そもそも「ハンコ議連」って何? 知られざる議連の内情とその主張

4

2020年07月09日 11:30  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真不要論が取り沙汰されている押印の慣習(c)朝日新聞社
不要論が取り沙汰されている押印の慣習(c)朝日新聞社
 新型コロナウイルスの蔓延でテレワーク推進の機運が高まったことを機に、「日本のハンコ文化がテレワークの弊害になっている」といった意見が目立つようになった。押印のために出社を余儀なくされる「ハンコ出社」も問題視され、「脱ハンコ」に着手する企業も増えている。

 ハンコに対して逆風が吹くこの局面で、「ハンコ議連」と呼ばれる議員連盟が、動きを活発化させている。正式名称は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」だ。公式サイトがないため、活動状況などは一見してわからないが、そもそもハンコ議連とはいったい何なのか。そして、彼らがハンコ文化を守る理由は何なのか。ハンコ議連の幹部に「主張」を聞いた。

*  *  *
 ハンコ議連の設立は、約1年半前にさかのぼる。2018年10月に出された設立趣意書には、発起人として竹本直一氏や城内実氏など、自民党議員の面々が名を連ねている。

 同議連の中心メンバーで事務局長を務める中谷真一氏は、議連設立の経緯をこう語る。「18年ごろに、政府内で『電子上の法人登記において法人印を廃止する』という議論が持ち上がったんです。その際、電子の法人登記に印鑑を活用してもらえるよう運動をしたのが最初の活動でした」

 所属議員を集める際は、印章の一大産地である山梨県や、印材に使われる木材「柘(つげ)」の産地である鹿児島県、取り扱い業者の多い東京などから、賛同する議員らを呼び込んでいったという。実際、中谷氏を含む山梨県を拠点にする自民党議員は、全員がハンコ議連に所属している。

「ハンコを残すべきだといった地元支援者の主張を国政に反映するのは政治家の使命。議連と業界団体との癒着といった憶測がありますが、それは絶対に違うと言いたい。そもそも印章の業界団体は、デジタル分野の業界団体よりもはるかに小さい規模で、利益の享受にはつながりません。業界団体を守るためではなく、印章はまだまだ貢献できるといった使命感から活動しています」(中谷氏)

 中谷氏は活動を始めた動機について、「これまではハンコが本人確認や意志の担保の役目を果たしてきましたが、廃止してしまったらどうなってしまうんだろうという不安があった」と振り返る。「代わりになりうるのはサインでしょうが、日本の場合、そうした文化が根付いていない。そのサインが本人によるものであると特定できる制度がないのです。アメリカでサインが意志の担保として成立するのは、制度ができあがっているからです。日本の場合、サインの制度を一から設計するよりも、すでに根付いている印章を活用した方が、効率がいい」

 議連の主な活動は、印鑑の活用方法などを検討する定例の勉強会。時には政府や業界側に提言もするという。中谷氏は「議連の働きかけにより、オンライン上で法人登記する際にも印章を活用できるようになった」と成果を主張する。

「誤解されがちなのですが、私どもは、オンラインやデジタルガバメントの推進には反対していません。むしろ、今後のデジタル化の流れには乗っていきたい。印章をデジタル化の流れに乗せていくにはどうすればいいのか、議論を進めることはできるはず」

 テレワークを阻む要因としてハンコに批判が集中していることについて、中谷氏は苦言を呈する。「テレワークを進めたいならやればいいのに、経団連やマスコミは、できない理由をハンコのせいにしている。テレワークを阻害しているおおもとの原因は、ハンコではなく『紙への依存』です。紙への依存を脱却するための議論をするべきで、デジタルでも活用できるようなハンコを廃止するというのは論理的におかしい。ハンコは古いもの、というイメージが先行して、不当な扱いを受けている感じがします」

 確かに、テレワークを阻む要素は他にもある。東京商工会議所が4月8日に発表したアンケート(1333社が回答)によると、テレワークを実施・検討する際の課題として、大企業(300人以上)のうちの41・0%が「パソコンやスマホ等の機器やネットワーク環境の設備が十分ではない」と回答した。また、回答した大企業の27・7%が、「セキュリティー上の不安」も課題として挙げた。

 こうした結果を踏まえ、業界団体「全日本印章業協会」の徳井孝生会長は、「社内インフラが整っていないのに、ハンコばかりが標的になるのは心外だ」と話す。

「ハンコが主たる原因だというのは間違いです。テレワークを進めるのであれば、社外にデータを持ち出せるようセキュリティーを強化するなど、ほかに取り組むべき事柄があるはずです。仮想敵を作ったほうが、話を進めるのに都合がいい。そのわかりやすいシンボルとして、ハンコがやり玉にあげられているように感じます」(徳井会長)

 こうした業界側や議連の主張に反して、6月19日、政府は「脱ハンコ」に向け本格的に舵を切った。内閣府・法務省・経済産業省が連名で、契約書の押印についての見解を記した文書を公表したのだ。同文書には「特別の決まりがない限り、押印をしなくても契約の効力に影響は生じない」と記されており、日本における押印主義の慣行を覆す形となった。

 この見解に対し、前出の徳井会長は、「ハンコの要不要について政府としての姿勢が示されたというのは、脅威ではあります。とりわけ法務省については、これまで押印を重視する考えだった。連署に名を連ねていたことについてはいささか驚きました」と明かす。

 政府が見解を出した以上、「現状として受け入れざるを得ない」というが、徳井会長は「全員が、すぐにハンコを使わなくなることにはならない」とみる。「ハンコを使わなくてもいいというお墨付きが出ましたが、政府はハンコの使用を否定しているわけではありません。私としては、選択肢が広がったという解釈をしています。今後はハンコを使う人と使わない人の二手にはっきり分かれるでしょう」

 一方、テレワークを積極推進したい企業やデジタルネイティブが多勢を占める企業などは、今後一切ハンコを使わなくなることも予想される。政府が見解を出す以前から、形骸的な押印を厭う人は年々増え、アナログのハンコを使う機会は減っているのが実情だという。同業界団体の規模も、ピーク時の70年代〜80年代には会員数が約3千人いたが、現在は940人にまで縮小している。

 こうした現状でも徳井会長は、「最後の一人がデジタルに移行するまで、我々は良質な印章を提供する使命を担っている。1人でも需要がある限り、我々はハンコを作り続けます」と話す。今後、ハンコ離れは加速度的に進んでいくと予想される。だが、アナログのハンコはデバイスを持たないお年寄りをはじめ、簡易に証明ができる手段として、まだニーズが残っていることも確かだ。

(AERAdot.編集部/飯塚大和)

【おすすめ記事】知る人ぞ知る「人脈を生む」不思議な名刺


このニュースに関するつぶやき

  • 画面上の見た目はハンコでも「何年何月何日何時何分に誰々が捺印」という情報が刻印されるデジタル印章とか、デジタル認証も可能なハンコとか普及させたらいいと思うのだ。
    • イイネ!1
    • コメント 0件
  • 画面上の見た目はハンコでも「何年何月何日何時何分に誰々が捺印」という情報が刻印されるデジタル印章とか、デジタル認証も可能なハンコとか普及させたらいいと思うのだ。
    • イイネ!1
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(4件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定