仲間内の「いじり」は本当は「いじめ」だった…自殺した16歳男子生徒が「LINE外し」で感じた絶望とは

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2020年07月10日 11:30  AERA dot.

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写真※写真はイメージです(c)Getty Images
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 当時16歳だった男子生徒がいじめを苦に自殺した2年前のできごとが今、波紋を呼んでいます。家庭裁判所の審判は加害者に対して「不処分」という決定でした。ネット上には「人が死んでいるのに、なぜ不処分なんだ」という声も上がっています。不登校新聞の編集長、石井志昂さんは、少年が自殺当日に「LINEグループから外された」という点に注目しています。いじめ被害者が置かれた状況から、その意味を考えます。

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*  *  *
 福岡県教育委員会によると、2018年6月、福岡県久留米市の県立高校に通っていた男子生徒は、いじめをうかがわせるメモを残し、自ら命を絶ちました。遺族から被害届を受けた福岡県警は今年1月、加害者の少年3人を暴力法違反の疑いで書類送検。家裁は5月から審判を開始していました。
 
 先月になって、加害者の少年3人に対し、家裁の審判で「不処分」という決定が出ていたことが報道されました。理由は明らかにされていません。
 
 この問題で、メディアでも世間もあまり注目していない点があります。それは、自殺当日に「同級生のLINEグループから外された」という事実です。多くの大人は、子どもから、こういった相談を受けてもそれほど危機感を持てません。「そんな奴らほっとけ」とか、「気にする必要はない」と言ってしまうでしょう。

 しかし、グループ外しは、子どもの気持ちや背景に目を向けて注視してもらいたい事態なのです。県教委の調査報告書はこのことをいじめと認定しており、私も自殺の強い引き金になったと考えています。

■グループ外しが意味する恐怖感

 県教委によれば、同学年の部員5人が中心となり、以下の行為を男子生徒に対し行っていました。

(1)男子生徒のズボンを複数回にわたって下ろした

(2)携帯電話を複数回隠した

(3)LINEグループから外した

 さらに自殺当日、男子生徒の通学用の靴と部活用のスパイクのひもを結びつけられていました。調査報告書によると、これらのいじめによって男子生徒は「衝動的に自殺に至った」と結論づけています。

 直接危害を加えられる(1)(2)の行為に比べて、(3)は決定打になるような事柄には思えないかもしれません。でも、私は、LINEグループから外されたことで、男子生徒は「これからもいじめの標的になるのは僕だ」と感じたのではないかと思っています。

そして、こう捉えたのではないでしょうか。これまでは「仲間内のいじり」だったのが、これからは正式に仲間から外されていじめの対象になるんだ、と。いわば、男子生徒は本格的ないじめの宣告を受け取ったのです。その時、強い恐怖を感じたはずです。

■いじめの輪から外れて感じる絶望感

 いじめを受けている被害者の立場から、グループから外されることの意味をあらためて考えてみたいと思います。いじめられているなら、その人たちと付き合わなければよいと考えがちですが、いじめられているからこそ離れがたいのです。自分を傷つけた人たちを仲間だと思うことで自尊心を保つという、特殊な心理状態に置かれているのです。
 
 自殺した男子生徒と近い精神状態になっていたと思われる男性から、こんな話を聞いたことがあります。彼は、ひょんなことからいじめグループから外れましたが、その瞬間に絶望感を感じ、10年間にわたってひきこもっていました。

『僕が中学生だったころ、仲よくしていたグループはクラスカースト(教室間の序列)の上位グループだったと思います。十数人のグループで、主要メンバーは同じ塾に通っていました。ふだんは仲がいいんですが、何かのきっかけで関係がすぐに壊れてしまうというか、誰かがグループのみんなから攻撃される対象になってしまう。そんなことがある日、突然、起きてしまうんです。その矛先は特定されていなくて、自分にも矛先が向かってきましたし、自分もその輪に加わっていたこともありました。

 今から考えれば異常な関係だったことはわかりますが、当時はそのグループにしがみつこうと必死でした。必死で殺伐とした人間関係のなかにいた結果、クラス替えによってそのグループから離れてしまったとき、絶望感に近いものを感じて学校へ行けなくなりました。

 ふつうに考えれば、殺伐としていた人間関係から離れられて喜ぶべきですが、当時は、あのグループにいることが世界のすべてだとさえ思っていたからだと思います。不登校をしてから10年近くは当時の人間関係を夢で思い出すこともありました』(32歳・男性)

 グループから外されたことで絶望感を感じるのは「暴力を受けた人間の心理」が影響しています。いじめの正体は「悪意」や「侮蔑」といった精神的な暴力です。精神科医・高岡健氏によれば、暴力を受けた人間はかならず自尊感情が踏みにじられて傷つきます。しかし同時に自分が受けた暴力を無意識に肯定しようとします。精神的に辱められたのは「みんなのいじられキャラだから」など、強引な理屈で自分を納得させようとします。自分が受けた暴力を肯定しなければ、傷つけられた自尊感情が保てないからです。

 自分が受けた暴力を肯定する例として有名なのが、夫婦間の暴力、DVです。夫から殴られても妻は「あの人は自分がいないとダメなんだ」と夫を肯定し、強くたたえさえします。夫を強く肯定することで暴力の肯定をしようとするのです。暴力が続けば夫は暴力行為に依存し、妻は暴力を受けているがゆえに夫に依存する、という関係になっていきます。妻は自分が受けた暴力を肯定しようと、より弱い立場の子どもに暴力を振るうなどの暴力の連鎖も起きることもあります。

 これが暴力の怖いところです。殴られた箇所が痛むだけでなく、言われた言葉に心が傷つくだけではありません。わかっていても抗えないほど、暴力は連鎖する力が強いのです。

 私が取材した男性は、双方意図せず、いじめが頻発するグループから外れて、その瞬間に絶望を感じました。これは暴力によるものだと考えられます。亡くなった男子生徒は、いじめている側から意図的に外されたわけですから、強い絶望感を感じたのではないでしょうか。

■気持ちの寄り添うことが一人でも

 恋愛リアリティー番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラー木村花さんが、急逝したことでSNSの誹謗中傷に関心が高まっています。それに比べると、グループ外しは、周囲が「そんなことで」と思ってしまい、SOSも見逃されがちになってしまいます。

 しかし、いま述べてきたとおり、見えない傷を子どもは負っているのかもしれません。また、いじめのかたちは刻々と変わり、大人の眼からは、どんどんと見えづらいものになっていきます。SNSや携帯が悪いわけではありません。あまりにも、子どもが置かれている環境がストレスフルになっているからです。

 しかし変わらないこともあります。それは周囲に理解者が一人でもいれば、本人の気持ちはちがうということです。理解者が親や教員ならばなおのこと心強いでしょう。

 子どものいじめはすぐの解決が難しいです。グループ全体、教室全体を巻き込んだ負の連鎖が影響していることも少なくありません。拙速な解決を求めて子どもをいじめの渦中に置くよりも、しばらくは学校を休ませるなど、子どもの安全と休息を第一に考える必要があります。ぜひ、いじめだと気がついたときは、子どもの気持ちに寄り添ってもらいたいと思います。(文/石井志昂)

このニュースに関するつぶやき

  • そもそもいじりってのは、信頼がある人間同士の間で成り立つもので、一歩的にやってるのは自己満足。DVしてる奴の愛と一緒の原理だわ。
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  • 「いじり」が通用するのはお互いに「いじり合える」かどうかだよ。一方的なのは「いじり」ではなく暴力です。
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