鈴木杏が一人芝居に挑戦 舞台「殺意」に感じたコロナ時代との共通点

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2020年07月11日 11:30  AERA dot.

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写真鈴木杏(すずき・あん)/1987年生まれ。東京都出身。96年にドラマデビュー。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍。2012年に映画「軽蔑」で第26回高崎映画祭最優秀主演女優賞、17年に舞台「イニシュマン島のビリー」「母と惑星について、および自転する女たちの記録」で第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど受賞歴多数。 [撮影/加藤夏子 ヘアメイク/菅野綾香(ENISHI) スタイリスト/和田ケイコ 衣装協力/AOI WAKANA]
鈴木杏(すずき・あん)/1987年生まれ。東京都出身。96年にドラマデビュー。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍。2012年に映画「軽蔑」で第26回高崎映画祭最優秀主演女優賞、17年に舞台「イニシュマン島のビリー」「母と惑星について、および自転する女たちの記録」で第24回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど受賞歴多数。 [撮影/加藤夏子 ヘアメイク/菅野綾香(ENISHI) スタイリスト/和田ケイコ 衣装協力/AOI WAKANA]
 常に新しいチャレンジを続けている女優・鈴木杏さん。自粛期間が明けて立つ舞台は、初の一人芝居。大衆主義の愚かさを描いた三好十郎の作品が、“withコロナ”の今上演されるのは、運命だろうか。

【前編/鈴木杏「今がチャンス」 コロナ自粛期間に始めた2つのこと】より続く

【鈴木杏さんの写真をもっと見る】

杏さんが出演する舞台「殺意 ストリップショウ」は、劇作家の三好十郎が1950年に発表した、一人のダンサアが語る衝撃的な半生の物語だ。演出を手がけるのは、ここ数年は年に1本のペースで杏さんとタッグを組んでいる栗山民也さん。この作品については、2年ほど前に、栗山さんから、「2020年に、大変なやつをやる」とぼんやりした情報だけを耳にしていた。

「『壮大な話なのかな? 歴史物かな?』などと勝手に想像していたんです。でも蓋を開けたら、その“大変さ”は、私の想像をはるかに超えていました。三好十郎さんの作品をたくさんは見ていませんが、毎回、今とはまた違う景色が浮かび上がって、言葉の美しさや持つ力に感動するんです。三好作品への憧れもあったので、『やります!』って言っちゃいましたけど、できるできないはさておき、飛び込んじゃうというのは私の悪い癖ですね(笑)」

 戯曲と観客の橋渡しの役目を果たすのが役者だと思っている。一人芝居だろうと群像劇だろうと、戯曲が伝えたいことを客側にどう手渡すかに必死になるのは同じだ。ただ、一人芝居の稽古をしていると、相手役がいるときよりも、セリフの一つひとつが、より作家の魂の言葉であると痛感する。

「稽古そのものは、いつもとあまり変わらないです。ただ、ずーっと出番なので、ずーっとしゃべってるな、ずーっと稽古しているな、という感覚はあります。私の場合は10代から演劇界に入れてもらっているので、スタッフさんも含めて、親戚の人みたいな感じなんです。(演出家の)栗山さんもそうです。最初は萎縮してしまう部分もありましたけど、あっという間に、お父さんというかおじさんというか(笑)。舞台の稽古って基本的に恥をかく場所だから。恥ずかしいところを散々見られていると思うと、今更カッコつけなくてもいいし。自然体でいられる場所だなって。一人芝居だけど、スタッフさんは大勢いるので、稽古のときは一人じゃないんです」

 杏さんが初舞台を踏んだのは、16歳になる年のことで、演目は「奇跡の人」。ヘレン・ケラー役だった。

「そのときはセリフがなくて、同じ年の秋には蜷川(幸雄)さん演出の『ハムレット』の舞台に立っていました。だから、初めてのセリフがシェイクスピアだったんです。当時から毎回、“できないことをできるようにしていく”。それをひたすらやっていて、無我夢中で、目の前にある壁を登って、今またここにいる感じです」

 舞台女優としての、大きな目標があるわけではなかった。ただ、コツコツと修練を積み重ね、毎日の生活の中に、稽古や本番がある。映画のように、どこか遠い場所で撮影のためだけに時間を費やすのでもなく、ドラマのように、一日の時間が断片的に切り取られていくわけでもなく、舞台のときは、朝起きて稽古に行って、終わったら家に帰る。暮らしと地続きにある、その日常性が性に合っていた。

「朝起きて、体を動かしたり、食事をしたり、掃除や洗濯なんかをして、決まった時間に家を出て、決まった時間に稽古場に着いて、だいたい決まった時間に終わる。本番も同じで、劇場入ってアップして、ご飯を食べて、メイクして、本番。それを毎日繰り返す、コツコツした感じが好きです。稽古が終わればスーパーに寄って、自分の家でご飯が作れる。自分の生活も確保しながら仕事もできる。学校に行っていた頃は、それなりに忙しかったけど。でも、空いている時間にやりたいことをできるのが舞台。人と会う約束もできるし、先のスケジュールがわかるので、予定が組みやすい。そういう、シンプルな理由で、私は舞台が好きなのかもしれません(笑)」

 今回、新型コロナ感染症の影響で、3月から6月にかけて、ほとんどの劇場がクローズした。「殺意〜」は、いわゆる“withコロナ”期に、先陣を切って開催される舞台の一つとなる。もし、この時期に上演される運命だったとしたら、そこに込められたメッセージは、どう今の時代とシンクロするのだろうか。

「私がこの戯曲を読んで思ったことは、人の感情というのは、いつの時代も変わらないということです。人の心が動いている様が描かれているので、最後は、『人間とは?』というすごく本質的な問いを突きつけられる気がします。一人芝居ですが、人とは何か、命とは何かを覗いていく感覚は一緒だなと思います。もう一つ、この戯曲のすごいところは、人が、生きている間に感じる、おおよそ全ての感情が描かれていることです。誰かを愛しく思うこと、恥じらうこと、憎むことだけでなく、殺意が芽生えたり、人を蔑んだり、自分を蔑んだり。善とか悪とか、そんな単純に分けることのできない、あらゆる気持ちがそこにある」

 タイトルにある“ストリップショウ”というのも、杏さんが演じるダンサアの美沙(役名)の職業である“脱ぐ”という行為が、“心のストリップ”にもかけてある気がするのだとか。

「ホン(台本)が進むに連れて、一枚、また一枚と、美沙の本質がめくれていく感じがあります」

(菊地陽子、構成/長沢明)

※週刊朝日  2020年7月17日号より抜粋

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