家族との面会禁止はやむを得ないか 介護の質との間で揺れる高齢者施設

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2020年07月05日 09:00  AERA dot.

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写真「レジデンシャル百合ヶ丘」で面会中の70代の夫婦。夫は毎日のように訪れ、施設内の交流スペースでマッサージや屋外の散歩をして30分間を過ごす(撮影/写真部・掛 祥葉子)
「レジデンシャル百合ヶ丘」で面会中の70代の夫婦。夫は毎日のように訪れ、施設内の交流スペースでマッサージや屋外の散歩をして30分間を過ごす(撮影/写真部・掛 祥葉子)
 緊急事態宣言解除後も、介護施設での面会は「緊急の場合を除き、一時中止」とされている。感染予防か介護の質か──。重症化リスクの高い高齢者を前に、現場も家族も揺れている。AERA 2020年7月6日号から。

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「もう3カ月、父に会えていません。ここまでやる必要があるのでしょうか」

 兵庫県神戸市に住む女性(57)は嘆いた。今年2月から父親(87)が市内の介護老人保健施設に入居している。父親は軽度の認知症がある。週に1度は面会に訪れていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、3月半ばから面会禁止になったままだ。女性は「新しい生活様式」とソーシャルディスタンスの必要性も、頭では理解している。

「でも、会わない時間は、認知症が進んでいく時間でもあります。親子の間ではなんとか成立していた会話が、次に会った時もできるだろうか。気が気ではないし、納得いきません」

 国は5月25日に見直した基本的対処方針でも、介護施設での面会は「緊急の場合を除き一時中止」としている。ただし、強制力はなく、解除後は条件付きで面会を再開する施設もある。

 神奈川県の特別養護老人ホーム、レジデンシャル百合ヶ丘は、緊急事態宣言解除後は、面会場所を別途設ける、密にならないよう予約制で時間をずらすなど対策して、面会を実施している。施設長の高橋好美さんは言う。

「手洗いやうがいなど、基本的な感染症予防策を徹底し、施設内にウイルスを持ち込みさえしなければ、いたずらに恐れることはないと考えています」

 その上で、基本的な介護を専門職が引き受け、「家族と入居者との絆は断たないようにする」のが施設の役割だと話す。

「それを強制的に『切って』しまうのは、過剰対応だと思います。家族に会えないのはあまりにむごい。面会の権利まで奪うべきではない」

 感染対策か、介護の質か──。介護老人保健施設などを運営する医療法人財団「百葉の会」人材開発室部長で、介護アドバイザーの高口光子さんは、現場の介護職員がその狭間で悩み、揺れる場面も多いと言う。

 それは「施設で穏やかな最期を迎えたい」と高齢者本人も家族も気持ちが固まっているケースでも起こりうる。高齢者は尿路感染症などで発熱することも珍しくない。だが、家族や介護職員が「コロナかもしれない」という不安で動揺してしまう。

「もちろん、検査しないとわかりません。けれど、看取りケアの鉄則はむやみに『受診』『検査』『入院』をしないこと。病院に搬送され、人工呼吸器などを装着することになったら、穏やかな最期を迎えたいという希望が叶えられなくなってしまいます。だからこそ揺らぐべきではないのですが、現場はすごく悩む」

 現場の負担は悩みだけではない。感染対策で介護職員の負荷自体が増えている。AERAが行ったアンケートには、「マスクしながらの入浴介助が、暑さと息苦しさで一番つらい」との介護職員の声も寄せられた。

 高口さんは介護の本質は「一人ひとりの違う人生と生活を守る」ことにあり、「一度に」「全部」「完璧に」を求めないことだという。求めれば無理が生じ、目的を見失いやすくなる。入浴介助でのマスク着用も一例だ。

「無理をすれば、感染予防の前に職員が倒れてしまいます。そもそも入浴中はあまり話をしません。脱衣室で『おばあちゃん、下着ですよ』『服着せますよ』と声をかけなければならないこともありますが、そのときにマスクをつければいいのでは」

 前出のレジデンシャル百合ヶ丘では、入浴介助時はもちろん、施設内で職員にマスク着用義務はない。通勤時に使ったマスクは施設に着くと取り替える。

 高橋さんは言う。

「私も施設内ではマスクをつけません。施設内にウイルスを持ち込まず、きれいな状態に保っていれば、マスクはいらないはずですから」

 高橋さんは、「新しい生活様式」に気をとられ、ケアが無味乾燥になってしまうのでは、介護のあるべき姿を否定することになると言う。

「大切なのはその人のその人らしさ、個別性を重視したケアです。3密を気にしていたら、介護は成立しません。車椅子からベッドへの移乗介助も体を密着させなければできない。食事介助も横並びは無理なんです。飲み込んでいるかをよく確認して食べてもらわないと、誤嚥の危険があります」

 重症化リスクの高い高齢者たちを守るべく、現場は模索を続けている。新型コロナウイルスと闘う医療従事者に感謝と称賛が送られる一方で、介護従事者にあまり光は当たっていないように見える。だが、高口さんは、「その方がいいのかも」という。

「医療はまさかのけがや病気から命を守る『非日常との闘い』です。それに対して拍手をするのは、素晴らしいことだと思います。けれども、介護は、『いつもと変わらぬ日常を守り抜く』ことが使命です」

 手足が不自由になっても、認知症になって時間や場所がわからなくなっても、今まで通りの生活を続けること。食事や排泄や入浴、日常の営みを守ることに、注目も非日常的な称賛も必要ないのではないか。

「80年、90年と生きてきたお年寄りの『新しい生活様式』を決めるのは、お年寄り自身であるべきです」(高口さん)

 新型コロナウイルスの感染対策も、彼らの日常を守るためにこそ行うべきで、本末転倒してはならない。その思いを強くしたという。(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2020年7月6日号

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  • 感染者でもない家族を面会させない理由は全く無い。まして施設内でマスク着用を強制しないのは当然のこと。なぜこんな当たり前のことが解らないバカがいるのかwww
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