有吉・マツコ・山里… 今の時代に“毒舌芸”はあり?なし?

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2020年07月05日 13:00  AERA dot.

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写真左上から時計回りに、ビートたけし、有吉弘行、マツコ・デラックス、山里亮太。写真はすべて(C)朝日新聞社
左上から時計回りに、ビートたけし、有吉弘行、マツコ・デラックス、山里亮太。写真はすべて(C)朝日新聞社
 5月23日、恋愛リアリティー番組「テラスハウス」(フジテレビ系、Netflix配信)に出演していた木村花さん(享年22)が自ら命を絶った。原因は明らかになっていないが、生前、彼女のSNSに誹謗中傷が集まっていたことから、同番組の制作手法や演出に対する非難の声が続出した。さらにその矛先は同番組のスタジオメンバーにも向けられた。矢面に立たされたのは芸人で南海キャンディーズの山里亮太(43)だ。TVウォッチャーの中村裕一さんはこう話す。

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「テラスハウスの住人はいわゆる“リア充”な人たち。スタジオメンバーの山里さんは、“非モテ”の代表として毒舌でときに彼らを批判し、視聴者の思いを代弁する役割をしていました。山里さんはその期待通りに“役”を演じていたに過ぎませんが、一部の視聴者は山里さんのいわゆる“毒舌芸”が木村さんを傷つけたと主張しているのです」

 そもそも毒舌芸とはなにか。辞書を引くと、「毒舌」とは「辛辣 (しんらつ) な悪口や皮肉を言うこと」とある。一方で「芸」で調べると、「学問や武術・伝統芸能などの、修練によって身につけた特別の技能・技術」(いずれもデジタル大辞泉より)と記されている。単純に二つの言葉を合わせると「悪口を言う特別な技術」ということになる。だが、毒舌芸の名手として知られる有吉弘行(46)やマツコ・デラックス(47)らは、辛辣なコメントで相手を批判するが、最終的には笑いを取ってその場を収める。どうやら「笑い」があるかどうかに「毒舌芸」を知るヒントがありそうだ。

 毒舌芸で知られた立川談志の弟子であり、落語家の最高位「真打」である立川談四楼さん(69)に解説してもらおう。

「周りがなかなか言えない本音や不満を、問題にならないギリギリのラインで吐くというのが毒舌芸の本領。そこには『よくぞ言ってくれた!』という共感の笑いが生まれます。談志は生前、『本当の毒舌を吐いたらテレビ番組なんか一発で降ろされるぞ』と話していました。それだけリスクが大きいからこそ、毒舌が『芸』と呼べるレベルにまで鍛錬されていないと非難される。素人が真似しても、しらけたり、周りから嫌われるだけです」

 その毒舌芸には、これまで数々の先人たちが引き継いできた歴史があるという。1960年代以降では、上から目線の高慢な態度で「バカヤロー」とたびたび毒を吐いた大橋巨泉が有名だ。80年代には、過激な毒舌漫才で絶大な支持を集めたビートたけしも象徴的な存在だろう。最近では、毒を含んだ「あだ名芸」で再ブレークした有吉や、ケンカを止めに入った人に対して痛い一言を突き付けて笑いをとるお笑いコンビ「鬼越トマホーク」も毒舌の“新興勢力”として台頭してきている。

 彼らは先輩や権威ある立場の人などにも構わず毒を吐く。強い者に歯向かうことは危険な行為であり、だからこそ、そこに面白さが生まれるのだろう。

「毒舌芸はもともとは権力や権威、強いものを風刺して、庶民の不満を笑いに変えるものだったと思います。いわば庶民の“ガス抜き”だったわけです」(談四楼さん)

 これは落語にも通じる部分がある。例えば落語の演目「目黒のさんま」だ。

 ある殿様が立ち寄った目黒で、焼いたさんまを食べる。普段は食すことのないさんまに魅了され、殿様は後日、食卓にさんまを出すよう家来に命じる。家来たちは「脂が身体に障る」と考え、さんまを蒸して脂を抜いた。さらに、「小骨が喉に刺さってはまずい」と考え、骨を全部取りだす。殿様は「まずい」と驚き、仕入れ先を聞くと、家来は「日本橋魚河岸」と答える。これに殿様が、「さんまは目黒に限る」と言った、という噺だ。

 無造作にさんまを焼けば美味だが、丁寧に調理したことでかえって味が悪くなったという滑稽さを描いている。締めの「さんまは目黒に限る」というのは、海のない目黒で捕った魚が美味だと断言する殿様が“いかに無知か”を揶揄したものだ。

「落語は直接的な毒舌は吐きませんが、権力者が滑稽な姿で描かれている。つまり遠回しに権力をからかって笑いものにしているのです」(談四楼さん)

 今も昔も、人々のガス抜きの役割を担ってきた毒舌芸だが、そこには「毒を吐かれた相手すら救われる」という芸の境地がある。談四楼さんは続ける。

「毒舌芸を披露する彼らは、現場をピリつかせないように“中和”させるテクニックを持っている。例えば有吉はすごくニコニコしながら辛辣なことを言う。マツコは素人にも厳しいことを言ったりするけど、『お前気に入った!』とか、『これやるよ!』などといって最終的には相手を可愛がる素振りを見せる。だから現場が静まり返るどころか、むしろ笑いが起きる。言われた相手もおいしい思いができる。山里もきついことを言ったりするわりに、ビビリなキャラを演じて弱い部分をあえて見せる。それらはすべて芸であり、芸とは『演じる』ということでもあるのです」

 では、“毒を吐かれる側”はどう考えていたのだろう。2012年にテラスハウスに出演していた「ちゃんもも◎」(出演時は竹内桃子)は、『木村花さん出演の「テラスハウス」 元出演者が“やらせ疑惑”について実名告白』(5月29日配信)でのAERA dot.のインタビューに対し、スタジオメンバーの毒舌芸に理解を示している。

「スタジオメンバーのYOUさんや山里亮太さんの存在が、人間のリアルな感情や愚かさを、愛嬌のある『笑い』に変換していたと思います。出演者が視聴者から本気で恨まれないように」

 しかし、こうした毒舌芸には、常に否定的な意見がついてまわるのも事実だ。いじめ問題について研究している明治大学の内藤朝雄准教授は、「決して許されない」と、毒舌芸を真っ向から否定する。

「テレビに出ている芸能人は労働者であり、彼らには人権がある。例えば『外国人だから暴力をふるってよい』なんてことが許されるわけがないですよね。『テレビだから』という理由で『毒舌芸』と称して侮辱や罵倒することは決して許されない。メディアがそれをエンターテインメントとして扱えば、それが許容されるものとして社会に浸透します。この罪は大きい」

 視聴者の怒りや不満を代弁し、それを笑いに変える毒舌芸。それを実行する芸人たちは、さまざまなリスクにさらされている。

 まして昨今はコンプライアンスが叫ばれる時代。毒舌芸には、さらに難しいかじ取りが求められている。談四楼さんは言う。

「どんな番組でも、大まかな台本はある。毒舌芸も、役割を演じているにすぎません。毒舌芸を観る側にもその本質を見極める力が求められている。出演者がみんなこびへつらっていたって面白くない。こんな時代だからこそ、私たちは『本音』を代弁してくれる毒舌芸を求めているんです」

 毒舌芸には負の部分があることは否めない。だが、多くの人が毒舌芸に魅了されてきたことも事実だ。そしてそれらの芸がテレビから消えることは、想像しがたい。となると、これからの時代、私たち視聴者側には毒舌芸の本質を見極める力が求められるのではないだろうか。(AERAdot.編集部/井上啓太)

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