中高一貫の進学校に通い続けるか悩む中学3年生に、鴻上尚史が示した「人生のバランス」

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2020年07月07日 16:00  AERA dot.

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写真作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします(撮影/写真部・小山幸佑)
作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします(撮影/写真部・小山幸佑)
「中高一貫の進学校に入学後、毎日の課題やテストの心配で、やりたいことをやる時間がなく、辛くなってきた」と悩む中学3年の女子。公立校に入りなおすか迷う相談者に、鴻上尚史が示した具体的な判断の指針とは?

【相談72】中高一貫の進学校に通い続けるか、迷っています(15歳 女性 るる)

 私は今、中学3年生です。私の通っている学校は、いわゆる進学校で、中高一貫校です。入学するために自分でもよく勉強したと思いますし、入学したことを後悔はしていません。学校としてはとても良い環境だと思うからです。でも、毎日課題をしたりテストの心配をしたりしていて、辛くなってきました。

 時間のある休日に本を読んだりすると、今自分がいる世界とは全く別の世界を見ることになって、そういうときに、自分はこうしていていいのだろうかという不安を感じます。もっと本を読みたい、実際にここに行ってみたい、見てみたい、調べたいなど、学校の他にやりたいことがたくさんあって、でもそれをできる時間が少なくてもどかしいです。

 今も、コロナウイルスの影響で休校中ですが、オンラインの授業が毎日あり、課題も毎日あります。父と母からは、辛いと思うなら今の学校をやめて公立の学校へ行っても良いと許可はもらっていますが、この学校は、大学へ入り、私が将来したい仕事にも近づける良い環境なのもわかります。なので、そうやって踏み切る勇気が出ません。

 勉強は楽しく思うこともしばしばあるし、必要だとも実感しているのですが、他にもしたいことがたくさんあり、どうしたらいいかわかりません。迷ったまま学校へ通い続ける事は嫌なのです。どうしたらいいでしょうか。

【鴻上さんの答え】
 るるさん。相談、ありがとう。担当編集者によると、「ほがらか人生相談」の最年少投稿者だそうです。

 とても厳しい「中高一貫校」でしょうか。ひょっとしたら、比較的新しい学校ですか。伝統的な「中高一貫校」には、生徒の自主性に任せたり、自由だったりする学校が多いというイメージですが、どうでしょう。

 毎日、膨大な課題・宿題が出されているのですね。

 じつは、るるさんの質問を読んで、僕は自分の中学・高校時代を思い出しました。

 僕は中学は市立の平均的な中学でしたから、1年、2年はやりたいことをやりました。ソフトテニス部と演劇部をやり、友達とバンドを組んだりしました。初めて一人旅に出て、金沢から能登半島を回ったのは中学2年の夏休みでした。

 ただ、さすがに、中学3年の夏休みを過ぎたぐらいから、受験勉強を意識するようになりました(毎日の宿題や中間・期末テストの対策はちゃんとやってました。それ以外の受験勉強です)。

 今でも覚えていますが、食事を終え、夜8時から0時まで4時間、ただ机に向かうという生活を2週間ほど続けた時に、「なんてつまらない人生なんだ」としみじみしました。

 読みたい本を読まず、見たいテレビを見ず、行きたいところにも行かず、電話で友達とも話さず、ただ受験勉強を続ける人生が、本当に退屈だと思ったのです。

 あまりの単調さにうんざりしましたが、半年の辛抱だと我慢しました。

 県立高校に入った後、進学校でしたが、これまた、1年2年はノンキに過ごし、中学受験の反動で読みたい本を読み、生徒会をやったり、演劇部をやったり、文芸部をやったり、高2の夏休みは、一人で北海道を20日弱回りました。その時以来、「礼文島」は大好きな場所です。

 3年になって、さすがに受験勉強に出遅れたと焦った時も、るるさんが思っている「もっと本を読みたい、実際にここに行ってみたい、見てみたい、調べたいなど、学校の他にやりたいことがたくさんあって、でもそれをできる時間が少なくてもどかしい」という思いに苦しんでいました。

 現国の問題で、作家名と小説のタイトルを結ぶ問題なんかを解きながら、「こんなこと、人生の何の役に立つんだろう」と腹を立てていました。「読まないと意味ないじゃん。作家名とタイトル覚えてどうするよ」とささくれだっていました。

 で、結局、勉強よりもやりたいことを優先して、中途半端にしか受験勉強をやらず、当然のように志望校に落ちました。

 でも、高校時代の時間の使い方に関して、まったく後悔はありませんでした。「受験」より「それ以外の大切なこと」を経験できたことは今の自分を作っていると確信を持って言えます。

 るるさんと違って、僕がラッキーだったと思うのは、あの当時、「一浪は当り前」と考えられていたことです。分かりますか? 高校を出た後、予備校に通って、一年間浪人することです。「一浪」を「ひとなみ」と読んで、「一浪は人並み(ひとなみはひとなみ)」なんてフレーズも広がりました。信じられないでしょうね。

 でも、今は浪人がびっくりするぐらい減りました。経済的な理由や「浪人する意味」など、さまざまなことが理由でしょう。

 浪人した時には、さすがに、勉強しました。もう後がないと思っていましたし、はやく「自分のやりたいこと」を実現したかったので、勉強するしかないと腹を括ったのです。

 でも、ぶっちゃけて言いますが、受験勉強はつまらないものでした。それは、昔も今も変わらないと思います。

 特に、「思考型」ではない「短期暗記型」の受験勉強は本当に退屈です。でも、日本の受験は、まだまだ「短期暗記型」のものが多いと僕は思っています。だから、ものすごく退屈で、つまらなくて、うんざりするのです。

 浪人の一年間、僕はなんだか自分が「勉強」ではなくて「我慢」とか「修行」とかしているような気持ちになっていました。

 さて、どうして、こんなに自分の中学・高校時代を思い出したかというと、今、るるさんが悩んでいる「勉強」と「学校の他にやりたいこと」のバランスに、僕がかつて苦しんでいたことを思い出したからです。

 この問題に悩んでいるのは、僕やるるさんだけではないでしょう。

 たぶん、日本の、そして世界の中学生、高校生の多くがぶつかっている悩みだと思います。

 やりたいことがたくさんある。今という時間をただ、勉強だけで終わらせたくない。でも、勉強もしないといけない。将来のためには、勉強もしたい。でも、だからといって、今の生活を、ただ勉強の繰り返しだけの単調な一色で終わらせたくない。

 悩んでいるのは、るるさんだけではないと思います。

 さて、るるさん。るるさんは「この学校は、大学へ入り、私が将来したい仕事にも近づける良い環境」だとちゃんと分かっていますね。

 将来、なりたいのはどんな職業なんでしょうか。その仕事のためには、かなり、偏差値の高い大学に入らないとダメですか? それとも、それなりの大学でも、その仕事につけますか?

 今のるるさんの成績はどうですか? 毎日、課題に苦しめられながら、それなりの結果ですか? 上位の方でしょうか、下位の方でしょうか?

 なんでこんなことを聞いているかというと、「学校以外でそれなりに充実した時間を過ごすこと」と「勉強に完璧な時間を使うこと」は、両立が不可能だろうと僕は思っているからです。

 もし、るるさんが、かなりの大学に入りたいと思っていて、なおかつ、今の「中高一貫校」で下位の成績なら、そのままガンバる方がいいと思います。

 もし上位なら、少しずつ、勉強の仕方を工夫して、つまりは、要領よく時間を使えるようにして、そのまま、宿題・課題の多い「中高一貫校」でも、勉強の合間にいろんなことができることを目指すのがいいと思います。うまく「勉強の手を抜く」ということです。

 もし、るるさんのなりたい職業が、そんなに難関の大学でなくても充分なら、そして、今の成績が少なくとも下位ではないのなら、思い切って、宿題・課題が多い「中高一貫校」をやめて、比較的自由な時間が取れる高校に行くという選択肢もあると思います。

 結局は、「やりたいこと」と「勉強」の完全な両立は不可能なので、バランスを選ぶしかない、ということです。

 これが正解という分かりやすい解答はないと思います。

 でも、るるさんは、将来の目標もはっきりしているし、自分の状態も分かっているでしょうから、なんとか、ベストではなくても、ベターなバランスを見つけられるんじゃないでしょうか。

 バランスを見つける試行錯誤は、人生の中では決してムダにはなりません。結果的にうまくいかなくても、その努力や苦しみは、将来、るるさんの人間性を豊かにするものです。

 それだけは間違いのないことです。

 楽しくバランスを探ってみて下さい。

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