「コロナで死なない」は人生の目的ではない 和田秀樹さんが語る「新しい生活様式」への違和感

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2020年07月05日 17:00  AERA dot.

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写真精神科医/和田秀樹さん (写真:本人提供)
精神科医/和田秀樹さん (写真:本人提供)
 新型コロナウイルス感染拡大以降、私たちの生活は大きく変わった。感染防止に努めるあまり、自由や幸福の追求など人として大切のものを失いつつある恐れもある。AERA 2020年7月6日号から。

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 どんな場面でどう振る舞うのが、感染リスクを抑える上で合理的なのか。緊急事態宣言解除後、「新しい生活様式」についてAERAがアンケートを行ったところ、知りたいことだけではなく、怒りや疑念の声も多く集まった。

「自分や友だちがウイルスにしか思えなくなる変な感覚、人間嫌いになりそう!」(沖縄、41歳女性、専業主婦)
「この生活様式は永遠に続くのか、何かのきっかけで負担が減るのか。ゴールが見えない」(東京、42歳女性、会社員)

 大切な人を守るため、感染拡大を防ぐためといわれれば致し方ない気もするが、実は私たちは失っているものも大きいのではないか。

 精神科医の和田秀樹さんは問題を提起する。

「人間の心がまったく無視されています」

 その象徴こそ、新しい生活様式の基本にある、人との距離を2メートル保つ「ソーシャルディスタンス」だという。

「大切な人と心の距離を近づけたいとき、互いに触れ合える距離で身振りや表情を見ながらコミュニケーションすることは大切です。ソーシャルディスタンスは、人と心を通わせる喜びを失わせます」

 映画、音楽など芸術分野は、自粛要請が続き縮小傾向にある。不安から映画館や劇場に足を運ぶ人は減り、入場人員にも制限がかかる。新しい生活様式が1年、2年と続けば、それが普通になる恐れもある。

「撮影中止で食べていけなくなり、優秀なスタッフが辞める例もある。映画や演劇を観ない生活が当たり前になれば、文化が細ることにもつながりかねません」

 和田さんが何より違和感を覚えるのは、「自由」よりも「コロナで死なないこと」が最優先される社会の風潮だ。

「人間はある恐怖を味わうと、『どんな手段を使っても逃れたい』という気持ちが働きやすい。ただ、人が生きるのは『幸福に生きる』ため。『新しい生活様式』という『コロナで死なない』ための手段がそれにすり替わり、本来の目的である幸福の追求がないがしろにされています」

 医療人類学者の磯野真穂さんも、違和感をこう語る。

「人間は本来、他者と交流して生きる存在です。新しい生活様式はその真逆。確かに、感染はしなくなるかもしれない。でも、交流することを手放し、それで『生きている』と言えるのでしょうか」

 緊急事態宣言が明けて約1カ月。多くの人は、どこへ行くにもマスクを着用して手指消毒を励行し、新しい生活様式を戸惑いながらも受け入れているように見える。

 磯野さんは背景に、インパクトのある情報だけが強調される問題があると指摘する。

「『対策を講じない場合は42万人が死亡』など、専門家が提示するショッキングな数字が音声と映像で演出されることで、心に恐怖が植え付けられた。それにより、私たちの社会は大きく変わりました。これまで長い時間をかけて培ってきた生活の在り方を、あっさりと諦めつつあります」

 本来、一人ひとりの生活には多様性があり、一律に論じることはできないはずだ。しかし、感染の恐怖がクローズアップされ続ける中で、私たちはいつの間にかゼロリスクを目指すことが至上命題になってしまった。

「人間は老いやがて死んでいく存在であることを、多くの人が直視できなくなっているように思います」

 磯野さんは、いま必要なのは、リスク管理と私たちが手放しつつある「ふだんの生活」との間の「中間の議論」を可能にすることだという。

「一律に専門家の言う通りにするだけでは、決して中間の議論にはなりません。たとえば、居酒屋がどう続けていくかは、現場で働く人が持つ知恵も生かして考えていく。それが中間の議論です」

 その物差しとなるものを、ゼロか100かという過剰な尺度とは異なる、「やわらかい」気づかいと表現する。

「『どんなときでもマスクをつけろ』ではなく、感染リスクの高い高齢者と話すときや、相手との距離が近いときにはつけ、そうではないときは外してみる。そうした『やわらかい』リスクヘッジが求められていると思います」

(編集部・石臥薫子、小長光哲郎)

※AERA 2020年7月6日号

このニュースに関するつぶやき

  • しかし…「コロナ以前」のスシ詰め状態の通勤・通学電車やバス…あの身動きも取れず痴漢冤罪も生み出す異様な状態(常態)…あれに戻りたいとは誰も思うまい。違うか?
    • イイネ!8
    • コメント 0件
  • 自分が死なないため、じゃなくて、他人にうつさないため、他人を死なせないために対策してるはずなんだけど。
    • イイネ!128
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