エアドッジボールにノータッチ鬼ごっこ 消毒に授業準備の時間奪われ…教育現場の疑問

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2020年07月05日 17:00  AERA dot.

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写真学校再開にあたり、教育現場は感染予防に細心の注意を払っている。6月1日、埼玉県の小学校の教室では机に飛沫拡散防止スクリーンが置かれ、先生はフェースシールドを着用した (c)朝日新聞社
学校再開にあたり、教育現場は感染予防に細心の注意を払っている。6月1日、埼玉県の小学校の教室では机に飛沫拡散防止スクリーンが置かれ、先生はフェースシールドを着用した (c)朝日新聞社
 学校再開が全国で本格化して約1カ月。「感染予防策の徹底」のため、 子どもたちに「しゃべるな、くっつくな」と言い続けることに、 現場の教師から疑問の声が上がっている。AERA 2020年7月6日号から。

【チェック】マスク生活で陥りがち!気を付けたい12項目はこちら

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 6月半ば、翌週から再開される全員登校を前に、東京都江東区の公立小学校の男性教師(38)はため息をついた。

「密を避けろは、もう無理です」

 6月1日から始まった午前と午後に分かれての分散登校では、机を離し、児童がジグザグに座ることで、かろうじてソーシャルディスタンスを保った。だが、全員登校になれば距離を保つのは至難の業。昼休みも悩ましい。

「自席に座って静かに読書するか、一人でできることをするよう指導しろと言われていますが、どこまで厳しくすればいいのか」

 学校再開後、職員は消毒作業に追われる。階段の手すり、窓、床、ノブ、机、フック、椅子、ロッカーの棚、理科で使う虫眼鏡、体育でのボール、鉄棒、雲梯(うんてい)、一輪車、図書館の本……。

「本当にどこまで必要なんでしょうか」

 都内の小学校の女性教師(30)は疑問を呈する。自身も授業が終わると同時に、消毒スプレーを手に1時間かけて教室中を拭いて回る。毎回きちんと消毒したかチェックリストの記入・提出も求められる。感染防止の分厚いマニュアルは日々更新され、項目が加わっていく。

「児童の汗でぬれたマスクは直接ごみ箱に入れずポリ袋に入れてからとか、使ったティッシュはふたつきバケツに教員が手袋をして入れろ、給食は最初に全部つぎ分け、おかわり禁止とか、細かくなる一方です」

 女性の学校では、感染を恐れて子どもを登校させない家庭に、教師がその日配布したプリントを持参する。従来は近所の子に頼んでいたが、このご時世、もしも感染が起こると責任問題になるからだ。ただし、感染を極度に恐れる家庭なので、直接渡さず郵便受けに入れるだけ。会えないので児童の様子は電話で確認するが、これも何時に何回かけたか「報告」が求められる。

「本当は消毒やプリントの持参、報告に費やす時間を授業準備に充てたいんです」(女性教師)

 いまは休校中の遅れを取り戻すため、1日7時間授業で土曜日も授業がある。今年度からの新学習指導要領に合わせ教材も作り直さなくてはならない。自宅学習でペースが乱れてしまった子のために、個別の補助教材も作ってあげたい。

 だが、朝6時半から夜9時半まで働いても、感染対策の雑事に追われ、とても時間が足りない。女性を含め校内のほとんどの教員が土日も出勤している。

「仕事量は倍増しました。終わりが見えないし、もはやどこまで耐えられるかという感じ。でも一番つらいのは、自分が納得できていないことを児童に指導しなくてはならないことです」

 海外からの帰国児童に「校庭で遊ぶのにマスクの意味ある?」と聞かれ、答えに窮(きゅう)した。

「先生もそう思う。でも、『どんな時もマスク』が暗黙の了解で、みんな従うのが日本なんだよね」

 合理性より同調圧力。それを仕方のないことだと説明する自分に矛盾を感じた。

 神奈川県の私立小学校に勤務する女性教師(45)は、いまの学校の対応は「感染者が出た場合に、ここまでやってましたとエクスキューズするためのポーズでしかない」と憤る。女性の学校は私立なので、何かあった時に受験者が減ることを心配しているのではと感じている。

 1クラスは約20人。普段から教室には十分な余裕もあるのに、分散登校を続ける。

「しかも子どもたちには、『しゃべるな、くっつくな』と指導しろと。子どもたちはいじらしく、タッチしない鬼ごっこや、ボールを投げたフリ、当たったフリをするエアドッジボールなどをしています。私は感染のリスクより、子どもたちのストレスのほうが気になります」

 2メートル以上の距離を取り、マスクをしているので、互いの声が聞き取りにくい。新指導要領の目玉は「主体的・対話的な深い学び」のはずなのに、対話は禁止。黙って教師の話を聞く一斉授業に逆戻りした。朝の会で一曲歌うだけで子どもたちは気持ちが晴れやかになるのに、歌は禁止。マスクをしていれば、歌ってもいいのではないか──。日々悶々(もんもん)とする。

 同じ学校には、北九州市の小学校でのクラスター発生のニュースに戦々恐々とし、念入りな安全策を主張する教師もいる。管理職の判断はリスクゼロを目指す方向に流れがちだ。

 安全を徹底するあまりに教育の質が低下していると危惧する声は、高校の現場からも上がる。

「理科実験がまともにできない」

 静岡県の公立高校勤務の女性教師(52)はそう嘆く。これまでは2人1組で行っていたが、グループワークが禁止された。1人ずつ実験をするには器具が足りない。

「教師がやるのを見せるしかないのですが、密になるので集まってはダメだと。それでは後ろの生徒は実験の手元が見えません。スマホで撮影した映像をプロジェクターにつないで見せていますが、こんなことをいつまで続けるんでしょう」

 現実の学校生活に「新しい生活様式」の何をどこまで取り入れるべきか。長野県の佐久総合病院佐久医療センター小児科医長の坂本昌彦医師は、休校休園でストレスを経験した子どもたちの回復に必要なのは、「日常を取り戻すこと」だと言う。

「大人にとっては仕事、子どもにとっては学校、乳幼児には遊びです。世界的に子どもの感染は少なく、子ども同士の感染もまれであるとわかっています。それを踏まえ、新しい生活様式を忠実に守って得られるメリットと生じるデメリットを冷静に比較し、負荷が大きすぎるものは見直していく必要があります」

 教育方法学が専門の石井英真(てるまさ)・京都大学准教授も、学校生活が無味乾燥になり、子どもの意欲が失われることを懸念する。

「行事や部活の大会なども中止になり、多くの子どもたちはモヤモヤを抱えています。制限だらけで笑いさえ自粛している子もいる。だからこそ、一方的な授業ではなく、子ども同士のつながりを作り、心の温度を上げる工夫、新しい挑戦が必要です。教師がそこに注力するためにも、消毒などの周辺業務を外注する予算措置や、地域・保護者の応援が急務です」

(編集部・石臥薫子)

※AERA 2020年7月6日号

このニュースに関するつぶやき

  • ノートPCとネット環境を貸し出ししてオンライン授業に切り替えるしかないでしょ。ウェブカメラ必須で。
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  • せめて消毒要員は市が雇いましょうよ。教師が出来る内容なら専門知識がいる仕事じゃないはずです。職を失った人の救済も含めてやる価値はあると思います(;・ω・)
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