少女漫画誌『ぶ〜け』は新しい時代を切り拓いたーー松苗あけみが描く、少女漫画版『まんが道』

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2020年07月09日 08:02  リアルサウンド

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 かつて『ぶ〜け』という少女漫画誌があった。1978年に創刊され、2000年まで発行。百花繚乱ともいうべき80年代の少女漫画誌の中でも、ひときわ先鋭的な作品を掲載し、マニアから熱い支持を受けた。と、他人事みたいに書いてしまったが、私も毎月購入し、夢中になって読んだものである。


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 その『ぶ〜け』を代表する漫画家は誰になるだろう。内田善美は当然として、『ぶ〜け』生え抜きの吉野朔美と竹坂かほり、デビューは他誌だが『ぶ〜け』で本領を発揮した、松苗あけみや水樹和佳(現・水樹和佳子)などの名を挙げることができるだろう。個人的には、三岸せいこも入れておきたい。自分の青春時代とリンクすることもあり、誰もが忘れがたい漫画家である。


 その中のひとり、松苗あけみの自伝漫画『松苗あけみの少女まんが道』が刊行された。もちろんタイトルは、藤子不二雄の自伝的漫画『まんが道』を意識したものだ。少年・青年漫画家の自伝漫画や評伝漫画は、この『まんが道』を筆頭に、幾つか数えることができる。だが少女漫画の方は、ほとんどなかった。それが今年(2020年)の2月に笹生那実の『薔薇はシュラバで生まれる【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】』、そして6月に本書と、相次いでかつての少女漫画界を、当事者が振り返る作品が刊行されたのである。ようやく少女漫画も、歴史を語るだけの歳月を経たということだろう。


 いやまあ、このあたりのことを書き出すと止まらなくなるので、話を松苗あけみに戻す。作者がデビューしたのは、サンリオが創刊した、左開きでオールカラーの漫画誌『リリカ』であった。その後、『リリカ』が廃刊になると『ぶ〜け』に移籍。最初は典型的な少女漫画を執筆していたが、徐々に独自の魅力を発揮する。そして『ぶ〜け』で連載した『純情クレイジーフルーツ』で大きな人気を獲得した。これがなかなかショッキングな作品だった。


 舞台は三流私立女子高。そこに通う、4人組の生徒が主人公だ。メインになっているのは、教師の小田島に恋している、一重瞼の吉原実子。ボーイッシュだが内気な沢渡杏子。可愛い容貌だが毒舌家の桜田みよ子。食べるのが好きで、ふくよかな体形の桃苗あけび(あけびという名前は公募で決定した)。なにかと騒動を引き起こす4人組と、その周囲の人々の織り成す物語が、とにかく面白かった。さらに、女子高生のリアルな生態が、あけすけに描かれているところも新鮮に感じられた。新しい時代の少女漫画が出てきたと、興奮したものである。


 もちろん『ぶ〜け』以後から現在に至るまで、作者は漫画家として活躍しており、私も作品を読み続けている。しかしこの『ぶ〜け』時代が、特に印象深いのだ。それは作者も同じなのか、本書の後半は『ぶ〜け』の話が中心になっている。


 その前に前半を紹介しよう。少女漫画に夢中になった子供時代から始まり、家事手伝いをしながら同人活動を続け、やがて姉の同級生のM先輩の縁で内田善美と会ったり、一条ゆかりのアシスタントをするようになる。さらにM先輩から『リリカ』創刊の話を聞き、漫画家デビューすることになる。読んでいると運がよかっただけのように思えるが、それだけではないだろう。


 そもそも絵を認められなければ、周囲の人々がチャンスを与えようとは思わない。実際、作者は『リリカ』時代から絵が達者であった。『リリカ』廃刊後に『ぶ〜け』に移籍できたのも、力が認められてのことではないのか。その後、見るたびに感嘆したくなる、時にポップ、時に華麗なイラストを次々に発表したことを思えば、この作品の自虐表現は、漫画的誇張が入っているのではないかと思ってしまう。これも読者受けを考えずにはいられない、漫画家の業であろうか。


 とはいえ、当時の『リリカ』や『ぶ〜け』の、内側の話に興味は尽きない。また、一条ゆかりや内田善美がちょこちょこ登場し、素顔を見せてくれる。スクリーントーンを主線から外して貼ることで独自の効果が生まれたことや、瞳の新しい描き方など、技術的なことにも触れられている(ここはもっと詳しく描いてほしかった)。


 年季の入った少女漫画好きにとっては、こたえられない内容なのだ。逆に若い人には、本書を切っかけにして、松苗あけみの華麗で愉快な漫画を発見してもらいたいのである。今読んでも、本当に面白いのだから。


(文=細谷正充)


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  • 「竹坂かほり」は、2002年に出た集英社の「学習漫画世界の歴史」の最終巻を描いている、「竹坂香利」が同じなら。文庫では「漫画版世界の歴史」10巻に入っている
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