水害に「今まで大丈夫だった」は通用しない 埼玉、東京、福岡…浸水リスクが高い自治体

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2020年07月07日 11:30  AERA dot.

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写真4日、熊本県球磨村。増水で崩れた鉄橋と浸水した住宅地(c)朝日新聞社
4日、熊本県球磨村。増水で崩れた鉄橋と浸水した住宅地(c)朝日新聞社
 記録的な豪雨に見舞われた九州南部。熊本県では球磨川など河川の氾濫や土砂崩れが相次いだ。毎年のように起きる予測不可能な記録的豪雨。もはや水害はどこで起きても不思議ではない。それでも注意すべき危険性が高い場所は存在する。過去の事例からも裏付けられるその特徴とは。AERA 2020年7月13日号では「水害」と「地震」を徹底調査。その中から、ここでは集中豪雨と水害について解説する。

【記録的な豪雨で1メートル以上浸水する世帯数比率が高い35の自治体はこちら】

*  *  *
 福岡県久留米市。市防災対策課職員は緊張した声で振り返る。

「市内各所で道路が冠水し、林道で倒木があり通行止めになりました。かなり集中して降ったので、すごい雨でした」

 6月27日朝、活発化した梅雨前線の影響で、九州各地を記録的な大雨が襲った。なかでも久留米市は、午前8時3分までの1時間に92.5ミリの猛烈な雨に見舞われ、観測史上1位の雨量になった。一夜明け雨はやんだが、この職員は引き続き雨への警戒を緩められないと話す。

 災害は地震だけではない。毎年のように大雨による水害が各地で牙をむく。もはや「記録的豪雨」はいつどこで起きてもおかしくない状況になった。

 水害に弱い地域はどこなのか。

「今や特定の場所が危ないとは言えなくなっています。逆に、今まで大丈夫だったからこれからも安心とは言えず、どこで被害が起きてもおかしくない状況になっています」

 と警鐘を鳴らすのは、地域防災に詳しい山梨大学の秦(はだ)康範准教授だ。

■大都市多くに浸水想定

 日本には3万5千本近い河川があるが、主に国が管理する1級河川は100〜150年に一度、都道府県が管理する2級河川は50年に一度の雨を想定しダムや堤防などを整備している。つまり、これまでの雨の降り方であれば、災害を防ぐことはできた。だが近年、雨の降り方は変わり、いつどこで大雨が降るかわからず水害が起きやすくなったと指摘する。

「しかも日本の河川は急流で、一気に海へ流れるのが特徴です。河川の流域や下流部は、河川が運んだ砂礫(されき)や泥で形成された平野が広がり地盤は軟弱。氾濫によって水害が起きやすい地形に、人口の大部分が集まっているのです」(秦准教授)

 秦准教授が調べた「市町村浸水人口」(2015年)のなかから、大雨により1メートル以上浸水する世帯数などを自治体ごとに並べた。

 秦准教授のこの調査は、国土交通省が定めた「洪水浸水想定区域図」と、国勢調査に基づくものだ。この洪水浸水想定区域とは「降雨で氾濫した場合に浸水する危険性が高い場所を示した区域」のことで、「計画規模の降雨(50〜150年に一度の大雨)」を想定している。

 とりわけ注目したいのが、「浸水世帯数比」だ。何と、埼玉県南部の戸田市は大雨で市の99%もの世帯が大雨で1メートル以上浸水する。続いて京都府南部の久御山町(くみやまちょう)、埼玉県南東部の蕨市、大阪市城東区がいずれも98%浸水。他にも名古屋市中村区は92%、東京都墨田区88%など、大都市の多くで人口の大半が洪水浸水想定区域内に住んでいることがわかる。

■人口減少も浸水区域増

 実は、洪水浸水想定区域内の世帯数が全国で増加していることが秦准教授の調査でわかった。

 秦准教授は11年度時点の洪水浸水想定区域の地図データと1995年から2015年の国勢調査結果をもとに、洪水浸水想定区域内の人口の変化も調べた。すると、同域内の人口は95年以降一貫して増え続け、20年間で4.4%増の約3540万人。特に世帯数は47都道府県全てで増え、25.2%の大幅増で、約1530万世帯になっていたのだ。

「これには驚きました。日本の人口のピークは08年で、それ以降は減少に転じているのに浸水区域内は人口も世帯数も増えているのですから」(秦准教授)

 秦准教授は、浸水想定世帯数の増加は「核家族化と関係がある」と見る。核家族化によって住宅が必要となるが、古くから人が住んでいた中心市街地を再開発しようとすれば地価は高く権利関係も複雑だ。そのため、それまでは水害の危険で田畑にもならなかった場所、つまり洪水浸水想定区域が開発され家が建てられていったという。

 さらに、都道府県別に20年間の世帯数の変化をみると、増加率は福岡が最も高く38.4%、次いで東京の38.2%、滋賀38.1%、神奈川35.2%の順。大河川の下流部に広がる地域に増えているという。

「問題は、多くの住民は自分たちが洪水浸水想定区域に住み、浸水リスクがあるのを知らないこと。そもそも、不動産業者に洪水浸水想定区域の説明を義務づけていなかった」

 と秦准教授は指摘する。

 不動産売買の際、土砂災害や津波の災害警戒区域は、重要事項として不動産業者は契約前に購入・入居希望者に説明することが義務づけられているが、洪水の浸水想定はハザードマップの作成が自治体側で追いついていないなどの理由から対象外だった。これに対し国交省は1月、不動産業者に対しハザードマップの浸水想定区域を「重要事項」として説明するよう義務づける方針を固めた。導入時期は未定だが、義務化されれば重要事項説明で自治体のハザードマップの提示や水害リスクの説明等が行われることになる。

■注意すべき「旧河道」

 それでは今、注意すべき場所はどこか。秦准教授は次の2カ所を挙げる。

「まず、河川と河川とが合流する地点。特に大河川と中小河川の合流付近です。こうした場所は大雨で水位が上がると支流の中小河川の水が本流の大河川に流れこめなくなる『バックウォーター現象』が起き、河川が氾濫する傾向が高くなります」

 昨年10月の巨大な台風19号で氾濫した多摩川や、一昨年7月の西日本豪雨での岡山県倉敷市真備町の高梁川などでバックウォーター現象が起き、被害が出た。

 次に、注意すべき場所として「旧河道(きゅうかどう)」と呼ばれる昔の川筋も重要と警鐘を鳴らす。

「川と言えば、堤防と堤防に挟まれた場所と認識していると思いますが、旧河道も川と同じと考えた方がいい。旧河道は泥土が堆積していて周囲の土地よりも低い帯状の地形で湿地になっていることが多く、いったん大雨が降れば水害の危険はどうしても高くなります」

 台風19号でマンションが浸水した武蔵小杉駅(川崎市)一帯も、多摩川の旧河道だった。旧河道だった場所は、国土地理院がホームページで公開している古地図などで確認できる。

信州大学震動調査グループの一員で同大理学部の津金(つがね)達郎研究支援推進員は、地震で揺れやすい地域は洪水の常襲地帯と一致すると指摘する。どういうことか。

「地面の揺れやすさはその土地を構成している地盤によって変化します。具体的には、軟らかい砂や粘土などが厚くたまっていると地震が起きれば地震波が増幅されるので揺れやすくなります。また、川が氾濫して水が引くと泥が残りますが、洪水の常襲地域はこのような泥が何度も繰り返し堆積していく場所なので、とても地盤が悪く地震の際には揺れやすい地域となるわけです」

■ゲリラ豪雨が発生しやすい今夏

 同じく昨年の台風19号で大きな被害が出た千曲川沿いの長野市北東部の長沼地区は、まさに「洪水の常襲地帯」だと津金氏は言い、こう続ける。

「北陸新幹線が水に浸かった長野新幹線車両センターは、長野県内でも有数の地盤の悪い地域。もし、地震の揺れへの対策がなされないなら地震で大きな被害を受ける可能性があります」

 今年の夏の天候の見通しについて、海洋研究開発機構の土井威志(たけし)研究員(気候力学)はこう説明する。

「熱帯太平洋の東部で水温が平年より低くなるラニーニャ現象が起こり始めています。ラニーニャ現象が発生すると、日本付近で太平洋高気圧の張り出しが強くなる傾向があります。今年の夏は猛暑になりやすいと予測しています」

 日本気象協会の気象予報士、安齊理沙さんは言う。

「気温が高くなると大気の状態が不安定になって積乱雲が発生しやすくなり、今年の夏もゲリラ豪雨が例年通り発生しやすくなると思います」

 秋以降は、秋雨前線や台風の影響で大雨の心配があるという。それ以前に安齊さんは、梅雨末期の大雨への警鐘を鳴らす。

「18年の西日本豪雨、17年の九州北部豪雨といずれも梅雨末期の7月上旬でした。今年も西日本を中心とした梅雨末期の大雨への警戒が必要です」

 平年の梅雨明けは九州北部が7月19日ごろ、中国、近畿、東海、関東甲信はいずれも同21日ごろ、東北北部は同28日ごろ……。まさに、これからの季節に注意が必要だ。

 秦准教授が提言する。

「行政は中長期的に持続可能な都市の在り方を考え、水害リスクの高い地域の開発を制限したり、災害リスクの低いエリアに住宅を誘導する『居住誘導』を行ったりするなど対策をとる必要がある。一方で住民は、命を守るための避難行動を考えるとともに、経済的な被害が出た場合に備えて水害保険に入るなど、万が一に備える対策を取っておくことが重要です」

 災害は起きてから対応を考えても遅い。コロナ禍の今、荒ぶる自然を正しく恐れ、避難と備えを確かめたい。(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年7月13日号

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  • Oh Oh Oh Oh それだけなんだ。 車検みたいなものなんだよ。ある区切られたところの車検が通っただけのこと。
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