鍵山優真らを担当。気鋭の振付師が語る「私を導いてくれたプログラム」

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2020年07月06日 11:31  webスポルティーバ

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 フィギュアスケートファンなら誰もがあるお気に入りのプログラム。ときにはそれが人生を変えることも――そんな素敵なプログラムを、「この人」が教えてくれた。

私が愛したプログラム(5)
佐藤操
『ボレロ』ジェーン・トービル&クリストファー・ディーン

 私が最初に感動したプログラムは『ボレロ』です。ジェーン・トービル&クリストファー・ディーン組というイギリスのアイスダンスチャンピオン(1984年サラエボ五輪金メダリスト)のカップルが、五輪でフィギュアスケート史上初めて、9人のジャッジ全員から芸術点で6.0満点のパーフェクト評価を受けたすばらしいプログラムです。

 2019−20シーズン、事情があって私は鍵山優真選手のコーチ役を務めました。銅メダルを獲得した四大陸選手権をはじめ、さまざまな試合に同行したのですが、「自分はコーチじゃなくて振付師なんだ」と思うことがありました。

 本来、コーチであれば鍵山選手につきっきりになるべきですが、他の選手がすばらしいプログラムを演技していると、私はそれが見たくなってしまうんです。いま、振付師として活動している私にとって、この『ボレロ』は「振付師になってみたい」と思わせ、導いてくれた原点のプログラムでもあります。

 このプログラムは、内容のすばらしさもさることながら、「この振付を誰が考えたんだろう。こんなに面白い振り付けで、この音でこの表現の形を作るなんて」と思わせるような、これまで見たことがない振り付けでした。

 プログラムは、世界チャンピオンとなり、五輪金メダリストともなったトービルとディーン、2人で作り上げていたそうです。もちろん、先生(コーチ)たちの力もあると思います。プログラムというのは、自分で思っている以上に、プロの目や踊りの専門家の目などを通して、たくさんのフィルターにかけて最終的に作り上げていくものですから。

 それでも、男性のディーンが主にプログラム作りで発想役だったようです。「こういう動きができたらスケートを滑る上ですばらしいんじゃないか」と、アイデアを中心として出していたと言います。選曲を『ボレロ』にしたのも自分たちだったそうです。

 その話を聞いて、「これはやっぱり面白い作業だな」と思いました。私がプログラムを振り付けるという行為にグッと惹かれることになったのは、たぶんこの『ボレロ』というプログラムを作ったディーンの影響が大きいと思います。

 このカップルの演技を最初に見た時のプログラムは『サーカス』でした。

『ボレロ』の前年の1983年に滑っていたプログラムで、水色のラインリボンがついていた白いコスチュームを着ていたと思います。振り付けがとってもユニークで、とってもハッピーなプログラムでした。私はそれを生で見ています。

 当時、私はアイスダンスをすでに始めていましたが、前に進む、後ろに進むくらいのヨチヨチ程度の感じでした。けれども、こんなに面白い競技ならやめられないなと思いましたし、アイスダンスがすごく好きになりました。

 この時期、トービル&ディーン組は無敵のチャンピオンでした。彼らを追っていたのが、2番手のナタリア・ベステミアノワ&アンドレイ・ブーキン組と3番手のマリア・クリモワ&セルゲイ・ポノマレンコ組。ロシア(当時はソ連)のカップルでしたが、その2組のプログラムも本当にすばらしかったです。

 昔なので、ビデオを何度も見て、勉強しました。あまりにも楽しくて、テープがすり切れるほど繰り返し見ましたし、その作業はいまでも私の財産となっています。

 楽しいものやすばらしいものは強烈な刺激になりました。ただのひとりのファンとして「本当に面白かった。もう1回見よう。この時の顔が素敵だな」と思いながら見ていたのを覚えています。

 当たり前ですが、この3組の能力の差は、当時の私にはわからなかったです。

 抜きん出たフットワークを有し、トータルバランスがいいと言われていたトービル&ディーン組に対して、ベステミアノワ&ブーキン組はその真逆で、強烈にアクのある演技で、スタイルが抜群にいいカップルでした。

 私の目にはスピードは同じに見えるわけですが、なぜか点数に差がつく。トービル&ディーン組が好きですけれど、何が悪くて点差が開いているのかが、わからなかったものです。ただしその後、ベステミアノワ&ブーキン組はカルガリー五輪で金メダルに輝くことになります。

 また、もう一組のクリモワ&ポノマレンコ組は清楚で可憐な演技を見せるカップルで、どう形容していいかわからないぐらい美しかったです。

 当時の私は、この3組が滑っている演技を見たら、眠れなくなるくらいでした(笑)。中学生だった私にとって、あの時代のアイスダンスはずっと、プログラムを見るだけで面白いものでした。そして、「いつか私はこういう振り付けをやってみたいな」と思うようになり、憧れるようになりました。

その後も、世界のフィギュアスケート界では『ボレロ』の曲を使ったプログラムを滑った選手が何人かいましたが、私にとってプログラムとして『ボレロ』といえば、やっぱり一番、最初に好きになったトービル&ディーン組のあの演技しか浮かばないです。それほど強烈な印象を残したプログラムでした。

佐藤操(さとう・みさお)
1970年10月18日、東京都生まれ。アイスダンスの選手として1992年、93年全日本選手権3位に。その後、コーチ、振付師として活動。振付師としては友野一希、田中刑事、島田高志郎、鍵山優真、佐藤駿らを担当。

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