AI時代の将棋界、藤井聡太七段の何がすごい? 「他の棋士とは違う差」佐藤天彦九段が解説

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2020年07月08日 17:00  AERA dot.

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写真王位戦第1局に勝利し、会見する藤井聡太七段/2020年7月2日、愛知県豊橋市 (c)朝日新聞社
王位戦第1局に勝利し、会見する藤井聡太七段/2020年7月2日、愛知県豊橋市 (c)朝日新聞社
 将棋界ではAIによる研究が全盛時代を迎えている。棋士たちは日々、研究に励んでおりなかなか差がつきにくい状況だ。そんななか、藤井聡太七段はなぜ異次元の強さを誇っているのか。AERA 2020年7月13日号で、対戦経験のある佐藤天彦九段がその差を解説する。

【佐藤天彦九段の写真はこちら】

*  *  *
──佐藤さんも6月2日に棋聖戦決勝トーナメントの準決勝で藤井さんと対局されました。その時の感触は?

 私にとっては、藤井さんとの公式戦での対局は2度目となり、ともに藤井さんの勝利となりました。先日の感触としては、多くのプロ棋士が敬遠するような手でも抵抗感なく考えているなと。すごく深くまで読んでいるんだろうなと感じさせられる局面がいくつもありました。

 これまで藤井さんが積み重ねてきた他の棋士との対局を研究してみると、たとえ意外な手でも、局面が進んでみると藤井さんの勝ちというパターンが、あまりにも多くある。普通、プロは相手のことを簡単に信用したりしないんですが、藤井さんの手だと、「一見、悪手のようで考え抜いた手なのかもしれない」と信用が出てきてしまいます。そうすると、相対するこちらも、つい、自分の読みを信じられなくなって、対応にブレが生まれる場合もあります。

──以前のインタビューで、佐藤さんは「AIの登場により、将棋界の常識が変わってきている」とお話しされていました。

 AIによる研究が全盛時代を迎えています。以前は、定跡をきっちり研究していれば、「あとは地力でなんとかなる」という世界でした。今は、場合によっては「詰み」となる所まで研究されているような形がたくさん出てきた。そうすると、深いところまで対応するために、棋士たちは圧倒的に研究量を増やさなければならない。棋士は研究用に非常に強いソフトを軒並み持っていますから、ソフト研究の軍拡競争みたいなものです。

 悩ましいのは、生活の多くのリソースを投入して研究しまくるんだけど、他の人も研究しているから差がつかないんです。ソフトの手は、微妙な均衡から少しでも外れると奈落の底に落ちるような、危うい均衡の上に成り立っている形がいくつもあって、みんな踏み込んでいっては足をからめとられ、混戦模様に陥る。そうするとみんな、ピリピリした中で研究と実戦とを行き来しているところがあると思うんです。

 もちろん、藤井さんも研究はものすごく深めていると思うんです。けれど、研究を深めているプロはたくさんいるわけで。藤井さんの場合は、研究から外れたところの地力が圧倒的。研究という要素が霞むぐらいの地力の強さがあると思いますね。

──そんな端境期に、藤井さんのような若手の新星がいることは、大きな刺激になりますか。

 なりますね。藤井さんは、混沌とした局面をズバッと切り開いてくれるような力強さがある。圧倒的に先を見通す力があるからです。研究し尽くしてがんじがらめになっている序中盤の定跡の形に対して、藤井さんは「光の刃」を持って茨を切り裂いていくみたいな。

 学究的と言ってもいいほど研究し尽くされている「角換わり」という戦法があるんですが、今のところ、この戦法では藤井さんは向かうところ敵なしです。棋士たちは、もはや人間よりも圧倒的に実力が優位なソフトを参考にして研究しているので、みんなそれを真似しているものの、どこかで指しこなせなくなる。ところが藤井さんは、ソフトのことをちゃんと研究して理解した上で指しこなし、その上で連続性をもってちゃんと終盤まで見通しきる力がある。そこは実力ですね。藤井さんぐらいの計算力がないと、ソフトが示すような局面は理解できないんだろうなと思わされるぐらいの感じで。

 そうすると藤井さん、やっぱり気持ちいい将棋を指してくれるんですよ。AI時代にあっても、「こんな風にうまくできる人はいなかったよね」という妙手を繰り出せる。真っ暗闇の中で、誰もが一寸先も見えなさそうなところで戦うなか、「彼だけがビジョンを持って指しているよね」みたいな。

──藤井さんが近々タイトルを獲得した場合、将棋界にどんな影響を与えるでしょう?

 将棋界にとっては、その影響は計り知れないですね。このまま順調に成長していけば、藤井さんが複数の冠を席巻する時代が遠からず来るのではないか。彼は、現在八つあるタイトルの過半数だって狙えるぐらいの実力を備えていますから。

 もちろん、対戦する棋士の立場からすると、藤井さんの計算力は脅威に感じます。ただ、藤井さんは圧倒的に将棋の世界を面白くして、深みを与えてくれている。今まで見たことがない勝ち方や指し手は、一人の将棋ファンという立ち位置で見ると、ものすごく刺激的で面白いなと思いますね。(ノンフィクションライター・古川雅子)

※AERA 2020年7月13日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • このインタビューに答えている佐藤天彦九段は28歳で九段(九段が段位で1番上)だし、あと1期で永世名人だった人でそれを止めたのが私の豊島竜王名人なんですけどね…ふふ。
    • イイネ!3
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  • 藤井七段を「10代男子」として見てない人が、昼食の値段を見て叩くんだろうけど、そういう人は「年上だから敬えと言うけど、ただ年を取ってるだけで中身が無い」と思う
    • イイネ!37
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