じではありません。芸を修得してショーに出ることが、プリンちゃんにとって意味のある“成長”につながるとは思えません」(松阪さん、以下同)

 報道では記事のタイトルに《再開心待ち》《志村さんに見せたかった》という言葉が踊っている。しかし、記事の本文ではプリンちゃんが再開を心待ちにしていたような様子、また感情の描写についてはまったく書かれていない。

「通常の動物ショーやサーカスでは、動物たちは単に芸を教えられるだけで、それがその動物の“成長を促す”という視点が持たれることはあまりないのではないでしょうか。

 プリンちゃんの場合には、彼女を“擬人化”して扱っているために、そのような発想が持たれやすいのだと思います。そしてこれがさらに“成長のために頑張ったプリンちゃん”とか“志村さんのために頑張ったプリンちゃん”といった間違ったイメージにつながってしまうのだと考えられます」

 問題は強要的なショーへの出演だけではない。

絶滅危惧種のチンパンジーとして……

「チンパンジーは4歳ごろまでが乳児ですが、野生では乳児の間はずっと母親と一緒に過ごします。また、群れの中でさまざまな年齢の相手と遊んだり、子守りをしてもらったり、ときにはケンカをしたりします。このような経験をすることで、野生での生活を送るために必要な社会的スキルを身につけていきます。

 しかし、パンくんやプリンちゃんは、テレビや動物ショーに出るためにチンパンジー同士のコミュニケーションの機会が奪われてきました。そのためチンパンジーの集団で暮らしていくのに必要なスキルを修得できていないかもしれません

 たとえば、目上のチンパンジーへの“挨拶”である、身を低くして相手に近付きながら喘ぎ声を出す『パント・グラント』と呼ばれる行動がありますが、プリンちゃんたちはこれを修得できていない可能性があります。

 また、交尾や育児といった行動も今のままでは修得できないでしょう。繁殖・育児の妨げになるという点は、絶滅危惧種であるチンパンジーの保全という観点からも問題です

『阿蘇カドリー・ドミニオン』や『天才!志村どうぶつ園』のパンくんやプリンちゃんの扱いに対しては、類人猿の研究者や動物園関係者で構成されるSAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)などが、これまでにも批判の声明を何度も出している。

問題が解決せずに続いてきたのは、多くの視聴者や観衆が番組や動物園を支持してきたからでもあるでしょう。この先この問題を改善できるかどうかは、視聴者や観衆のみなさん次第という部分もあると思います。

 最近の『志村どうぶつ園』では、志村さんの後に園長を引き継いだ相葉雅紀さんが、プリンちゃんとオンラインで対面するという内容が放映されていました。プリンちゃんを引き続き番組で取り上げることへの視聴者の期待も高いようです。

 しかし、パンくんやプリンちゃんのことをかわいいと思うなら、好きだと思うなら、彼らの置かれている状況の深刻さについて、ここで考えてもらいたいのです。人間の娯楽のために、この先もチンパンジーを使い続けて本当にいいのでしょうか?」

プリンちゃんの縄跳びを指導する『阿蘇カドリー・ドミニオン』の宮沢厚園長の著書には、動物ショーは《動物にやさしくする心を育む》と書かれている。

逆です。動物へのひどい扱いに気付けなくなり、優しくする心が奪われてしまう。こういう動物ショーは、そういう意味でも人間にとって有害だと思います」(松阪さん)

 強要ともとれるプリンちゃんのショーへの出演や松阪さんの指摘について、『阿蘇カドリー・ドミニオン』に質問状を送ったが、期日までに返答はなかった。

 普段、私たちが好感を持って見ているアニマルショーも、動物たちが本当に自信と誇りを持ってパフォーマンスをしているのか、今一度考えないといけないのかもしれない――。

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  • この件のみでなく、動物を飼う人全般への普遍的な警句と言える。読むべき記事
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