刑務所出所者の就労「偏見・差別は避けられない」コロナでより厳しい現実に 再犯防止目指すNPOの取り組み

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2020年07月08日 10:21  弁護士ドットコム

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刑務所を出所しても、帰る場所や仕事がなく、再び犯罪をしてしまう人も少なくない。そのため、法務省は「再犯防止に向けた総合対策」の1つとして、社会における「居場所」(住居など)と「出番」(仕事)を作ることをあげている。


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ただでさえ、刑務所を出所した人たちが「出番(仕事)」を獲得することは容易ではないが、コロナ禍ではより厳しい現実がみえてきた。(編集部・吉田緑)



●出所者を待ち受ける「厳しい現実」

「ネットで名前を検索すれば、何をしたのかはすぐに分かってしまいます。そのような人を雇いたいと思う企業は少ないでしょう。前科・前歴があると、差別と偏見は避けられません」



こう話すのは、受刑者や出所者の支援をおこなうNPO法人「マザーハウス」(https://motherhouse-jp.org/)理事長の五十嵐弘志さんだ。



実際に刑務所の出所者が仕事探しをすると、厳しい現実が待ち受けている。



五十嵐さんによると、募集している仕事の多くは建設業。現場作業がほとんどのため、高齢や病気などで肉体労働が難しかったり、合わなかったりする人の選択肢は限られている。



「中には、いわゆるブラック企業もあります。就労できたものの、毎日のように昼勤・夜勤連続で働かされた人などもいます」と五十嵐さんは語る。



また、雇用形態は派遣が多く、正社員での雇用はハードルが高い。資格を取得しても「欠格事由」に該当し、資格を活かせない人もいる。さらに、ネットに残っている前科・前歴の情報を理由に不採用となる場合もある。



このような状況に加えて、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた人もいる。マザーハウスにつながり、仕事探しをしていた小川さん(仮名・30代男性)もその1人。派遣の仕事をみつけたものの、コロナの影響で採用面接が見送られ、「出番(仕事)」を獲得することの難しさを突きつけられた。



ただでさえ厳しい現実に加えて、コロナの影響を受け、不安を抱えていた小川さん。彼に手を差し伸べたのは、五十嵐さんだった。小川さんは6月から五十嵐さんが立ち上げた「ルツ合同会社」に正社員として入社し、現在は草刈りの仕事をしているという。



●「社会性がない」そのためにトラブルも…

就労先がみつからないだけではない。出所者自身が抱えている課題もある。



「中には社会人経験がある人もいますが、社会で仕事をした経験に乏しく、『社会性』がない人も多いです。



仕事(お金)をいただく以上はありえないこと、一般社会では通用しないことを平然とやってしまう人もいます。社会では『当たり前』とされていることでも、彼らには1つ1つ教える必要があります」



マザーハウスでは、これまで草刈りや引っ越し作業などの便利屋業もおこなってきた。しかし、メンバーの社会経験が乏しいために起きたトラブルもある。



たとえば、仕事現場に作業着ではなくジーパン・サングラス姿で行き、現場監督の怒りを買った人もいたという。





「出所者に仕事を与えれば、問題が起きるのではないか」。そのような声が上がったこともある。それでも、五十嵐さんはマザーハウスの就労支援事業として、1月にルツ合同会社を立ち上げた。



「社会で生きるためには何が必要なのか。お金をいただくとはどういうことか。社会で仕事をすることの意味を考え、学んでいく場が必要だと思いました」



ルツ合同会社では、キリスト教の「聖人」の名を冠した「ラウレンシオ」(草刈りや引っ越し、掃除などの便利屋サービス)と「パトリック」(PCや携帯修理、リユースPCの販売等)の2つの事業をおこなっている。





「ありがたいことに、コロナ禍でも片付けや草刈り、リユースPCの注文やタブレット等の修理作業などの仕事依頼がありました」と五十嵐さんは語る。



「パトリック」では、刑務所への服役経験があり、これまでエンジニアとして約30年ほど働いていた男性(50代)が作業をおこなっている。



●まずは社会で生きるための「土台」と「居場所」作りから

刑務所に再び戻ってきてしまう人の就労状況をみると、男女ともに有職者よりも無職者の割合が多くなっている(「令和元年版犯罪白書」によると、2018年は再入者のうち無職者が占める割合は男性71%、女性85.2%。2008年は男性70.2%、女性82.2%)。



そのため、法務省でも再犯防止を目指し、刑事施設における職業訓練や就労に関する指導、「矯正就労支援情報センター」(通称・コレワーク)の設置や「協力雇用主」の募集など、就労支援に取り組んでいる。



しかし、仕事が決まったとしても、就労先に定着せず、すぐに辞めてしまう人も少なくないという。五十嵐さんは「社会に土台ができておらず、不安定な状態のまま仕事をしているためではないか」と分析する。



マザーハウスにつながった場合、出所後すぐに就労するのではなく、最初は生活保護を受けることになる。そして、社会性を身につけるためのプログラムやボランティアなどをおこない、社会で生きるための土台作りを進めていく。



その1つとしておこなっているのが、コーヒー(「マリアコーヒー」)の販売だ。製造から販売まで出所者が関わり、収益金は受刑者の更生・社会復帰支援等に使われる。マリアコーヒーは、マザーハウスが運営している「マリアカフェ」(東京都・墨田区)で飲むこともできる。



記者がカフェを訪れたときは、1人の女性が「美味しいと聞いたので」とコーヒーを買いにやってきた。遠方から訪れる人もいるという。





「マザーハウス、そしてマリアカフェは出所者の『居場所』でもあります。マリアカフェに来ていただいたり、コーヒーを飲んでいただいたりすることは、とても嬉しいことです。



コーヒーの販売を通して人と触れ合い、社会と交流することができますし、何よりメンバーの回復につながると信じています」。



五十嵐さんは、マザーハウスで必要なケアやトレーニングをおこない、社会で仕事をしても問題ないと判断した人には、ルツ合同会社で働いてもらいたいと考えているという。



「小川さんのように、コロナの影響で面接がキャンセルとなったり、求人が減ったりしたという話は聞きます。草刈りなどは、あまり人がやりたがらない仕事だということもあるかもしれませんが、仕事の依頼があることに感謝しています。ルツ合同会社で働いてもらう人には、社会人として堂々と胸をはり、人びとのために頑張ってほしいと思います」



コロナの影響で、今後、出所者の就労をとりまく環境はさらに厳しいものになることが予想される。それでも出所者の「出番」を創出し、再犯をしてしまう人を1人でも減らすため、五十嵐さんの模索は続く。


このニュースに関するつぶやき

  • 事業主はクリスチャン?
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  • 出所者じゃなくても厳しい状況なんだから、当たり前じゃん・・・・。
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