かつては新聞報道された名曲も 音楽で楽しむ鉄道

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2020年07月05日 17:00  AERA dot.

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写真くるり「赤い電車」で歌われる京浜急行の列車(C)朝日新聞社
くるり「赤い電車」で歌われる京浜急行の列車(C)朝日新聞社
 鉄道を題材としたり歌詞に鉄道が登場する音楽は、意外と多い。わが国では「鉄道唱歌」がその代表格といったところだが、ポップスやクラシックなどジャンルを問わず広く知られている名曲も多数。ときには音楽を通じて鉄道の世界に浸ってみるのも面白いのではないだろうか。

【写真】懐かしい?「あずさ2号」はこちらから

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■原点は電車ごっこの「ガタンゴトン」?

 鉄道趣味の1ジャンルに“音鉄”がある。列車の走行音や車内放送などを収集したりて楽しんでいる人は意外と多い。私自身でいえば、寝台列車の車内放送を録音し、寝つけない夜などに枕元で再生したこともある。いま思えばマニア的なことをしていたものだと思うが、凝る凝らないは別として、列車の奏でる線路の響きは無意識のうちに心身に刻み込まれているような気もする。

 そんな鉄道の心地よい音を表現した楽曲がある。たとえば、クレイジーケンバンドの「路面電車」では、そのものズバリに電車の線路の「ガタンゴトン」が歌われている。幼少のころ遊んだ「電車ごっこ」でもそんなリズムが歌われたものだったが、言い換えると、鉄道の象徴のひとつとして、あの「ガタンゴトン」という線路のリズムがあるようにも思える。

 ところが、気がついてみると感じ慣れたはすの轍リズムと出会う機会が少なくなってしまった。言うまでもなく、線路の継ぎ目のないロングレール化の進展とともに轍のリズムが大きく変わったからだ。

 私の場合、思い出と重なる鉄道の音は、貨物列車のリズムだろうか。遠くから機関車の重低音が響き近づいてくる。やがて電車とは異なる細かいリズムが大音響で奏でられる。1980年代まではワム80000形貨車に代表される二軸車が独自のリズムを鳴らしていたのだが、1両に台車が2つ付くボギー台車が主流となった今日ではなかなか出会えなくなってしまった。

■古くは「あずさ2号」などヒット曲に登場してきた鉄道

 話を音楽に戻すと、狩人の「あずさ2号」や石川さゆりの「津軽海峡冬景色」も鉄道や鉄道の旅とは切っても切り離せない情緒で満ちた名作。狩人はほかに「磐越西線」を2006年にリリース、水森かおりが歌う「五能線」は鉄道好きなら思わず聞いてみたくなる曲といえそうだ。

 童謡では、「鉄道唱歌」のほか新幹線を歌った「はしれちょうとっきゅう」などが広く知られている。「鉄道唱歌」は国鉄時代の車内放送に用いられており、子どものころの記憶とともに思い出されることもあるが、いまの子どもたちにとっては2012年にリリースされた「新幹線でゴー!ゴ・ゴー!」などが馴染み深いだろう。

■クラシックには当時新聞報道された名曲も

 クラシック音楽にも鉄道と結びついた作品がいくつもある。

 鉄道と音楽──「知らない曲がたくさんあるのだろう」とネット上を検索してみた。すると、Wikipedia(英語版)にズバリ「List of train songs」という項目があり、数える気が失せるほど膨大な楽曲が挙げられていた。

 英語版だけに残念ながら、先に挙げた「路面電車」や京急の品川駅で発車メロディに使われているくるりの「赤い電車」などの人気作や「鉄道唱歌」は含まれておらず、クラシックの楽曲も別のカテゴリーとされているようだ。

 クラシック音楽にも鉄道と結びついた作品がいくつもある。

 この分野でもっとも著名なのは、オネゲル(Arthur Honegger)が1923年に発表した「パシフィック231」であろう。作曲家の柴田南雄(しばたみなお)氏の「ドラフトのリズム」(「旅と鉄道No.21 76年秋の号」鉄道ジャーナル社に所収)によれば、当時の日本の新聞に「機関車の音楽完成さる、作曲者はオネガー氏」との大見出しつきで紹介されたという。

 柴田氏の同じエッセイによれば、その新聞記事では「私は機関車にいつも情熱(パッション)を抱いている。(中略)曲は客観的な瞑想状態──つま<ママ=柴田氏>休止している機関車の静かな息づかいから始まる。スタートの緊張、スピードをしだいに増していき、そしてついに夜のしじまに分速1マイルの轟音を響かせながら突進する(後略)」と作曲者オネゲルのコメントを紹介しており、たしかに曲の構造とも合致する。

 譜例はこの曲の12〜30小節を大譜表に置き換えたものだが、低音部のリズムが全音符→付点2分音符→2分音符→2分3連符→4分音符と次第に細かな動きになってゆくのは、低音の響きもあって、蒸気機関車が動き出す躍動を見事に捉えているように思える。

 一方で、オネゲル自身の著作『わたしは作曲家である』(吉田秀和訳・創元社/1953年)には、次の記述がある。

【実際ひとはそういってますね(筆者注:機関車の発車から全速力での疾走を思い浮かべさせようとオネゲルが意図したということ)、ですがわたしの意図はそこにはなかつたのですよ。(中略)わたしはあのパシフィックの中で、極めて抽象的な観念的な楽想を追求してみたのです。(中略) わたしは始めあの曲を≪音楽的運動≫と呼んだのです(中略)。それから考え直してみて、それじゃ少し味も素気もなさすぎると思つた。突然、ロマンチックな考えが頭に浮かんだので、わたしは作曲を終えてから、あの題をかきつけたのです。】

 表題の「パシフィック231」とは、前方から4−6−2の車輪配置(軸配置2−c−1)を持つ蒸気機関車を指し、米国の分類で「パシフィック(Pacific)」と呼ばれているものだ。つまり「パシフィック231」という形式の機関車があるわけではないが、車輪配置というメカニックに着目したタイトルは、オネゲル自身が機関車に愛着を抱いていたことの証明なのではないかという気もする。2c1の軸配置は、日本ではC51形からC59形まで数多くの旅客用蒸気機関車で採用され、貨物用の1D1と並んで最も馴染み深い軸配置のひとつ。今も2両が走るC57形もこの軸配置だ。C57形の走行音と「パシフィック231」を聴き比べてみるのも一興だろう。

 オネゲルには、ほかにピアノ曲「観光列車(Scenic−Railway)」があるが、同じフランスの作曲家・イベール(Jacques Ibert)の「交響組曲パリ」の第1曲目「メトロ」もオススメしたい1曲。「パシフィック231」とはまたひと味違う鉄道の疾走感を体感できるに違いない。(文・植村誠)

植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。

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  • フィリップ・スパークの「オリエント急行」もいい。日本では「鬼のパンツ」で有名な「フニクリフニクラ」も元々は伊ベスビオ山のケーブルカーの宣伝のために作られた曲で、世界最古のCM曲とも言われてるらしい。
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  • フィリップ・スパークの「オリエント急行」もいい。日本では「鬼のパンツ」で有名な「フニクリフニクラ」も元々は伊ベスビオ山のケーブルカーの宣伝のために作られた曲で、世界最古のCM曲とも言われてるらしい。
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